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 こうして手元を見るとなかなか頑張った気がするの。

 

 わたくしの机に並べられた書類の数々や、魔法で記録された映像の素をリオス様とステフと共に眺めながらニヤける顔が隠せない。

 リオス様は変装して子爵家へ、わたくしはフリオス殿下の政務の手伝いと言って執務室へ。子爵家は少々手こずった様でしたけど、保管の仕方も碌に出来ない殿下の執務室なんて、机に無惨にも重ねられた紙の中から探し出すのは容易だったわ。


 クッキーの成分から検出された違法薬物の特定、その違法薬物の密造に関する書類や契約書。それに……国営領地の分配、納税の見直し……こんなふざけた内容にサインしたって自分で気付いているのかしらね。


 訳も分からずサインしたんでしょうけど、違法薬物の輸入解禁書……こんな物、たかが第二王子の承諾だけで通る訳ないのに。概ね地位が上がった時スムーズに始められるように、ってところかしら。

 


「あのヴィオレティ様……明日ダンデリオンに行ってきます。そろそろレベンディス殿下にお話しすべきだと」

「……そうね。わたくしは会っていただけないかもしれないから」

「そんな事はありません! むしろ俺が切られる覚悟でダンデリオンに行くのです」

「いいの、所詮悪役令嬢が幸せになる道なんてなかったと思えば気が楽よ」


 わたくしは、その手を離した。

 王宮に出向いた時に話したリオス様との会話……


 ――――――――――


「ここに運ばれる大半は独身の者ばかりだ……寮か?」

「ありえますわね、次の休憩で少し出て参ります」

「必ず護衛を付けてくれ。レベンディス殿下からも耳が痛いほど言われている。それと、一つ分かった事がある。実は、カフェア殿下の魔力切れを利用してヴィオレティ様、貴方の魔力を奪うつもりらしい。どうか気をつけて――」

「いいえ、その計画に乗りましょう」

「し、しかし……」


 患者を回復させながら、こちら側の計画も練った。

 限界まで魔力を使えば、わたくしはどうする事も出来ないわ。それなら計画をリオス様と共有して助けて頂いた方が得策。

 魔力を一時的に封印する薬がある事は以前から知っていたから手配をお願いするとして、どうやってわたくしから魔力を奪うのかしら……。どんな方法だったとしても、カフェア様へ魔力を使ってから何かされるまでの間にその薬を飲まなければいけない。最悪、二度と魔力を使えない覚悟もしておかなければいけないのね。


 レベンディス様に打ち明けるか否か……。

 魔力が失われた間は封印薬できちんと封印出来ているか本当に失ったか判断出来ない。リスクがある以上絶対反対されるのが目に見えてる。それに、本当に魔力を失ってる可能性があるならレベンディス様を振り回すわけにはいかない……。

 これでいいのよ。留学だって来ないでほしいと望むほどレベンディス様の幸せを願ったじゃない。

 

 自由に泳がせて得られる証拠全てを押さえれば良い。

「とにかく無理はなさらないで下さい。一旦この事はマクリス公爵のみ伝えておきます。時期を見てレベンディス殿下に必ず伝えましょう」

 

「わかりました。それでお願いします」


 ――――――――――


 目が覚めれば確かに魔力が身体の中にない事がすぐ分かったわ。これが封印されたのか、本当に魔力を奪われたのか判断はつかないけど、それは解除薬を飲むまでは誰にも分からないもの。

 リオス様は、今は解除薬が用意出来ないと仰っていたからしばらくはこの状態。


 

「ヴィオレティ様、仕立て屋が来てますが宜しいですか? また後日でも……」

「俺はもう行くからどうぞごゆっくり」

「レベンディス様に……いえ、やっぱり良いわ。リオス様道中お気をつけて」


 玄関で見送ったその足で仕立て屋の待つ部屋へ向かった。卒業パーティーが近い事もあって、お母様が呼んでくれたみたい。ついでにロドニーの服も何着かお願い出来ないかしらっ!


 わたくし、流行には敏感だけど浪費しないのよね。ドレスだって着回すし、宝石だってあんまり興味ない。だから隣に座るお母様がどんどん決めていく様をただただ見守るだけ。

「もっと欲を出して良いのよ? 着飾る事もお勉強なんですからねっ」

「お母様……わたくしは一つあれば十分ですわ」

「分かってないわね〜……いい? お金を使うということは経済を回すという事なんです。職人や細工師、生地を作る人に仕立てる人、延いては農家の方々がどうやってお給料を得るか考えてご覧なさい」

「確かに……。お金を回すことも大切ですね……」

「そうよ、自分たちのために使うお金もあるし、施設や領地に還元するお金もあるの。上級貴族としての義務の一つよ。だから、お金を手にしたら多くの人のために役立てなさい」

「ふふっ、お母様らしいですね。わかりました、それならデザインはお母様にお任せするから、生地と宝石はわたくしが選びます」

「仕上がりが楽しみになるわっ」


 心の底では分かってるの。

 わたくしがあの手を離したのに……一番に美しいと思った生地を諦めきれなくて選んだ深い青色。一目でレベンディス様の瞳のようだと感じた。他の生地に目が行かなくなるくらい綺麗だと思った。どうせ、留学を取りやめたレベンディス様が卒業パーティーに来る事は無いのだから、わたくしが選んだ生地の理由なんて……何でも良いのよ。


 ドレスが届くまで二週間。

 卒業式までは、そこから二週間。

 つまり一ヶ月後には卒業式と卒業パーティーが待っている。結局ここまで婚約破棄もされてない。

 最近アヤネ様に会う機会が減ってしまったことも気掛かりだし、わたくしから連絡を取ってみても良いのかしら。卒業パーティーで断罪となったらヒロインは必須でしょ? もし気が変わってフリオス殿下を選ぶなら、わたくしはその背中を押してあげる……それがアヤネ様の幸せに繋がるならば……。

 アヤネ様の幸せも、わたくしの幸せもどこかに繋がるかしら。

 

 

 せめて最後の思い出に青を纏っても怒られないなら、少しだけ堪能させて。本当に……これで気持ちに蓋をするから。

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