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兄弟の意地

 こうも俺の思い通りに行くなんて……俺にもこんな才能があったなら父上にとっても良い誤算だろ?

 

「なぁ子爵。俺の計画通りだろ? カフェアが魔力切れになったところで、ヴィオレティがしゃしゃり出てくるのは想定内だ。国一番の魔力量を補うなど無謀な事でも注ぎ続けると分かっていたからな」

「仰る通りです、さすが殿下! アヤネが夢中になるのも頷けますとも」


 まさかヴィオレティなんかが回復術を持つなんて最初は予想外だったが……逆にそれを利用してしまえば、アイツの魔力を奪ってやるなんて簡単だった。

 とにかく俺が欲しいのは、この国でも世界でもない。この腕に堂々とアヤネを抱いて、俺の溢れ出る計り知れないこの愛を注いでやることだけだ。熱く抱きしめて、二度と俺のそばから離れられないように縛り付けて愛を注ぎまくってやる。


 魔力がなくなったとは言え、今ヴィオレティと婚約を解消するわけじゃない。そんな事をすれば、また父上に当てがわれる令嬢が目障りになるだけだ。それなら、アヤネが俺に相応しいと証明されるその日までお飾りの婚約者として扱った方が楽だ。

 とは言え、卒業パーティーと同時に結婚式の日取りが発表されてしまう。どうせなら俺に相応しいのはアヤネだと、大勢いるパーティーで盛大に婚約破棄を宣告して手と手を取り合った方がアヤネも喜ぶ。それに、アヤネの素晴らしさを父上にも披露できるなら一石二鳥だろ?

 国政? そんな面倒なものはカフェアがやればいい。俺は王太子の位なんていらない。アヤネと一生楽して、贅沢に一日中愛し合って過ごす。それだけだ。


 今思えば、違法薬物なんて物騒な物を売買してる現場に居合わせたのは僥倖だった。

 ヴィオレティに飲ませようと探した魔力減少薬を子爵が持ってるとは夢にも思わなかったし、まさか俺が好んで食べてたアヤネから貰うクッキーと組み合わせると威力が上がるなんて俺の功績以外の何者でもない。

 いつもあの鮮やかなクッキーを食べると身体が熱くなったから、不思議な力があると思ってはいたが……話しを聞いた子爵が、同じ様に減少薬を混ぜたクッキーを作ってくるとは思わなかった。

 商人を金で買ってクッキーを卸させ、寮の者達に実験台になってもらったまでは良い。


 誤算は、魔法士団の要請でヴィオレティが城にいた事だ。

 回復術? ふざけやがって……俺にはいつも何も……言わない。これ以上俺が劣等感を抱かなくてはいけないなど、許さない……。


 まぁ上手くいくに越した事はない。

 俺が関わるなんて他の奴らに知られる事はないし、証拠なんてないんだから問題ない。……とは言え、子爵が捕まるのは体裁が悪い。

 計画は遂行されたし、アヤネが無事俺の婚約者になる頃までは俺の用意した場所で息を潜めてもらうとしよう。アヤネが王家の婚約者となれば少しは子爵の位を上げる理由付けにもなるだろうし……。


 しかし……最近、アヤネの態度が以前に比べ余所余所しいのは何故だ。それもこれもヴィオレティがいらぬ事を吹き込んだせいだろう。本当目障りだ……。


  ――――――――


「父上、なぜフリオスとヴィオレティ嬢の婚約を解消しないのですか! もう良いでしょう……彼女は散々フリオスに苦しめられ、魔力もなくして、これではあんまりだ!」


 私自身の体調が回復した後、一連の出来事を全て聞いた。この身体に流れる温かい魔力がヴィオレティの魔力だと分かると、助けられた感謝よりも彼女の魔力という名の灯火が失われた事に言葉も出なかった。

 

 あの日、私の目の前に置かれた鮮やかなピンクのクッキーと紅茶。それは、偽りの笑みを浮かべたフリオスの差し入れだった。食べた瞬間の視界の揺らぎと気持ち悪さ……。揺らぐ中に歪むフリオスの酷薄な笑み。しまった……そう思った時には、もう遅かった。


「ヴィオレティ嬢の魔力が戻れば何の問題もないはずだ。あれだけの魔力と回復術の持ち主ともあらば王家の繁栄に欠かせないのはお前も分かるだろう! フリオスにはしばらく大人しくするように命ずるから、お前は何もせず回された政務を片付けろ」

「そんなっ……私を狙い、婚約者の魔力を奪ったのもフリオスに決まって――」

「黙れっ!」

「父上!」

「証拠もないことを騒ぐな!」


 フリオスに詰め寄る隙も与えられず、徹底的に避けられた。何故、心優しいヴィオレティ嬢がこんな目に合わねばならないんだ。そして、どんなに無力なのか思い知らされる。

「カフェア様……」

 顔を覆って下を向いていた私にそっと声を掛けたのは、婚約者のラディ……。

「ラディ、私はどうしたら良いんだ。人一人守れないで国を守るなんてどうかしてる……」

「今、レベンディスが動いています。どうかそう肩を落とさないで、今ご自分のやるべき事をなさって下さいませ。わたくしはいつでもおそばでお手伝いしますから」

「レベンディスが? 留学を取りやめて帰ったじゃないか」

「帰ったから動けるのです。レベンディスは諦めていませんよ、ご本人は存じないと思いますが……ヴィオレティ様のために最善を尽くしていますから」

「ラディ……私にも何か手伝わせてくれ……」


 私は知らなければならない。

 この問題の解決の仕方も、気持ちの整理の付け方も。


 ラディから聞く限り、大国ダンデリオンなら失われた魔力の修復に纏わる文献があるかも知れないと読み漁っているんだとか。それに、フリオスの所業だと検討を付けて証拠集めに動いていると言う。そんな証拠集めこそ、ここプロステートにいなければ出来ないだろうに……上級魔法の使い手であるレベンディス自身であらゆる手を使っているのだろう。


「わたくしも諦めませんわ。親友の一大事ですもの、カフェアの隣に立っても恥ずかしくない妃になりたいの。だから……カフェア、ひとつだけわたくしのお願いを聞いて下さらないかしら」

「……私は、レベンディスとラディを信じる。何でも言ってくれ」

 

「では、わたくしをアヤネ様に合わせてください」

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