開花した別の顔
またゲームとかなりズレて来た気がする。
「ヴィオレティ〜さまぁ〜」
「アヤネ様、少々声が大きいわ……」
「へへっ」
可愛らしい顔をしたヒロインは今、わたくしにとても近い! 近いと言うか、べったりになった。
今までは、授業の休み時間や放課後はとにかくフリオス殿下やコルノ様、トミー様と行動されてたのに今やわたくしと過ごす時間の方が長いような……。ほらっ、わたくしが殿下に睨まれてるじゃない!
「アヤネ様、本日こそ殿下のそばに行かれた方が……」
って、仮にも婚約者のわたくしがなぜ後押しして差し上げなくてはいけないのよ。
「もういいんですっ、それに……ゲームで大好きだったレベンディス様と一緒になりたいなってずっと思ってたけど、ヴィオレティ様に夢中って感じだし私は私の幸せ探そうかな〜って」
「……フリオス殿下と何かあったの?」
「…………」
何かあったの? なんて聞いたけど、レベンディス様と消えた後のことを間者伝いに聞いた時は……正直血の気が引いた。
――――――
「あ〜あ行っちゃった。やっぱレベンディス様はヴィオレティ様にベタ惚れだよね〜……」
ヴィオレティ様の配慮で、連れて行かれたのはあの暗殺者だけ。私だけまた一人ぼっちになっちゃった。つまんないの……しょうがないから叔父様探してお家に帰ろう。
迎秋会の会場に戻ったら、私目掛けてフリオス様が走って抱きしめた。
「フッ、フリオス様!?」
こんな大勢人がいて、何なら国王陛下がいるような所で! ってトキメキが生まれるかと思ったけど。
「探したんだぞ! このドレスを着てレベンディスと歩くなんて良い度胸してるじゃないか」
「ひっ……」
力強く握られた腕と軽蔑や嫉妬にまみれたフリオス様の顔がヤバい! 何これ……こんなスチル見たことないんだけど、なんか……ヤンデレ……っぽい……。
「お前には俺だけだろ!? このドレスの意味わからないのか!!」
こ、怖い……。今まであんなに甘やかしてくれたのに、なんでこんな……。
「こっちに来い!」
「嫌っ、痛いよフリオス様っ」
無理やり引っ張られた挙句、開かれた扉は灯りのない薄暗い部屋。引っ張られた勢いでベッドに倒れ込むと、上から覆い被さるようにフリオス様の身体に固定されてしまった。
「ねぇ、どうしたの? いつものフリオス様じゃないよ!? ねっ、やめて」
「はっ……やめないよアヤネ、約束しただろ?」
約束って何!? ……あっ……
「夜会が終わったら俺のところに来いって言っただろ? 忘れたなんて言わせないぞ。ほらっ」
クイっと顔を掴まれ、あっという間にこの世界でのファーストキスが終わった。
「んんん……やだっ、ん……」
何度も何度も無理やり角度を変えて唇をこじ開けるようにキスされた。必死に手で胸元を押して抵抗したけど、びくともしない。これ、ヤバいやつじゃん! って頭では分かってるんだけど、キスと息継ぎで叫び助けも求められない。
「あっ……!」
ドレスを胸元からむりやり剥がされ露わになった胸元に、フリオス様が口を思い切り咥え込んで痛みに声と涙が出た。やだやだ……こんな初めてヤダ……。
ドンドンドンドン!!
「フリオス殿下! 入ります!」
扉を激しく叩く音にフリオス様の手が止まった隙をついて布団を手繰り寄せた。
入って来た人たちがフリオス様をベッドからおろしてどっかへ連れていっちゃった後、涙でぐしゃぐしゃになった私にどなたかがハンカチを渡して「こちらでお待ちください」って。
「……怖かった……グスッ、グス……」
布団にくるまったまましばらく泣いてから、ドレスを直して、慌てて飛んできた叔父様に抱えられてお家に帰った……。
――――――
「…………」
「そういえば、アヤネ様魔法はお好き?」
「えっ、嫌いじゃないけど上手く出来なくて」
「宜しければ、わたくしが懇意にしてる先生がおりますの。魔法のレベル上げませんか? ご自身の身を守る事もできますよ」
「……! レベルが上げれるなら嬉しいです」
「先生に聞いておきますので、明日改めてお伝え致しますね」
わたくしの真意はきっと伝わったでしょう。正直、ヒロインのレベルとは思えない程低い。フリオス殿下の所業からしても、レベルを上げて身を守れた方が良いに決まってるわ。それに、懇意の先生は即ちリオス先生のこと。きっと今のアヤネ様なら力になってくれるはず!
善は急げ、と思ってリオス先生を訪ねに職員室へ来たけど……どうやらしばらくお休みされてるみたい。確かに最後に受けた授業は先月だったかも、と思い返して側にいた先生に「リオス先生は次いつ授業されますか?」と聞いてみたけど……どうやら魔法士団で不足の事態になりしばらくお休みだそう。
魔法士団で人手が足りないなんて今まで聞いたことがないわ。だって、このゲーム世界には魔物もいなければ、隣国との戦争が起こるようなストーリーもないはず。
でも、ここはすでにストーリーが崩壊した現実世界だという事を思い知らされたのは、程なくしてのことだった。




