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早く呼んで

 今日こそヒロインパワー見せつけてやるんだからっ!


「アヤネ、またフリオス殿下から荷物だぞ」

「はぁ〜い……って! 新作のドレスじゃんっ」

 ふわっと広げた光沢の美しい黄色いドレスとチョーカーがセットになって、殿下のメモまで入ってる。

「え〜っと以前マクリス領に行った際に頼んだ品だ、だって」

「マクリス領だ!? 超一流店のドレスじゃないか! アヤネ、ぜ、絶対に汚すんじゃないぞ!」

 

 なんで叔父様がそんなに慌てるのよ。別に汚すようなマヌケじゃないし。

「準備しよ〜」

 まぁ目的はレベンディス様だけどドレスが誰に贈られたかなんて関係ないもんね。可愛いドレスを可愛い私が着るだけなんだからっ! レベンディス様褒めてくれないかな〜。


 

 そうして叔父様とやってきた迎秋会だけど、レベンディス様どこにもいないっ! どこにいんのよ。

 しらみ潰しに会場中探しまくったら、小さなバルコニーに一人でいるレベンディス様をついに発見! 自然を装って「あっ……先客がいらっしゃったのね」って声を掛けたら一瞬目を見開いたけど無表情のまま、また外を眺め始めちゃった。

 

 はぁ〜それにしても眼福……ヤバっ、カッコいいんですけど! やっぱゲームより生だよね、生!!

 照れてるのかな? な〜んてね、誘導するように話しかけなくちゃ。頭の中にはゲーム画面も流れも完璧に入ってますからっ。


「こんな所にいたら身体が冷えてしまいますわ」

「…………」

「それか、ここでご一緒しても良いかしら?」

「…………集中できない」

「えっ?」

 ちょ、ちょっと小声すぎて何言ってるか聞き取れなかったじゃない! えっと……

「庭園を一緒に見て回りませんか?」

「…………あっちからなら気配を辿れるか……」

「気配?」

 ねぇさっきから会話噛み合ってる!? ちっともこっち見てくれないし!

「レベンディス様と庭園を歩きたいです!」

「…………わかりました」


 やった!! やっと振り向いてくれた! テンション上がりつつ冷静に「行きましょ」って手招きして庭園に降りたまでは良いんだけど。

 何かを探すように目線を動かすから、私と全く目が合わないし会話にならない! あぁ〜好感度上がるクッキー持ってくれば良かった……。


 歩いた先に、開けた芝生とベンチと街灯が見えてピンっと来た! こ、ここ! ここでお互いを名前で呼び合うとホタルが出現するスポットだよぉ! 私の予想通りヴィオレティ様に刺客を向けられなくても、ちゃーんとここに辿り着けるんじゃんっ。

「レベンディス様っ、私特別な魔法が使える特別な女の子なんですよ」

「特別な魔法?」

 よしっ、食いついた!

「そっ、私にしか使えない魔法」

 レベンディス様と向かい合わせになるように立って、ニコっと微笑むけど……本当笑わないんだよね最初。

 

 なんかこっちに視線を感じて横目でチラッと見えた先に、良い感じに地面に這いつくばるヴィオレティ様が見える! あら〜刺客に追われてここまで来ちゃったんだ〜……でもちょうど良いやっ。見せつけちゃお!


「教えて欲しいですか?」

「……えぇ」

「じゃぁ私の事を一回だけで良いから『アヤネ』って名前で呼んでください」

「…………」

「お願い……」

 目を潤ませて、上目遣い攻撃に少し胸元を強調して手を組んだら、レベンディス様の手が私の頬に近づいて来た! ヤバいヤバい! きゃ〜レベンディス様〜……


 パチンっ!

 耳元で弾かれた指の音に驚いて目を瞑っちゃった。もしかしてキスまでされちゃうの!? ……っていつまで経っても触れられないからと目を開けたら……いないじゃん!!

 どこ、どこに行ったのよ!?


 まさかっ!

 慌てて振り向いたヴィオレティ様の方向には、刺客を取り押さえてヴィオレティ様のそばに跪くレベンディス様の姿が目に入った――

 

 あと少しで……あと少しでレベンディス様が私のモノになるところだったのに!! どうしていつもいつも、悪役令嬢なんかに邪魔されなきゃいけないのよ……! 今日と言う今日こそ白黒ハッキリさせてやる。私のための物語で、私だけのレベンディス様なんだから悪役令嬢なんかに邪魔されるのは今日でお終いにしてやるんだから。


 ドレスを少したくし上げてヴィオレティ様目掛けて歩き始めた私の脳内は、このあとどうやって私の名前を呼んでもらうかで頭がいっぱいだった。名前を呼び合えないとホタル出ないなんて、ゲーム作った人もうちょっと考えてよね……普通に庭園に歩いて向き合った所で出現させてくれてもいいじゃん。まじ無駄な労力使わなきゃいけないの本当嫌い。


 そしたら、遠くの方でポツ……ポツポツ……小さな光が瞬く間に溢れ始めた。

 ……ねぇ、なんでホタル出現してるの……?なんで私の周りじゃなくて、悪役令嬢とレベンディス様の周りに溢れてるの……? 違うよね? これじゃないよね?


 だって……ヒロインのためのホタルでしょ?

 悪役令嬢が魅了魔法とか意味わかんないでしょ? 私のための物語を横取りなんて、絶対許さない。


 

 ――――――――


「何っ!? アヤネが消えただと? あのお転婆娘……」

 

 フリオス殿下に呼ばれた別室で例の書類にサインを貰ってる最中だというのに。

「アヤネが消えたとはどういう事だ! ここに呼んでくるように伝えただろ!」

 

 仕方ない。会場のどこにも見当たらないアヤネを執事に探させる間に書類さえ整えられれば……!

 ここには過去に廃貴族から没収された現在の国営領地を分配する誓約書と、領地収入や納税の見直し、それに我が国では未だ違法とされる薬物の輸入解禁書も含まれる。

 こちらが勝手に用意したとは言え、フリオス殿下相手に、アヤネを餌に王太子になれると唆せば簡単な事だ。このまま上手く行けば、殿下がいずれ王太子……いや国王となった際、我々の悲願は達成されるんだ。

 いつまでも上位貴族にバカにされたままで終わると思うなよ……!


「これにサインすれば良いのか? 内容は――」

「あ〜いやいや心配には及びません、アヤネとの婚姻がスムーズに行くような内容ばかりですから」

「それなら良い。お前に頑張ってもらわないと位を上げられん」

「必ずご期待に添えますので、その暁にはどうぞどうぞアヤネを幸せにしてやってください」


 よく内容も確認せずスラスラ書かれる気持ちの良いこと。

 書かれた書類と引き換えに例の粉薬を包んだ薬袋をそっと添えた。ニヤっと不気味な笑みを浮かべるフリオス殿下に鳥肌が立つ。この人はこんな顔もなさるのか……と。


「アヤネ様を見つけました」

 ノックされ扉を開けた執事からの報告を聞いて立ち上がったフリオス殿下がどこかと尋ねるが、渋る執事の胸ぐらを掴み始めた。

「どこかと聞いているんだ!」

「そ……それが、庭園を……」

「庭園か、俺が直々に迎えにいってやろう。子爵、計画通りに頼むぞ」

「かしこまりました」


 そうして密談が終わって安堵するかと思いきや、執事の口からとんでもない言葉が出始め、私の顔が青ざめるのも時間の問題だった……。

 今、なんと? アヤネが誰と歩いていたと言うのか? レ……レベンディス殿下だ……?

 犯罪に手を染めてまで手に入れたいアヤネが他国の王子といるところを万が一フリオス殿下に見られでもしたら……マズイ!

「すぐフリオス殿下を引き止めてこい! 早く!」

 執事の後を追うように、書類を片付け小走りに庭園へ向かう廊下に立って一点を見つめる殿下は拳を握って先ほどと同じように不気味な笑みを浮かべている。

 視線の先にいるアヤネがレベンディス殿下と向かい合い笑いかけている様は……遅かったと思わざるを得なかった。


「殿下……これは、なにかの――」

「いや良い、アヤネは必ず私の元に戻ってくるのだから。あとでしばしアヤネを預かる」



 その後の出来事をアヤネが泣きながら告げてきた時は、自業自得だと叱った。フリオス殿下から贈られたドレスで他の殿方と二人きりになるなど淑女として有るまじき行為だ。計画が達成されるか否かは正直こいつに掛かってると言っても過言では無い。

 頼むから少しは役に立ってくれよ――


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