厚顔
確かに、リオス先生は言ってたわ。
レベンディス殿下は留学されるって。どうしても避けたかった再会なのに……。
「どうしてよ……どうして、いつもいっつも……私じゃないのよぉーーー!」
レベルが上がったレベンディス様にこれから何度驚かされるのかしら。微かにわたくしが聞き取れる程度の声で「停止」を告げた。時間操作の対象範囲はその人の力量次第だけれど、確実にわたくし以外の時間が止まったと分かる。
「ふぅ……。ヴィオレティ怪我を見せて」
「レ、レベンディス様っ! わたくしは大丈夫ですわ、それより……ありがとうございます。また助けて頂いて何とお礼を申し上げれば良いか」
「…………ヒール」
「あっ……」
ズキズキした足首の痛みが取れた。別に隠してた訳じゃない、後で自分で何とかしようと思っただけ。ドレスで隠れて見えない腫れなんて気付くはずないのに。
「あ……ありがとうございます……」
そんなに見つめられたら穴が開いてしまう! そう思ってしまう程に黙ったままわたくしを見つめるその瞳は、あの頃と変わらず綺麗だと思った。
聞きたい事がたくさんあるし、見つめられた目を逸らす事も出来るはずなのに……吸い込まれるように見つめ合ったのだと思う。
「そっ、そろそろ時間を戻すけど……少し力を借りても?」
「も、もちろんですわ」
時間を元に戻すと共に転移魔法でわたくし達とロード様、友人たちを劇場の控え室に飛ばした。
たぶん、アヤネ様の暴走しそうになった魔力はレベンディス様が抑制魔法で抑え込んだから大丈夫なはず。呆気に取られる顔が目に浮かぶわ。
でも……確かに、わたくしがヒロインの立場だったら、なぜ悪役令嬢ばかりをレベンディス様が構うのか訳わからないと、思う。まぁ、ヒロインだったらもう少し上手に立ち回ってると思うけど。
「ヴィオレティ様が無事で本当に良かったです……そ、それに……まさかロード・デズモス様にお会い出来るなんて」
目がハートマークになった友人たちは、各々ロード様へ劇の感想を口にしている。何せ素敵な劇だったもの! わたくしも感想を――
「良かったなレベンディス! 彼女たちにも君の淡い思い出が共感されたようで」
「お、おいっ!」
レベンディス様の淡い思い出? ふと見たレベンディス様が顔を染めて口に手を当てたのを見て、思わず可愛いなんて思ってしまった。
「ヴィオレティ嬢にとっては懐かしい思い出だったでしょ?」
「…………えっ?」
「ほら、劇中で魔法が使えない主人公にヒロインが寄り添ったり、舞踏会で飲み物をこぼされそうになったところを助けられたり」
「…………!」
どおりで懐かしくて「ん?」ってなったはずだわ! わたくしとの思い出……? あの三日間を元に作った劇ということ?
「きゃぁぁー! ヴィオレティ様とレベンディス殿下の物語だったのですか? こ、これは大ニュースだわ!」
「どうしましょっ! わたくし達のヴィオレティ様とレベンディス殿下の恋物語だったなんて!」
「私もフリオス殿下にヴィオレティ様は勿体無いと心底思っておりました。今日は素敵な一日になりましたわ」
ちょっと、ちょっと皆様!
って、レベンディス様も耳まで真っ赤にしないでよ!
「もう、それくらいにしてくれ。明日から学園なんだ、お嬢様方どうぞお手柔らかに」
「ふふっもちろんですわ! ねっ! ヴィオレティ様」
「……明日から…………」
翌日、予想通りと言うか、予想以上と言うか……それは大きな人だかりを作って朝から校内を賑わせた。
本当は、留学しないようにロード様の好感度が上がらない工夫をしてたのに、物語が崩れてしまった今その願いも虚しく崩れ去ってしまった。
「ちょっとどいてよ! あぁやっとご尊顔を拝見できた……なんて素敵なの」
「何でも、昨日劇場で見かけた生徒もいるんですって! 階段から落ちそうになった方を助けたんだとか」
色んな所から色んな声が聞こえる。
わたくしってバレてなきゃいいけど……。
それにしても、まだホームルームで担任の先生から紹介や座席の指定もされてないのに、なぜかわたくしの隣の席に座って、我関せず状態で着席したまま本を眺めているレベンディス様。
す、座りずらい……。
「わぁー! レベンディス様っおはようございます!! また会えましたねっ」
「…………」
「劇場で助けて頂いてありがとうございましたっ!」
「…………」
出たっ! さすが、ヒロイン……じゃなくて、アヤネ様。昨日の叫び声とは一変、女子高生のようなフレッシュさと、そのめげない精神には恐れ入るわ。
ヒソヒソ……
「えっ、殿下の事……お名前で……」
「劇場って、あの話アヤネ様の事……?」
わたくしが助けて頂いた話なのに、周囲にまるで自分が助けられたかのように思わせるなんて。わたくしだって気付かれたくない一方で、別の人に話がすり替わるのも何だかモヤモヤする……。なぜかしら。
〜♪
ホームルームを告げる鐘が鳴るや、今まで聞こえてた雑音が嘘のように消え、先生の挨拶と共にレベンディス様の紹介がされた。
隣の席に座ってるけど、こちらを見たり話し掛けられる事はない。むしろ近寄りがたいオーラ……。
「ヴィオレティ様、先程別のクラスの方がヴィオレティ様に渡して欲しいって持ってきましたわ」
「ありがとう……確認しますね」
漸く訪れたお昼休みにクラスメイトから手紙を受け取ったのだけど……
"放課後、中庭の噴水で待ってます"
差出人不明の手紙。
仕方なく放課後になったところで、手紙を片手に噴水へ向かった。本来であれば下校する生徒で賑わっているはずなのに……どうやらわたくししかいない。
「どういう事かしら……何かのイベント? まさか……悪役令嬢にイベントなんて起きないわ」
……ん? となるとヒロイン側のイベント?
「ヴィオレティ〜様っ」
「ア、アヤネ様?」
「ねぇ、やっぱヴィオレティ様も転生者でしょ? 変だと思ったんだよね〜……ゲームの中の悪役令嬢は、それはそれはヒロインに到底及ばないし、フリオス様ラブでずっとくっついてたし。でもさ〜今のヴィオレティ様ってどっからどう見ても優等生じゃない? ありえないでしょ」
「……わたくしがそのテンセイシャとか言う者だとしたら何だと言うのですか」
「私の幸せ邪魔し・な・い・でっ! 折角レベンディス様まで登場したんだから、これ以上しゃしゃり出ないでよ。だいたいさ何なの? 昨日だって階段からレベンディス様と消えたり、教室だってどうせあんたの権力とかで隣の席にしたんでしょ!? まじないわ……悪役なんだからフリオス様のそばにだけいればいいのよ!」
「邪魔なんて最初からしておりません」
「じゃーどうしてあんたばっかり目立つのよ! いい? これ以上レベンディス様に構うようなら、私にだって考えがあるんだから。後悔しても遅いからね。……あっ、そうそう。来週の王家主催の迎秋会イベント、フリオス様を譲ってあげるから楽しんできてね〜って言うための手紙だったの。じゃぁね」
一難去ってまた一難……。
迎秋会? 迎秋会ってイベント要素なの?




