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ただいま

 こんな弱い僕じゃ、ダメだ。守れない。


 魔法に目覚めたあの日から、何一つ妥協せずに過ごしてきた。魔法も王になるための勉強も鍛錬も何もかも、優秀な姉にも負けず毎日朝から晩まで全てを叩き込んだ。……全ては、ヴィオレティのために。


「レベンディス、お前の留学は予定通りプロステート学園とする。だが今のお前に任せたい責務がある故、それが完了してから留学しなさい」


 その責務とは、大国ダンデリオンの関所通行管理。

 往来の多い関所では、危険物や違法物の持ち込みを監視し、通行証の偽証などがないかも見極めなければならない。今まで人力の魔法で行ってきた作業を、私の開発した通行ゲートが有用か確かめてからでないと留学できない条件だ。透視魔法といくつかの魔法を組み合わせ、通行証をガラス面にかざしゲートを通る事で偽証を見破り荷物の点検も一挙に行おうという前代未聞の試みだった。

 魔法を付与した装置自体あまり存在しない為、試行錯誤の日々が続いたが更なる発展が目指せるとあれば特別力が入った。


「殿下! それでは装置の起動をお願いします」

 

 私の魔力に反応するように手をかざし小声で「開始」と告げれば、ゲートがほんのり光り始めブオンッと機械音が鳴り始めた。

「もう少しこの音を抑えたいな……。誰か通行証をかざし例の荷物を運べ」

「はっ!」

 兵士の一人がガラス面に当てた通行証は一瞬青い光を帯び、開いたゲートを荷物を持って通ろうと足を踏み出した瞬間。

 ビィービィーー!!

 ゲートが今度は赤く光って自動的にゲートが閉じてしまった。

「殿下、成功です! 荷物の中の違法薬物にも反応を示しています!」

「ここにある二台分のゲートともう一箇所の関所に設置したゲートを起動させたら城に戻ろう」

 

 しかし、課題は山積みだ。

 ゲートの運用は慣れれば今までよりも遥かに効率的になるはずだが、簡単な装置ではないため今は私のこの手しか起動させる術がない。それに万が一止まってしまうことがあれば通行を妨げ交易を損なう事にも繋がりかねない。

「留学までまだ時間が掛かるか……ヴィオレティ……」

 空を見上げれば、流れる雲が行く先に彼女がいるんだろうか……そんな事を思いながら次の関所を目指した。


 

 結果的に、改良を経て操作可能な人材を増やし、気になっていた音も若干ではあるが抑える事が出来た。あとは、魔法師団で諸々の調整が出来れば殊更有利に作動させる事ができるようになるだろう。

 

 漸くプロステートに向かえる……!

 そんな折、ダンデリオン王立劇団に所属するロード・デズモスと脚本家のビタス・ディオが訪れた。

「例の観劇がすごい人気でね! 他の国の劇団でも公演させて欲しいって依頼殺到なんだよ」

「……さすがビタス先生ですね、私のつまらない話をヒット作にしてしまうんだから」

「殿下がプロステート学園に留学すると聞いて、いっその事ロードをプロステート王立劇団にやってみようと思うんだよ。まだまだ大きくなる男だ、良い修行だと思ってね」

「ねぇレベンディス! 君のお姫様も見たいし一緒にプロステートへ連れてってよ」

「…………ヴィオレティの力になると誓えるか?」

「もちろんさ、レベンディスとお姫様の役に立つと誓うよ。そうと決まれば準備だよ先生! 実はプロステートの公演はすでに決まってるんだけど俺が行くと決まったらすぐ広報してくれる約束だったんだ。先に出立して向こうで待ってるから着いたら連絡してよ」

「……私の承諾は必要だったのか?」

「へへっ」


 私の昔話が大勢に見られるのは嫌だと一度は断ったが、ビタス先生の熱意と幼少の頃から私のそばで騒いでいたロードが主役を飾るのであればと、承諾してしまった。予想以上に話題になったようだが……私の昔話だと知られなければ、まぁいいか。

 

 一足先に出立したロードから、プロステート劇場で柿落としをしたと知らせを受けたのが先日。私ももう準備は整った。明日は父上に出立の報告をして、荷物を積み込む。


 もうすぐ会える。

 ヴィオレティは……私のことを覚えてくれているだろうか……。自信を持って彼女の前に立ちたい。ずっとずっとそう思って生きて来た。


 ――――――


「あっ、レベンディス!! 今日劇場に来れる?」

「なんだ急に」

「お前の愛しのお姫様が劇場に来てるよ!」

「……ヴィオレティに会った事あったか?」

「まぁまぁ。レベンディスが想像している以上に彼女は有名人だし。じゃ俺まだ公演中だから待ってるね〜」

 

 遠隔魔法が施されたペンダントから声が消え、私の滞在しているホテルの窓から劇場を見つけた。夏が終わり秋の寒空に瞬く星が一際大きく見える。大きく深呼吸して星を見つめた私はすぐホテルを出た。


 ヴィオレティが有名人……?

 確かにあの美しさと高い地位で有名なのは分かるが、私の知らないところで会っていたのか? それに有名人って……?

 ふと劇場への道中、目についたのは子どもたちが遊ぶ様子が写されたポスターだ。毎週末教会で子どもたちに文字の読み書きやマナーを教えている人集めのポスター。


 ……よく見れば、子どもと遊ぶのはヴィオレティじゃないか! 名前まで書かれてる……。

 

 なるほど……これが有名人の理由なのか?


 到着した時には会場から人が出始める頃で、慌てて入り口から辺りを見渡すが人が多くて見つけられる自信がない。上からの方が見つけられるかもしれないと、一番近い螺旋階段を登り切った所で一階の客達が皆同じ場所を見上げている事に気づいた。

 自分のいる場所と違う階段上で、ロードが見える。

 

「あれは……ヴィオレティ……」


 漸く捉えた私の姫だが、雰囲気がおかしい。

 ロードとヴィオレティの向こう側にいる人物がよく見えない。角度を変えて目を凝らすと、フリオスと……あの女!!

 ヴィオレティに向かって鋭く睨みつけながらも、ロードに見せる甘い顔のギャップが異様で鳥肌がたった。急がなければ、そう走り始めながらも目を逸らさず状況を見ていたが、本当に一瞬だった。

 あの女にぶつかられ揺らいだ彼女を横目に、私は何も考えず「移動」とだけ唱えていた。


「……間に合った…………」

「ど、どうして…………」


 慌てて瞬時に移動したものの、数段落ちた所で腰を抱き寄せ手摺りで勢いを殺した所まではどうか容赦してほしい。しかし……抱き寄せた腰と近過ぎる顔に、全ての思考を持っていかれ口を突いて出た「ただいま」が精一杯だった。


「ヴィオレティ嬢!!」

「ヴィオレティ様っ……」

 ロードと彼女の友人らが駆け寄って無事を確かめると涙ぐむ者もいた。それだけでヴィオレティの人柄が伺える。ロードと目を合わせれば手招きで場所を変えようと、私はヴィオレティを横抱きに抱えて立ち上がったところでユラっと空間に漂う魔力が揺らいだ。


 

「どうしてよ……どうして、いつもいっつも……私じゃないのよぉーーー!」

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