表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/44

ピンクのクッキー

 二年生になり、アヤネ様の動きに変化が起きた。

「最近、頻繁に手紙や差入れの類いを送っているようです」


 侍女であり諜報が得意なステフは、自室でくつろぐわたくしに、そう報告した。

「ありがとうステフ。引き続き何かあれば教えて頂戴。それとロード様からの手紙は来てる?」

「はい、こちらです」

 内容を確かめて、そっと手紙を下ろし安堵の息を漏らした。これなら大丈夫……と。

 

 学園でフリオス殿下のそばにいるコルノ様とトミー様は、すっかりアヤネ様の好感度アップアイテムに当てられて常に一緒にいるようになってしまった。

 アヤネ様の愚痴を聞いては、わたくしを睨むように見ているけれど実際何かを言われた事はない。というか、わたくしに直接言わず色々な方へアヤネ様からの話しをそのまま吹き込んでいるようだけど……心配した生徒がいつもわたくしに報告しに来てくれるの。


「こんな事言われてましたよ」

「宰相の息子なのにガッカリですよね」って。


 当のアヤネ様からしてみれば、悪役令嬢が一向に虐めてこない事に焦っているようで自作自演が過度になり始めた。それに、レベンディス様を早く学園に呼びたいからと、どうやら実家を通じてロード・デズモス様へファンと見せかけて差入れや手紙を劇団に送っているようで。恐らく、なかなか公演に訪れないロード様に差入れという形で好感度アップアイテムを送っているみたい。


 …………でも、残念。

 すでに手を打ってあるのよ。ごめんなさいね、アヤネ様。

 実は、学園に入学直前ラディ様を通じてすでにわたくしからロード様へお手紙を出しておいたの。

 いえ、それよりもずっと前のフリオス殿下へ求婚のお返事をした際、お父様へ同封した三つのお願いのうちの二つ目が優秀な錬金術師の紹介よ。


 アヤネ様の使う好感度アップアイテムの原料が、屋敷に自生するハートの葉っぱという事は分かっていたから、どうにか手に入れて錬金術師様に対抗薬を作ってもらっていたの。

 ダンデリオン王立劇団に所属しているロード様と何通か手紙のやりとりをして信頼を得た上で、対抗薬を服用したいと申し出があり国境近くの街で公演中の劇場にラディ様と赴いた。

 ここさえ好感度が上がらなければ、レベンディス様が留学されることはないと……思っていた。少し前にリオス様からは「レベンディス殿下は留学されるよ」って言われたけど、二年生になっても留学されないんだから案外わたくしの作戦勝ちなんじゃないかしら。


 ロード様からの手紙には、新たな公演が始まるから機会があればぜひ見に来て欲しいという内容だった。一緒に同封されたパンフレットには、一途に愛し続ける王子と秘密を抱えたお姫様の恋物語だと書かれ、ロード様とヒロインの挿絵が美しく描かれていた。

 さすが人気俳優、ビジュアルもバッチリね。


 ただ、わざわざ観劇のためだけにダンデリオン王国を訪れる事は少々難しいわ……。学生なら尚のこと。

 人気舞台になれば各国を回る事もあるでしょうから、それを期待しようかしら。でも、そうなるとアヤネ様が一層張り切る様子が目に浮かぶ。


 ――――――――


 ピンクのクッキーにはご用心。

 

 突然、ラディ第一王女殿下が観劇に訪れた際にそう言って僕に一通の手紙を渡して帰られた。

 手紙の差し出し人は、思いもよらずプロステート王国のヴィオレティ・マクリス嬢じゃないか! 僕の中ではかなりの有名人だ。……それもそのはず、親友であるレベンディスから耳にタコと言うほど聞かされた名前だから。


 手紙に書かれた内容は、ヴィオレティ嬢の自己紹介に始まり、僕への応援メッセージ、そして人の感情を操る食べ物で僕を狙っている可能性がある事が書かれていた。すでに数名が口にしていると聞けば少々気味が悪い。

 ピンク色の差入れに注意すれば大丈夫と書かれていたが、対抗薬もあると書かれている。

 ただのファンから届いた手紙ならきっとスルーした内容も、ラディ王女やヴィオレティ嬢となると話しは別だ。一度だけお会いしたヴィオレティ嬢は、その美しさたるや一目で心を持って行かれ、これがレベンディスの想い人でなければすぐにでも跪いていたかもしれない。飾りの少ないシンプルなドレスをこんなに淑やかに着こなす令嬢は初めてだった。


  対抗薬を飲んでしばらくした頃、差入れを開けていた中にそれはそれは鮮やかなピンク色のハート型クッキーを見つけた。「これだ!」と思った僕は、興味本位で一口だけ口に含んでみたんだ。

 

「マズっ」

 

 甘すぎるそのクッキーは、そもそも僕の口に合わなかったのか対抗薬のおかげなのか全く美味しくないという理由で処分した。美味しくないなら興味ない。


 忘れた頃に送られるクッキーだったけど、ここしばらく頻繁に送られてくるから差出人の名前と添えられた手紙を初めてみた。

「ふ〜ん、アヤネ……シエラってプロステートから送られてたんだ。自分で味見した事あんのかな……」

 手紙には、応援してます! 絶対クッキー食べてねって書かれてたけど……あの不味いクッキーを食べるくらいなら、ヴィオレティ嬢が手紙と共に送ってくれるお気に入りのマドレーヌを食べていたい。



 新たに公演を始めた観劇が、評判を呼んで他国でも公演したいと連日オファーが来るようになった。

 自分が主演する舞台が多くの人の心に刺さり反響を呼ぶのは紛れもなく役者冥利である。

 劇の内容はレベンディスに許可を取ったけど、他国まで広がるならもう一度許可を得てこようかな〜……というか、レベンディスもプロステート学園の留学が決まってるのに公務やら何やらで出発が遅れてるって言ってたから、ついでに俺もプロステートに行っていいか聞いてみようかなっ。


 そしたらお姫様にも会えるし、興味本位で不味いクッキーの送り主も見てみたい。と言うか、助言したい。「味見してから渡したほうが良いよ」って。怒られるかな?


 何にせよ、レベンディスの幸せを見届けるのはやっぱ僕しかいないでしょ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ