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寡黙男子

誤字報告ありがとうございます(訂正済み)

 平凡な人生を送っていた私に訪れた、二度目の人生。

 悪役令嬢、ヴィオレティ・マクリスに転生したわたくしは、まず攻略対象者の確認から取り掛かりましょう。

 

 攻略対象は全員で六人。

 一人目は、フリオス・プロステート第二王子殿下。ゲーム内で悪役令嬢の婚約者は、このフリオス殿下になる。初対面の印象は、言わずもがな……ですわ。

 二人目は、コルノ・ガリコー。ガリコー侯爵は宰相をされる程優秀な方で、その侯爵家の嫡男。

 三人目が、トミー・スカリノ。スカリノ伯爵は騎士団長を務める剣術に秀でた一家で、トミーは次男。

 ここまでは皆様わたくしと同い年。

 

 四人目がリオス・リバロス。物語が始まる時は王立魔法士団の士団長を務める年上で、リバロス伯爵家の当主。

 五人目は、王都の人気舞台俳優ロード・デズモス。他国から舞台のために来た侯爵家の次男。

 そして、最後が……カフェア・プロステート第一王子殿下。なんで最後に紹介したかって……この方、婚約者がいる設定なの。横取り系が好きなプレイヤー向けに、第一王子に婚約者がいるにも関わらずヒロインと結ばれる結末が存在するなんて、ある意味暴挙よ。


 リオス様とロード様は、ストーリーが始まるまでどこにいるのかしら……。カフェア殿下が婚約したという話も聞いていないから、まだ婚約前の可能性が高いわ。


 

「ヴィオレティちょっと良いか?」

「はい、お父様」

 部屋でノートに向き合ってたわたくしの元に、お父様が訪れた。見られてはいけないノートは、空間収納に閉まっておけば保守できるわ。


「具合いはどうだい? もし大丈夫そうなら、今度の日曜日にお客様を招いても良いかな?」

「大丈夫です、お客様の対応も問題ありませんわ。どなたがいらっしゃるの?」

「それは……秘密だよ。秘密というか、内情を伏されていてね」

 何だか引っ掛かる言い方。

「最近また一段とオリーアに似て来たね、成長するのも考えものだ。今日は夕食を共に食べれると良いな」

 優しく頭を撫でて、お父様は部屋を出た。

 オリーアは、わたくしのお母様。弟のロドニーを産んだ後から体調を崩し、今は領地の屋敷でロドニーと生活しているの。たまにしか会えないけれど、とても愛情深い母親。ちなみにロドニーはまだ三歳で、会えば可愛い笑顔でお姉様って……たまらない鼻血ものなの!

 

 ロドニーの笑顔で思い出し笑いする私の横で、侍女ステフは淡々と午後の紅茶とお菓子を並べてる。

「お嬢様整いました。今日はどうされますか?」

「うーん……じゃ、ステフが良いわ」

「光栄ですが、昨日も私でしたよ?」

「嫌だった? それなら……」

「嫌だなんてとんでもない! さぁ、お茶にしましょ」


 明らかに嬉しそうな表情で手際よく紅茶を淹れ、部屋に満たされる香りに癒される。毒に倒れてから数日は白湯ばかりだったから、こうして何気なく飲んでり食べたりできる有り難みを感じるのも悪くないものだと思う。

 ちなみに、数年前から一人のお茶がつまらなくて、いつも侍女や使用人に同席してもらってるの。それがいつの間にか使用人の間で闘争心になったようで。わたくしに呼ばれる事がステータスになるのか、使用人達の仕事ぶりと質がとんでもなく高くなっているらしい。

 

「ステフは日曜日の来客がどなたか知ってる?」

「実は、王家の御璽が押された封蝋を見た者がおりましたので……もしかしたら関係あるかもしれませんね」

「あぁ〜……毒を盛られた件かもしれないわ。なんだかお父様の様子も変だったし」

「結局、婚約者様もお決めにならなかったのですから案外王子がいらっしゃたりして」

「それは……あんまり気乗りしないわ」

 

 だって、他の令嬢と婚約する第一王子が我が家に来るわけないし、第二王子に来られても……ねぇ。

 

「お嬢様なら妃教育も余裕でしょうに」

「……ねぇ、それより! 一つお願いがあるの」

「何でも仰って下さいませ」

「最近、どこかの家で魔力量が異常に高い令嬢の話し聞いた事ある?」

「いえ、私の所には届いておりませんが……?」

「実子なのか養子か分からないけど、そういう噂を耳にしたの。どんな子か気になるんだけど、内緒で調べてくれない?」

 

 そうして、お願い事を聞いたステフは紅茶を飲み干してすぐ、早足で部屋を後にした。噂なんて嘘だけど、ヒロインなら魔力量が高いから隠せないと思うのよね。だとすればこれくらいの年齢で発現してると思うの。それか敢えて隠してるか、どちらにせよ諜報に長けたステフなら容易いでしょう。

 


 数日が過ぎ、約束の日曜日。

 来客の時間に合わせた準備が進み、わたくしは化粧と綺麗に整えられたデイドレスに着替えて自室で待機していた。今日の来客がもしフリオス殿下なら、婚約話の可能性もある。王家からの求婚を断る術などない。ため息を吐きながら窓の外に目を向けていた。

 断罪されてみたいのに、ため息って矛盾ね……。


 わたくしの部屋から見える広々した庭園と、その先に薄ら見える正門には如何なる者の侵入も許さんとする立派なゲートが立つ。

 ここから見ていれば馬車でだいたいの来客が分かるの。だって馬車には家紋があるし、それに上位貴族の馬車ならだいたい覚えてるわ。

「はぁ〜……大した来客じゃなかったらお勉強しているか本を読んでいたいわ」

「そんな事言わずに、ほらゲートが開きますよ」

 わたくしの盛大な独り言を、ステフはいつも拾ってくれる。ゲートに目を向ければ、確かに黒塗りの重厚感ある馬車が入ってきた。でも、あれは王家の所有する馬車じゃない……というか、見た事ない馬車だわ。


 階段を降りてロビーに向かいながら頭を働かせるけど、やっぱり見覚えのない馬車に少しドキドキする。王家の馬車じゃない事にはほっとするけど、一体誰が降りてくるのかしら。まさかヒロイン……な訳ないわね。

 玄関の扉を開き、お父様とわたくし以外に、数名の使用人や執事も並んで迎え入れる。よく見ればいつもより飾られるお花の数が多いのもあって、心地良い空気が流れている気がする。


 御者の手によって馬車の扉が開かれると、この場にいる全員が揃って頭を下げ、足音だけを聞きながらお父様の合図を待った。ヒールの音じゃないと言うことは、間違いなく男性だけど。

「ようこそお越しくださいました、レベンディス・ダンデリオン王子殿下」


 ……え?


 表情を変えないように注意を払うけど……払うけれど、目にしたその方を見て呆気に取られてしまった。だって……。


「さぁどうぞ中へ」

 わたくしの目の前を通り過ぎ、そっと後から続いた。後ろ姿しか見えないけれど、なんて歩き方の綺麗な方なんだろう。本当に信じられない……。


 だって、隣に位置する大国ダンデリオン王国の第一王子と言えば、ヒロインが攻略対象者全員のステータスを一定以上に引き上げないと現れない隠しキャラだもの。攻略対象者全員がヒロインに向けて求婚する中、突然登場するレベンディス殿下とのストーリーに切り替わって新たなスチルが解放される。誰よりも寡黙で口数の少ない殿下が、愛情度を上げていくたびに魅せる少し微笑んだ表情やら、仕草が多くのプレイヤーを虜にしたのは言うまでもないわけで。

 もちろん、悪役令嬢ルートにも存在してはいたけど……わたくしは一度も画面上で拝見することは出来なかったわ。そんな人物がなぜ、我が家に来たのかしら。


 準備されたサロンにも多くの花が飾られ、大きめの窓から降り注ぐ陽の光が一層美しさを引き立てている。

 初対面のわたくしは、ダンデリオン王子殿下と敬称を付けなければ不敬になるし、そもそもわたくしから話しかける事はない。そっと、お父様の後ろに控えながら紹介されるのを待つの。


「殿下、改めまして。本日はようこそ我が家へお越しくださいました。当主のフィガロ・マクリスと、娘のヴィオレティです」

「お初にお目にかかります。ヴィオレティ・マクリスと申します」

 まじまじ見ては失礼に当たるから、バレない程度に観察しているけれど……本当整った容姿だし、ゲームの始まる前だから画面では拝めなかった少し幼いダンデリオン殿下は、また違った魅力があるわ。萌える!


「…………レベンディス・ダンデリオンです」

 さ、さすがクール系男子。全く笑わない、何を考えてるか分かりにくいその表情。

 ダンデリオン殿下の後方に控えていた側近の方が、そっと前に出て口を開いた。


「ではマクリス公爵令嬢、殿下の事三日間何卒よろしくお願いします」

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