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小さな落胆

 ここまでの熱量がおありなら、他にも頑張った方が良いところが幾つもあるのですけれど……。


 入学して半年。

 アヤネ様は今日も忙しそうに、フリオス様へ手作りお菓子を差し入れしたり、お昼休みにはリオス様の所へ赴いて、勉強が分からないと入り浸っている。

 

 実は、ゲームと違う所がここにもあったの。

 わたくしたちの入学と同時に臨時講師として、週に一度リオス・リバロス先生として魔士師団から士団長が派遣されて来た。理由は、思い当たらない訳じゃないけど……とにかく講師の紹介で誰よりも大きな悲鳴を上げたのがアヤネ様だった。そりゃそうよね、わざわざ魔法士団に好感度を上げに行かなくて良いんだもの。

 学園にいない攻略対象者は、一度会えば生徒よりも容易に好感度が上がる仕組みになっていたし。リオス様と人気舞台俳優ロード・デズモス様の好感度を上げるなら、会えた時に欠かさずアイテムを使うのが一番手っ取り早いわ。

 レベンディス様狙いのアヤネ様からしたら、この好機を逃すはずない。


 でも……本音を言えば、好感度なんか上がらなければ良いのにって思ってる。だって、好感度さえ上がらなければプロステート学園にレベンディス様がいらっしゃる事もないもの。

 取られたくないとかそんな事じゃなくて、レベンディス様にはレベンディス様の幸せを見つけて欲しいから。

 魔法が使えず自信を持てなかった王子が、また違う事で心を惑わされるのは違うと思ったまで。

 わたくしがレベンディス様の幸せをどうこう言えた立場にないのは重々承知だけれど……それでも入学して半年経っても留学されてない事に安堵してるの。ヒロインに振り回されるのは、わたくしとフリオス様で十分。



「やっぱりヴィオレティ様よ。本当すごいわ」

 廊下から聞こえる生徒達が見ていた学期末のテスト。順位は、一位ヴィオレティ・マクリス、二位コルノ・ガリコー、三位レストラ・ギリ…………

 手を抜くつもりもなかったけど、半年に一度のテストはどうやら一位になってしまったようで。入学前に「俺より良い成績を収めるな」と理不尽に約束させられたけど、普通に問題を解いてこうなってしまったのだから許して欲しい。フリオス殿下に鼻息荒く叱られたとしても、手を抜こうとは思わない。


「マクリス公爵令嬢!」

 振り向けば、リオス・リバロス先生に呼ばれ手招きされた。少し遠巻きに羨ましがる女生徒の中には、アヤネ様も見える。

「先生、ごきげんよう」

「ちょっと良いかな?」

「えぇ大丈夫です」

 ガヤガヤしたギャラリーに囲まれた場所で出来る話しではないと、先生と二人職員室に設けられたソファーへ移動すると「急にすまないね」と飲み物が用意された。


「まずは、テストの結果おめでとう。君なら当然とは思っていたけどね」

「ありがとうございます」

「君は、どうして士団長である僕が講師なんてしてるか……察しが付いてるんでしょ?」

「わたくしのレベルが上級だから……でしょうか?」

「ご明察。だけど、それだけじゃない……。確信を持ったのはつい最近だけど、ずっとそうじゃないかと思ってたんだよ」

「……はい?」

「魔法の才能も人当たりも全て合致しないなんて、可笑しいなって…………転生者だろ?」

「リオス先生……? まさか……」

「同じ境遇がいる事がどれだけ嬉しいか。今、身を持って体感しているよ。そうだ、僕も前世の記憶を持って生活してきたんだ。しかもここが、はかラブの世界だという事を知っている」


 こんな事があるなんて……!

 今まで黙ってきた、わたくしだけの秘密だったけど共有出来る人に出会えるなんて想像もしていなかった。

「いつから……? いつ記憶が蘇ったんですか?」

「魔法士団に入る前、王城で偶然アヤネ・シエラに会ったんだ。そしたらアイツ、ラディ王女に向かって『シナリオ』って叫んだんだよ。その場で記憶がフラッシュバックして膝ついちゃってさ」


 あの時だ。レベンディス様が我が家に滞在してる時の、ラディ王女とトラブルになった令嬢の話し。

「全てを思い出してみたら、うわぁ〜残念なヒロインだな〜……って思ったわけ。で、そういえば悪役令嬢のヴィオレティ・マクリスはどうしてるんだろうって気になって、申し訳ないけど調べさせてもらったんだよ」


 わたくしが調べている裏で、わたくしも調べられていたのね。

「そしたら魔法も勉強も優秀で、レベンディス殿下と夜会まで出ただろ? これは、ゲームと少しズレてるんじゃないか? と思ってずっと君を調べてた」

「見えない所で調べられるのも良い気はしないものよ、先生? でも……推察通り、わたくしも前世の記憶があって、ここがはかラブの世界だという事も知っているわ。逆にリオス先生の事も調べさせてもらったわよ」

「僕は別にやましいことはしてないからね」

「わたくしだってしておりません!」


 二人で目を合わせて思わずフフッと笑ってしまった。

「では先生としてイレギュラーな立場になったのは、わたくしを観察するため?」

「それは違う。ここに来た目的は二つ。一つは一年生ですでに上級魔法を使いこなす生徒が二人もいるから。それと、この物語を見守りたかったから……かな?」

「二人?」

「君とレベンディス殿下だ」

「先生、レベンディス殿下はきっと留学されないわ」

「なぜ?」

「ヒロインが攻略対象者の好感度をあげる事が出来ないからよ。少し細工してしまったもの……それに、レベンディス殿下は過去に苦しんだ。もう見えないものに振り回されるのでは無く、殿下自身の幸せを見つけて欲しいと思ったから……だから」

「気付いてる? ここはもうゲームの本編と違う。シナリオは崩壊してるだろ? 現に君はテストで一位を取り、フリオス殿下に恋心も芽生えていない。……来るよ、レベンディス殿下は留学される」

「そんなっ……アヤネ様の狙いはレベンディス殿下よ? もし留学なんてされたら」


 でも確かにそうだ……シナリオを壊したのはわたくしなのに、好感度が上がらなければレベンディス様が留学されないなんてシナリオ通りな事どうして思ったんだろう。

 

 ……わたくしの願い、だっただけなんだわ……。


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