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薄れる気持ち

「えっ……どうしてここにいるのですか?」


 夜会から帰ってきて、着替え終えたわたくしが食堂へ行こうと階段を降りると、先程までご一緒していたラディ様がいるじゃない!

「まぁドレスを脱いだヴィオレティ様も何て可愛らしいの! このままダンデリオンに連れて帰りたいわっ。レベンディスもそう思うでしょ?」

「…………。姉上がなぜここに?」

「だって話し相手もいないし! レベンディスもいないし! わたくしだって……お友達が欲しいもの……」


 貴族は貴族の、王族には王族の悩みなのかもしれないわ。自由もないでしょうし、我が家は来てくれた事が素直に嬉しかったりもする。

 

「わたくしは構いませんよラディ様。ご滞在は明日までですが、今からお話しすればまだ沢山時間はあります」

「んもぉ、さすがヴィオレティ様!」

「ステフ、客室の用意は?」

「すでに整えております」

「ありがとう、先にラディ様をご案内して」

「かしこまりました」

「夜会でお疲れでしょうから、まずは湯浴みのご準備を致しますね。ゆっくりされてる間にサロンの用意を整えて参ります」

「本当……ありがとう。レベンディス! 絶対離しちゃダメよ! じゃ行ってくるわ」


 小さな嵐の様で楽しいわ。

「……ヴィオレティ、その……姉上が申し訳ない」

「ふふっ素敵なお姉様で羨ましいわ。レベンディス殿下もご一緒にいかが?」

「それは……遠慮しておくよ。ではまた明日」

「わかりました、倒れない程度にやりましょ」

「……助かる」


 夜会用の豪華な衣装を着こなし、階段を上がるレベンディス殿下の後ろ姿をジーッと見つめた。

 わたくし普通にお話し出来てましたわよね? 平静を装っていたのバレてないわよね?


 だって……

 王城でフリオス殿下がいらした時も、守るかの様に抱き寄せられて……帰りの馬車だって……。

 中身30代のわたくしが、この萌えるようなシチュエーションに興奮しない訳ないじゃない! 淑女教育の賜物なのか表情を崩さない事に自信はありましたけれど、心を覗く魔法が存在しなくて本当心底良かったと思うわ。

 と、とにかく! 乗り切ったのだからもう大丈夫。



「あの女、何か怪しいのよね。だって普通、あんな子爵程度の身分が王城内をうろうろ出来る訳ないじゃない? それにわたくしに話しかけるって異常でしょ?」

 

 サロンに用意された紅茶を飲みながら、今日の出来事を振り返る。湯浴みとネグリジェに着替えた麗しいラディ様が苛立ち半ばにストレス発散を始めたわけで。

 

「恐らく平民から貴族になったばかりなのではないでしょうか、でなければ……恐れ多いですもの」

「ヴィオレティ様用心なさいまし。会場で見たあの女、明らかに貴方に敵意剥き出しだったから」

「関わる事もあまりないと思いますが、肝に銘じますわ」

「それにしてもあの時のレベンディスの必死さったら凄かったわね! 魔法を使えた事にも驚きだったけれど、誰かをあんな風に守れる男になってたっていう事が本当に嬉しいの」


『…………今は、この手を離さないで』


 ポッと赤らんだ顔をラディ様が見逃すはずもなく。

「で、で! 正直どうなの? ヴィオレティ様の婚約者候補になる? あ〜もうヴィオって呼んで良いかしら! ヴィオの好みはどんな人? 無口な男はダメ?」

 質問が怒涛すぎて、わたくしとした事がアタフタしてしまった。

「ラ、ラディ様落ち着いてくださいませ」

「落ち着いてられるもんですかっ、明日帰国しなきちゃいけないんだから」

「…………わたくし、レベンディス殿下はとても素敵な殿方と思っております。ですが……」


 わたくしには目標があるわ。

 悪役令嬢として断罪されてみたいって目標が……。大して愛もない殿方に婚約破棄を言い渡されれば満足感があるだろうけど、好きな人から断罪されるのはさすがに辛い……。レベンディス殿下が好きとか……そういう事ではないけれど……。

 

 やっぱりわたくしも女なのね。

 だって記憶が蘇った時の様な「婚約破棄されてやる!」っていう気持ちが薄いもの。そもそも好きでもない男……ゲーム通りならフリオス殿下と婚約しなければいけない時点で、苦行とすら思えてくる。

 そう思えるのは、目の前で守られ嫌われたくないと思える程度にレベンディス殿下を知ってしまったからかしら。

 それに、仮に……仮によ? レベンディス殿下とどうこうなっても、結局は隠しルートのキャラであってヒロインが可愛く目の前に現れてアイテムを使われてしまえば……わたくしなんて厄介払い。せめてアイテムを使われないダンデリオンで平穏に過ごして欲しい。


「ヴィオ、大丈夫?」

「はっ! 失礼致しました。その……わたくしではダンデリオンのような大国の王妃など務まるはずもありませんから」

「そんな事ないのに……。まぁ今はいいわ! わたくしはね、このまま行けばカフェア殿下に嫁ぐの。まだ正式な婚約にはなっていないから断言できないけど、もしそうなったら定期的にこちらのプロステートへ来るわ。ヴィオさえ良ければこちらに来る時にぜひ相手をしてっ」

「もちろんです! 喜んで馳せ参じますわ。ラディ様は……政略結婚になるのですよね?」

「そうね〜……でも、会うのが先だったか婚約しろと言われるのが先かの違いだと思ってるわ。婚約を前提にこちらに来ましたけれど、そうでなくてもお会いしてたら惹かれてたと思える程には素敵な方よ」

「とても素敵な考えです! ……生涯を共にする方とは想い合いたいと、そう思うのです」


 悪役令嬢になって余計に思うわ。

 真に愛し合う事の難しさを。

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