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俺の気持ち

「なんなんだ、アイツら……腹立つ!俺を誰だと思ってるんだ。この国の第二王子だぞっ」

 

 ヴィオレティの隣にいるだけならまだしも、見せつけるかのように抱き寄せやがって。俺の方が先に目を付けたのに……!


 ――――――――


 以前、俺が招待されたマクリス邸の夜会に向かう時、父上からこう言われた。

「フリオス良いか? マクリスの長女は類稀な魔力の持ち主だ。向こうは婚約者候補を呼んで娘と合わせているようだが、先に手を打たねばならない。くれぐれも言動には気をつけろ。失敗するな!」

「はぁ……俺にだって選ぶ権利くらいあるだろ……」

「何か言ったか!?」

「いっ、いえ……行って参ります」


 俺の好みは、可愛くて守ってやりたくなるような子だ。言うことも聞いて、俺に甘えておねだりしてくれる様なそんな女が良い。だから、そういう奴だったらその場でその気にさせてやろうと思ったのに……。


 よりによって、正反対の女だった。

 勝気そうな顔、大人っぽい雰囲気のドレス、何でも出来そうな育ちの良さ。全てが気に入らなかった。

 だから俺の威厳を見せつけてやろうと、話し掛けたのに無言で無視しやがって……立場を弁えさせてやろうとした矢先、崩れ落ちた。慌てて駆け寄った父親が部屋へ連れて行ったところで夜会も解散。

 後日話を聞けば、毒に倒れ一時命の危険もあったと言う。

 なんだ、毒程度に倒れるなんて少しは可愛げがあるじゃないか、そう思った。見舞いにでも行ってやろうと何度か公爵に面会を申し込んだのに都度断られた。


 会えないことに苛立ちを覚えた頃、廊下で騒ぐ令嬢二人を見つけ面倒くさいが仲裁に入ろうと向かったら……。親善か何かでダンデリオンから訪れた王女と、マナーがなってない幼そうな女の子が言い合い、周りが騒然となっている様だった。

「仕方ない……。おいっ! 何をしている」

 近付き王女から事情を聞けば、突然叫ばれ通行を妨げられたと言う。仲裁に入っておいて問題を解決出来ないなど良い笑い物だと思い、王女を通して女の子を応接間に連れてきた。


「名前は?」

「ひっく……ひっく、アヤネ・シエラ……です」

「お前、相手が他国の王女だって分かっての行動か? 気をつけろっ」

「ご……ごめんなさい、私お父様と逸れてしまって……あの方に道を尋ねようとしただけなのに怒鳴られて怖かったんですぅ……まさか王子様に会えるなんて、あっ……し、失礼しました」

 シエラ子爵に娘がいたなんて初めて知ったが……くりくりの潤んだ瞳に甘えた口調、可愛い顔立ち……俺の好みはこういう子なんだよ! マクリスのとこもこういう女だったら完璧なのに。

 

「まぁいい、今回は見逃してやるからもう問題を起こすなよ」

「はいっ、ありがとうございます」

 護衛に父親をここへ連れてくるよう伝え、メイドに紅茶を入れさせて部屋を後にしようとしたが

 

「あの……寂しいので一緒にいてくれませんか?」

 

 上目遣いでこちらを見つめられれば、ボッと顔が熱くなってしまった。な、なんだこれは……、ただお願いされただけでドキっとするなんて俺らしくない。

 だが、悪くない。

 

「仕方ないな、今日だけだぞ」

「やったぁ嬉しいっ! 私ずっと殿下とお話ししてみたかったんですっ」


 気付けば俺は「アヤネ」と呼び、アヤネは俺のことを「フリオス様」と呼ぶほど話しが弾んだ。父親が慌てて迎えに来るまで、その可愛い顔を拝んだ俺は気分良く送り出したのだった。

 それから数日して、アヤネのことが気になった俺は用事ついでに貴族院へ向かった。あの時、確か貴族院に届出を出すから父親と来たと言っていた。どのような内容だったかくらい見ても良いだろう。


「おや、フリオス殿下いかがされましたかな?」

「先日ここにシエラ子爵が来たんだろう? 娘を連れて。届出の内容を見たい」

「殿下、申し訳ありませんが……如何なる場合も届出の内容をお見せする事は出来かねます」

「俺の力でお前なんかどうとでも出来るんだぞ。良いから早く見せろ」

「……殿下、脅しは通用しませんよ。お引き取りを」

「チッ」

 どうせ俺がどうこうしなくても初老の文官など、近いうちに定年だ。それ以上何も言わずに出て行こうとしたところで後ろから何か声が聞こえる。

 

「殿下、そのような態度は身を滅ぼしますぞ」

 気にせず出てきたが、身を滅ぼすだと? 王子の俺が何したって良いだろ! くそっ。

 貴族院に限らず書類を扱う部署は基本、魔法によって鍵がされ開けられない。それならシエラ子爵に直接訊ねるか? いや、それならアヤネに聞けば良い。会えるなら一石二鳥だ。


 子爵邸に訪問の先触れを出して、漸く会えたアヤネは想像以上に俺を夢中にさせた。


 出迎えたシエラ子爵の慌て振りとは裏腹に、アヤネは爽やかな笑顔で後ろから花びらが舞仕切るような幻想さえ見える。

「フリオス殿下! こ、このような狭い屋敷で申し訳ありません。本日はどのようなご用件で……」

「あぁ! フリオス様ようこそお越しくださいました」

「こらっ、アヤネ!! なんという不敬を」

「いや良い、今日はアヤネに話があって来ただけだ。案ずるな」

「ねっ、だから言ったでしょ? 叔父様は本当心配症なんだから。フリオス様、とってもとっても会いたかったです! でも私から会いに行けないから……夢にまで出てきたんですよっ。今日はいっぱいお話し出来ますね」

「アヤネ、頼むから粗相するなよ……?」

「はぁーい! フリオス様こちらへどうぞっ」


 案内されたのは意外にもアヤネの自室。可愛らしい装飾に花が添えられ、ピンクの可愛らしいドレスを着たアヤネは王城で出会った時とまた少し違う印象だ。

 

「今日は、アヤネに聞きたいことがあってここに来た」

「聞きたいことですかぁ?」

「貴族院に出した申請の理由はなんだ」

「あぁ、私もともと平民なんです」

「平民!?」

「はいっ、でも魔力がかなり多くて稀なので親戚にあたる叔父様のお家に養子として来ましたっ」

「……平民……か」

 少しガッカリしたのはなぜだ。身分が釣り合えば会える事も増えるとばかり期待した俺がいけないのか? それが叶わないからか? 別にアヤネが元平民だろうと別に良いはずなのに。

 

「私は、ラッキーガールなんです」

「ラッキーガール?」

「だって子爵だけど貴族になれたし、それに貴族になれたおかげでこうしてフリオス様にも出会えたし! それだけで幸運な女の子になれた気がするからっ」

 そうだ。可愛らしくて少し頼りなさそうに甘えてくるのに、こうした強さもある。


 俺は……アヤネに惹かれているんだ。

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