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無理ゲーの悪役令嬢


 「ヴィオレティ、貴様よくもやってくれたな」


 一段高い高砂から私に人差し指を向けて、鬼の形相でこちらを睨みつける。

「一体何のことでしょうか、フリオス殿下」

「惚けるな! はっ……漸くこのセリフを言えるのか」

 

 殿下を囲むように攻略対象者と、その後ろから涙を目に溜める女を横目に見た。

 性格の悪いヒロイン独特の勝ち誇ったような顔、このラノベを読む読者様なら容易に想像出来るでしょ? 攻略対象者たちの間から腹立つ顔をこちらに向けて、片方の口角だけあげるなんてかなりヤバいわ。

 

「数々の悪事を働き、私の妃として相応しくない貴様は……本日この場を持って婚約破棄とする! 今すぐ出て行け!」


 ……そう、目覚めたばかりのわたくしは、こんな展開を夢見て歩み始めたはずだった。

 現実は少し複雑で、点と線がきちんと繋がった素敵なストーリーだったの。


◇◇◇◇


 数多の悪役令嬢を見てきたわ。

 能力を至らぬ事に使って処刑された子。少しの選択ミスで国外追放された子。ヒロインにハメられて平民になった子。婚約破棄を言い渡されて、その場で殺された子。あっ、逆に婚約破棄になった事で、隣国の王子に溺愛された逸材もいたわね。ループして復讐した強者もいたわ。

 ……で、数多の悪役令嬢を見たという事は、数多のヒロインちゃんも見てきたわけで。そりぁ、聖母聖女女神と讃えられるヒロインももちろんいますわ。でも、勘違いしないで?

 悪役令嬢ポジは、強制力に抗えない能力高めの令嬢か、もしくは本当に腐ってる性格ブスのどちらかよ。まぁ、どちらにしても大半はヒロインに邪魔されて婚約破棄が王道パターンで、幸せとは縁遠い存在なの。


 断罪されてこそ、悪役令嬢。

 でも……悪役令嬢だって、幸せになりたいはず。


 なんで、そんな他人事のように語れるかって?

 だって私、こことは違う世界で生活してた記憶があるから。普通に暮らして、仕事して、それなりに人生楽しんでたのに……ある日、顔も名前も知らない人に刺されて30年という短い人生が終わってしまったの。

 で、そういうラノベとか乙女ゲームが大好きだったのよ。彼氏もいない私にとって、それらが日々の癒しだった。

 特に私が好きなのは、断罪と溺愛の二大キーワードね。これは必須よ。このキーワードが、とんでもない沼に私を誘ってくれたけど、これは悪役令嬢に限るわ。残念ながらヒロインが溺愛されるとか全く興味はないの。ヒロインは、勝手に幸せになればいいと思うのよ。

 ……でも悪役令嬢は勝手に幸せになんてなれない。ヒロインが幸せになるための補正が掛かるんだか何だか知らないけど、やってもいない罪は着せられるし、イベントも起こせない。はぁ〜……本当、可哀想で、最高。


 矛盾でしょ? でも、可哀想から逆転する物語が存在するから沼ったの。


 さて、ここで問題よ。

 私が、前世どうしても納得いかないけどハマったゲームが一つだけあったの。

 タイトルは『計り知れない愛を下さい〜貴方の愛は無限大〜』通称はかラブ。

 今思い返しても……とんでもないタイトルよね。運営がとことんヒロインにばかり愛情を注いだおかげで、攻略対象者全員に使える謎アイテム、事あるごとに起きる恋愛イベント……そして、見事攻略対象者とハッピーエンドを迎えると世界平和につながるなんて言うお気楽主義ゲーム。

 なんでそんなゲームにハマったのでしょう。


 答えは、このゲームの最初に出てくる選択肢。

――――――――――

 愛されヒロインになって溺愛されますか?

 悪役令嬢になって、今度こそ断罪を回避しますか?

――――――――――

 

 やったわよ、そりぁ何回も何回だって回避するために、あらゆる手を使ったわ。でもね、やっぱりヒロインの影響を受けすぎて……断罪を回避出来たのは、全ゲームプレイヤーの1%って……無理ゲーにも程があると思わなくて?

 攻略サイトも片っ端から潰されて、幸せになるのを全力で阻止されているようだったわ。

 

 攻略出来ないまま人生が終わった事を神様が哀れに思ったのか、偶然の巡り合わせか。突然、私に二度目の人生が訪れた。

 名前は、ヴィオレティ・マクリス。マクリス公爵家の長女。まさかの、はかラブ悪役令嬢ポジのヴィオレティ様に転生してしまったわけ。


 自分に前世があると気付いたのは、つい先日のこと。

 自邸で開かれた夜会で、わたくしの婚約者候補の令息方と顔合わせがあったのですけど、妙に覚えのある方が数名いらっしゃって違和感を覚えたわ。会った事もないのに、なぜ懐かしくなるのかしらと。そして……一際目を引く衣装を見に纏った方が、わたくしを見るなりこう言った。

 

「お前レベルが俺の婚約者だと? こいつに俺の計り知れない愛をやるのか?」

 

 どこかで……聞いたセリフ。

 というか、どう考えても令嬢に向けるには不向きな侮辱するような発言に怒りが込み上げたわ。しかもそれを、この国の第二王子フリオス殿下が発言された事で周囲が一瞬固まってしまったわけ。後ろの方々も少し慌てながら殿下を諭そうとしてるけど。

 これは関わったらダメな奴だと無言で踵を返して、給仕からもらった飲み物で気を取り直そうとした所で……わたくしの意識は見事に途切れた。

 毒を盛られたの。迂闊だったわ。

 でも、この毒のおかげなのか一瞬生死を彷徨いかけた影響なのか、眠りについた夢の中で前世の記憶が鮮明に蘇って目を覚ましたというわけ。

 

 夢にまで見た、大好きな悪役令嬢になって無理ゲーを攻略出来るなんて一生に一度よ? 興奮しないわけないじゃない。もう読みまくったラノベのおかげで、まず何をしなきゃいけないのか……それは、覚えてる知識をひたすら書く事! これは非常に重要ね。毒が抜けて楽になったとは言え、ベッドから出れない今のわたくしにはピッタリの作業。

 まずは、わたくし自身がゲーム内でどのような令嬢だったか思い出さなくては。

 

 えぇ〜……と、魔法も勉強も到底ヒロインには追いつけないような出来。容姿は整っているけど、可愛げのない表情と言葉選び。悪役令嬢王道の陰湿な虐めや仲間外れ、ヒロインに敵わない成績を妬んで嫉妬しては嫌味を言ってたような。

 そうよ、そもそもゲーム内の選択肢もおかしいのよ。こんな台詞選びたくないのに、っていうような選択肢しか出ないんだから……。ヴィオレティの選んだ台詞で泣くヒロインをヴィオレティの婚約者が身を挺して守って……婚約者……。


 そう! フリオス殿下が婚約者になるのよ! わたくしに侮辱の言葉を吐き出したあの第二王子のフリオス殿下……。

 

 ゲームを進める上で、何度も何度も侮辱されたわ。好みじゃないとか、恥晒しだとか。それでも、ゲーム内のわたくしはフリオス殿下に思いを寄せて、懸命に振り向いてもらおうと努力していたのよ。なのにヒロインばかりに目を向ける事が許せなくて……。


 あら? ちょっと待って。ゲーム内ではあんなに一途にフリオス殿下に想いを寄せてたじゃない。今のわたくしは、まるで逆。前世を思い出したから? いや、そもそも思い出す前の夜会の時点で拒否反応が出てたもの。それとも、物語が始まるまでの間に何かあるのかしら? ……よ、要注意ね。

 

 それと、ヒロインが今どこにいるのか探りたいわ。ヒロインの顔は分かるけど、伯爵以下の家名と生い立ちはランダムで選ばれるから今どこで何してるのか分からないの。平民から養子に入るのか……それとも実子なのか、いずれにしてもあれだけ運営に愛された子なんだから、ゲーム通りとびきり可愛いだろうし、なんせ能力に長けた魔力量があれば嫌でも噂になるはず。

 

 学園に入学するまで、あと三年。

 婚約破棄を言い渡されて、国外追放? それとも魔力消滅刑になるのかしら。あっ、この世界は魔法が文明を支えてるの。だから魔力を取り上げられるって言うのは生きていく上で不利になるわけ。

 ヒロインが他の対象者を選択して別の破滅ルートが開かれるのか。……どの道、わたくしに待ち受けるのは破滅という名の断罪。これは……思いの外楽しそうだわ、どうしましょう。

 

 例え物語が始まったとしても、ここにいるわたくし達にとっては、ここが現実だわ。ゲームの強制力が働く可能性もあるけど、わたくしらしく凛としていたい。勉強は好きだし、社交性も問題ないと思う。

 でも、せっかく悪役令嬢になれたんだから例の台詞で断罪もされてみたい!

 でも、ゲーム内で幸せにしてあげられなかったヴィオレティを、私が幸せにもしてあげたい。私自身が幸せになれる道を探して人生を謳歌してみせましょう。


 溺愛なんて無謀なことは、言わないわ。

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