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声を失くした令嬢が、宮廷楽士様と一緒に、聖なる竪琴を奏で奇跡を掴む  作者: 高取和生@コミック1巻発売中


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第2話 銀の楽士

 石畳の街路を、朝の陽ざしが照らしている。

 シフォンヌは竪琴を抱えながら、昨日と同じ楽器店の扉を押す。

 チリリンと鈴が鳴る。


 店主はシフォンヌを見ると、少し眉を上げる。


「おやおや、また弦の具合ですか?」

「はい……。ちょっと、音の伸びが、悪いような……」


「そうか、どれ……」


 店主が弦を調べている間、奥からまた、笛の音が流れてきた。

 昨日と同じ旋律。

 だが。

 胸の奥まで響いてくる。


 心が震える。


 音が止み、奥のカーテンが揺れた。

 銀の髪が、陽光を反射している。


 ロアードが現れた。


「やはり、来てくれたのですね」


 穏やかな彼の笑顔に、シフォンヌは呼吸を忘れる。


「店主さんに聞きました。あなたは昨日、弦を買いに来たと」

「はい……」


 掠れた小声にも、彼は耳を傾けてくれる。

 その眼差しは安心の気を与えてくれる。


「弦のことなら、僕に任せてください」


 ロアードはシフォンヌの竪琴を手に取った。

 軽く弦を弾くと、音が店内に渡っていく。


「……なるほど、手作りなんですね。とても繊細な音だ」


 シフォンヌの頬が染まる。

 繊細だなんて、周りの人たちに言われたことがない。


「……はい。母が、昔、竪琴を弾いていました。だから、真似をして」

「お母上も、音楽を?」

「ええ。……もう、亡くなりましたが」


 ロアードの瞳が一瞬曇る。


「失礼しました。そうでしたか。あなたの音には、誰かの想いが宿っているようだ。想いを繋ぎ、奏でる音は、簡単に消えることはありません」

「!」


 ロアードの言葉は、シフォンヌの心に沁みていく。

 彼は続ける。


「それに、昨日も言いましたが、歌声と話し声は違うのです」

「はい。でも、私の声は、壊れています」


 シフォンヌは喉に手を当てる。

 傷跡が、うっすらと残っているのだ。


「声を、出すと、痛いのです。しゃがれた声で、皆、聞くに堪えないと……」


 ロアードは黙って、そっと彼女の手を取った。

 シフォンヌの体が強張る。

 ロアードはシフォンヌを労わるように言う。


「それなら、痛くならない方法で、少しずつ声を取り戻しましょう」

「そ、そんなこと、出来るのでしょうか?」

「出来ます」


 ロアードはシフォンヌを見つめながら言葉をかける。


「音楽は、傷を治すために、人の心を癒すためにあるのですから」


 彼の声の優しさに、シフォンヌの瞳が潤む。

 ロアードは笛を持つ。


「まず、僕の音を聴いてください。何も考えず、ただ感じて欲しい」


 ロアードが息を吹き込む。

 笛の音は柔らかく、店内を満たす。

 春の日差しに包まれているような、暖かさを感じる。


 シフォンヌの心が、解きほぐされていくようだ。

 気が付けば、シフォンヌは小さく口を開けていた。

 声にならない微かな息。


 それがロアードの笛の音に重なっていく。


「いいですね」


 囁くようなロアードの声。


「あなたの中の歌が、戻ろうとしています」


 シフォンヌは見開く。

 信じられない、自分でも。

 しかし、感じる。


 シフォンヌの胸が、音に合わせて震えているのだ。


「信じ……られない」

「信じてみましょう。まずはそこからです」


 その後、ロアードは何度か、息の出し方を教えた。

 喉を閉じず、胸の奥で音を響かせるように。

 言葉は必要ない。

 ただただ、息を音に変える。


 いつしかシフォンヌの頬に、薄っすらと紅が差していた。


「また明日も、ここで、この時間に。朝の光の時間に」


 ロアードがシフォンヌに言う。


「いいんですか? 私なんかのために……」

「なんか、って言わないでください」


 ロアードは真っすぐにシフォンヌを見る。


「あなたの声は、きっと誰かを救う。僕は好きなんです。その声」


 シフォンヌの胸が小さく跳ねる。

 それは温もりを伴う、胎動だったのかもしれない。


 誰かが自分の声を「好き」と言ってくれた。

 それだけで、良い。


 その夜。

 屋根裏の窓から、シフォンヌは星空を見上げた。

 ロアードの音が、耳の奥にで鳴っている。

 星の煌めきのようだ。


 声を、取り戻す。


 それは、亡き母の祈りのようにも思える。


 薄茶色の手帳を開き、今日の思いを詩に代える。


 ――あなたの音が 私を呼ぶ

   闇の底から光の方へ

   たとえ声が途切れても

   歌い続ける 胸の奥で


 ペン先が止まる。

 涙が一滴、文字を濡らした。


 翌日の朝。

 ロアードは店の前で待っていた。


「おはよう、シフォンヌ」

「おはよう、ございます」


 シフォンヌの声は、昨日よりもほんの少し、澄んでいた。











お読みくださいまして、ありがとうございます!!

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