子は親に似る
「あー……何だ、で、何か欲しい物はねえのか」
「無いです」
さっきと質問の内容は同じだが雰囲気が完全に違う。放棄区画に群れて居そうなチンピラの物になっている。
「それじゃつまらねえ。アレだ、力とか受け取れ。多元宇宙を瞬きで吹っ飛ばす位の奴」
「過剰です」
どうしようこの人、ゼロエルと同じ位面倒な雰囲気がしている。
と言うか、似てるな。アダムとか、あの迷惑天使とかと。
「何が過剰だ。力なんか幾ら有っても困らねえぞ」
「自分達みたいな生活するには間違いなく過剰です」
日常生活のどこでそんな出鱈目極まる力が必要だというのか。うっかりくしゃみをしたら途轍もない事になってしまいそうだが。
「兄貴、おれ欲しい!」
「ZZはちょっと黙ってろ」
「弟は乗り気みたいだが」
「すいませんコイツちょっと頭がアレな物で」
ZZが何と言おうとそんな物押し付けられる訳にいかない。第一お前がそんな物貰ってどうするんだ。絶対破壊しか出来ないだろ。
「力は良いぞ? 気に入らねえ連中を片っ端からぶっ殺せる」
「そんなに野蛮じゃないです……」
何だろう。アダムとかゼロエルを見ていると力を持った人達は暴力的になる様に思えてしまう……エンヴィーさんとかそんな人ばかりじゃないのは知っているのだが……
「何だまるで俺が野蛮みたいに」
「間違いなく野蛮だと思います」
さっきまでの雰囲気では絶対に言い出せなかったが、何かもう今の状況で一々押し黙るような事も無いだろう。もういいやヤケクソで。
「……うん。じゃ、何か他の物になるが……力以外か……」
本気で悩んでいる様子で黒い男が空を仰いだ。力は他の選択肢を忘れる程では無いし、そもそも俺達が言った物じゃ無かったのかと言う突っ込みが出そうになるが……この人なら内心位読み取れていそうなのでわざわざ口に出す必要は無いだろう。
「……金」
「即物的!」
何となく予想していた物のど真ん中を貫いて来た。……と言うか、予想が出来てる? さっきまで全く出来ていなかったのに。
「切り替えた。そっちも不便だろ」
「まあ、不便でした」
普段無意識的に行っている予想や予測が、全くできない相手と言うのがあそこまでやりにくいとは思わなかった。させてくれる、と言うのはとてもありがたい。
「で、金だが……どうだ?」
「……聞きますけど、一体どれ程をくださるんですか?」
「京とかその辺だな」
「お断りしておきます」
何でこうこの人は途轍もない規模で与えてこようとするんだ。小学生か?
と言うか今更だが……さっきまでの雰囲気は何だったんだ。
「雰囲気はアレだ、客が来たなら格好つけるだろ。そんな感じだな」
「格好つけで割と大変な事になった気がするんですけど……」
死……と言うよりもっと悍ましい物を見た。あの中に取り込まれる位なら拷問死の方がマシだと確信する程には。
「びびんなびびんな、大した物じゃねえよ」
「基準がおかしいと思います」
……まあ、基準はおかしくて当たり前なのだが。
今こうして話せている事が不可思議な程、この人と俺の間では差が存在する。ミジンコと人間……程度では無いだろうな。
「しっかし……力も駄目、金も駄目……となると……異名」
「何故!?」
理解できるようになったはずがまた訳が分からなくなった。一体どういう思考の流れで力と金の次に異名が!?
「良いだろ、異名。幾ら有っても困らねえ物の一つだ」
「一つで十分困る物だと思いますけど……」
「兄貴おれ異名欲しい」
「よし、着けてやる」
「ZZ、知らない人から物を貰うな」
異名何か貰っても何になるんだ。何にもならない……アレ? 別に何にもならないなら良いんじゃ無いか?
「……異名……良いかも」
「兄貴、おれ格好いいのが良い」
「俺に任せろ。全次元の連中が気絶する物を着けてやる」
「……参考までに一つ」
「終末的暗黒解雲」
「すみませんやっぱ要りません」
駄目だこりゃ。センスが何と言うかもう中学生でも恥ずかしくなりそうなレベルだ。どこの誰に伝わるのかも分からないがこんな物着けられた日には暫く家から出歩けなくなる。
「カッコいい……」
「ZZ、止めとけ。二年後には後悔するぞ」
絶対後悔するから。まず間違いなく布団に籠る事になるから。
「あん? 人のセンスにケチを着けるのか?」
「最初からケチしか無いんですけど」
この人何でここまで自分に自信満々何だ。少しでも自分を顧みることが出来ないのか。
「……お前結構失礼だな」
「何と言うかもうそう言うの取り繕っても無駄な気がするので」
内心を読める人相手に言葉を選んでも無駄だろう。寧ろ読める分悪印象を与えてしまいかねない。
「……アダムの態度もお前らの影響か? あの野郎やたらと口が悪くなりやがって」
「それは間違いなくあなたに似たんだと思います」
「アダムに似てるよー」
ZZも同意する程この人はアダムに似ている。話している感覚だけならあいつと殆ど一緒なのだ。
「そんなに似てるか?」
「似てますね」
「似てる」
何と言うか、傲岸不遜な所と言うか……誰が相手でも絶対に頭を下げてやらないと言う子供っぽい所とか……その辺りが、雰囲気として似ている。
「そうか? 俺はあんなに礼儀知らずじゃねえと思うがなあ……」
何となくこの人も目上だろうと何だろうと絶対に頭を下げないし謝りもしないだろうなと確信する。……まあ、この人に上とか居るのか知らないけど。
と言うか、アダムが何度かマスターと呼んでいたしこの人がアダムを作ったのだろう。そうなると……この人はアダムの父親のようなものだろう。
となるとアレだ、子は親に似るという奴だろう。
「もう少し俺はカッコいい部類だと思うんだが……」
未だにブツブツという黒い男は途方も無く子供っぽく見えた。
「はい、コレで問題無く使用できます」
「ありがと」
小型のパソコンを前に、視線を説明書と画面の間でせわしなく行き来させながら、女が四苦八苦して操作を行う。
それを見てアダムは内心で安堵の息を吐いた。
万が一、彼女が癇癪を起すような事があればそれだけでこの世の何もかもが消し飛ぶだろうからだ。
紅 ルナ。
初代闘神の異名と共に知られる例外の一角。かつて塔の主人たるアダムのマスターを相手に引き分けた伝説。
彼女がその気になれば高が存在は何の抵抗も出来ないだろう。その規模が例え存在する全てであろうと、例外にとっては零と同義なのだから。
「それではまた問題が起きればお呼びください」
「出来れば呼ばなくていいようにするわ……」
手を振って別れを告げる彼女から離れ、アダムは彼のマスターの元へと赴く。心情的には読みかけの本へと戻りたかったが……そろそろ時間だ、XXX達を帰さなければならない。
黒い男と呼ばれるかの例外は、二十にも足りない例外の範疇で尚、規格外な物だ。
どの例外よりも奔放で、どの例外よりも活動的。存在する物に興味を持たない者が殆どな例外達の中で、黒い男は数少ない存在の内に住まう者である。
故に、関りは最小限にしなければならない。
存在が例外に関わればどう楽観的に見ても碌な現象を引き起こさないだろう。例外に引き寄せられて存在の枠組みを外れる……と言うのは考えうる可能性の中でも限りなく希望的な物だ。恐らく大半は例外に耐え切れず崩壊するだろう。
それは例外がどれだけ抑えようとも意味を成さない……いや、黒い男が抑える術に長けているが故に関わっても瞬時に影響を及ぼさないのだ。他の例外が何の考えも無しに存在と関われば、思索一つに存在する全ては捻じ曲がるだろう。
「だとしても面倒なんですけどね!」
存在と関われないなら関われる物を作れば良い。そんな雑な考えの元作られたアダムは黒い男の及ぼした影響の尻拭いを考えながら、その莫大な作業量に青筋をうかべるのだった。




