限界値に
竜巻のように振るわれる三つ首は、どれもこれもが天体さえ粉砕する致死の鈍器。
縦横無尽に繰り出される無作為な連撃をセンサーと反射で躱し続ける。強化によって知覚範囲が広がり、精密性も上がっていなければ瞬間的に粉砕されていただろう。
「いい加減に、しやがれええええええええええええ!!!!!」
止まない連撃に込み上げた怒りが、色々と限界を超える。もう少し隙を作りやがれ!
目につく範囲片っ端からミサイルと砲撃を炸裂させまくり、近付いて来た所からブレードで切り刻む。
自棄交じりではあるのだが、その実頭はフル回転している。
なにせ相手の攻撃が一向に止まないのだ。
こっちは全力で攻撃しながら向こうの攻撃を避け続けるという曲芸じみた行為を続ける事になっている。流石にそんな物まともに出来る筈も無いので動きを見切る為に待ちに徹してみたのだが……その結果分かったのは相手には隙等無いと言う事であった。無慈悲。
しかしもういい、それなら焼き切れそうな頭を全力でぶん回しながらやり遂げてやる、この曲芸を!
「くたばれやああああああああああ!!!!」
砲撃の反動を利用して迫っていた頭を避けすれ違い様にブレードで切りつけ出現した黒い腕を蹴って躱し視界に入った胴体へ向けてミサイルを撃ち叩きつけられた頭に熱線を放って視界を隠し横にズレる。
瞬きにも満たない時間で行われた攻防。一撃も食らっていないのに頭の奥が鈍い痛みを訴える。
だがそれに構っている暇は無い。ここで動きを止めればそれこそ痛みなど感じられなくなってしまうだろう。
「っ、がああああああああああああああ!!!!!!!」
苦痛をかき消すように咆える。効果があるかは分からない。
それでも、少しマシに成ったと信じて攻撃を繰り返す。
右から迫る一撃をスウェーでいなし胴体へブレードを叩きつけ、それを取っ掛かりに持ち上げた体を変形させ大規模なエネルギー球を投射。
一斉に全方位から迫る黒い腕を体を分解してすり抜け、すぐさま再構築。隙とも言えない合間に向けて、再度繰り返した変形からエネルギーの大砲を撃ち放った。
「素早い、すり抜ける」「捉えられない」「優秀、欲しい」
これだけバカスカ攻撃しまくったにも関わらず、黒欲の様子に変化は無い。相も変わらず無茶苦茶な連続攻撃を繰り出してきている。
「どんな! 理不尽! 耐久だごらあああああああああああああああああ!!!!!!」
込み上げる感情を片っ端から口に出して無理矢理冷静さを保つ。そうでもしないと血が上った頭では攻撃を捌けない。
いや、既に捌けて等いない。
無理矢理に盾とした右腕が紙箱のように潰れ、通り過ぎた頭の余波に巻き込まれた左足がねじ切れる。
腕は出現の速度を更に引き上げ、躱そうとした俺の胴を抉り取った。
だが、その程度。
その程度で俺は止まらない。
ZZを守る為に、アダムに胸を張ってやってやったと言う為に、……俺自身の為に。
「おおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
既に口から言葉は出ていない。何を言っているのか自分にも分からない咆哮と共に、俺は跳ねる。
ミサイルに飛び乗り、砲撃の跳弾を当て、相手の攻撃を避け、切り込む。
近づく頭を、伸びた胴を、千鳥のようにふらついている足を。兎に角攻撃し続ける。
殴り蹴り撃ち切り爆ぜ砕き焼き断ち崩し抉り貫き潰し──変形。
「何故」「何故だ」「ああ、欲しい」
全力で攻撃し、全力で避け、全力で変形する。
三つの全力なら向こうの頭三つも超える。そんな狂った思考を実現するには限界さえ超えて稼働する脳と肉体が必要だ。
だから、使う。
『標的認識、軍事戦闘用サイボーグXXX、攻撃を──しろ!」
切り替える。
補助人工知能を俺の脳の一部に使う。
それが出来なければ勝ち目は無い。
切り替わる、切り替わる、切り替わる。
人工知能に制御を譲り、切り替わる脳を切り替える。
俺を主体に、俺を中心に、俺の意思で動くように。
普段なら到底無理だ。だが、アダムによって限界を超越した今なら。
「……っ、はまった!」
ガチン、と。
何か歯車がかみ合ったような感覚と共に、世界が変わる。
背後が見える、未来が見える、どう動けばいいか見える。
変形はより正確に、行動は精密に、迫れ。
「お」「おお」「あああ」
黒欲の攻撃をより正確に対処する。
糸を投げつけて五メートル先の針穴に六連続で通すような神業。だが、今の俺なら何とでもなる。
十万分の一ミリ単位で正確に、振るわれた頭を止める。
同時に零距離で砲撃を放つ。相手が追撃をしようとする頃には、頭部へ十七発の砲撃が撃ち込まれていた。
避ける、攻撃。
言葉にすればそれだけ。ただ、それだけが俺に黒欲を圧倒させていた。
「見えない」「分からない」「何故だ、何故押される」
振るわれた頭を蹴り上げ、胴にブレードを六閃。
ピシ、と走った音は幻聴では無いだろう。
明確に見える程……黒欲は血を流し始めていた。
「傷ついた」「傷ついた」「血が出ている」
到底血とは思えない真っ黒な物質。インクでさえもう少し明るいだろう。
それでも奴にとっては明確な血のようだ。より一層攻撃が激しさを増し、俺を叩き壊そうとしてくる。
だが、俺は捉えられない。
「よく見えるぞ」
次の動きを予測して、七度の攻撃を同時に当てる。怯む動きを想定して、間合いの内に潜り込んだ。
死角は無い。そして、容赦も。
「これで終わりだ」
零距離、最大火力。
バラバラに動く三つの胴体の根元へと定めた狙いは、当然過たず突き刺さり……爆ぜた。
「ぎゃあ」「ああああ」「ああああああああ!!!」
バラバラに途切れたような、その上で一つに繋がったような不可解な悲鳴が響き渡る。
それと共に散らばる黒い血と、千切れ飛んだ黒欲の体。
足に繋がる胴の根元を消し飛ばされ、上半身と下半身が分かれてのたうち回っているようだ。……何と言うか、凄く気持ち悪い。
やったのは俺なのだが、それはそれとしてどう見ても人間とは思えない何かが蠢いている様子は中々精神に来る……いや、これ、肉体にも……
「っ、限界、か……」
リミット十五分。既に経過していた様だ。
視界が段々と狭まってくる。ああクソ、折角勝ったってのに、締まらない……
がくん、と崩れ落ちたXXXを見てアダムは大きく息を吐いた。
「まさか七界神の一角に勝つとは」
その言葉には強い安堵が含まれており……それは、既にこちらの戦いが終了していた事を告げていた。
「何か変わったようじゃの」
『以前ならば同じ力を得ていても無理だっただろう』
同じように戦いを終わらせた天道と極がそれを見て呟いた。
三人とも、アイギス七界神を相手に戦っていたとは思えない程損耗が無い。
「……しかし、目的が謎だな」
襲撃してきた七界神は、まるで本気でなかったように守勢に傾いた戦いを見せて来た。
怒りに燃えていたキリカルでさえ、一定以上交戦した後直ぐに引き上げてしまったのだ。
「何か目的でも達成したのでは無くて? もう一人の子を捕らえたのならここに居る意味は無いでしょう?」
「そっちは無事だ。確認してる」
だからこそ謎何だ、とアダムは言い放ち未だ地面で蠢く黒欲の残骸に目を向けた。
「で、テメエらは何を企んでる?」
「知らん」「暴れろと言われた」「欲しい」
答えにもならない答えに、舌打ちをしたアダムが黒欲を消し炭にせんと熱線を放つ。
だがそれは、直前に黒欲が消失した事で不可能となった。その事にアダムは更に大きく舌打ちをして、研究所へと向き直る。
「まあ何だろうが……これで踏み込める」
「ここからが本番じゃな」
『騒がしい前哨戦だ』
「催しの号砲としては丁度いいわ」
四の怪物が四様の言葉と共に、研究所へと侵攻した。




