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村への帰還


「どうかしたの?」

「な、なんでもないです」


 今ならディニアが怒った理由がわかる。

 ルナの木の実は秋にしか採れない、貴重なものだ。

 しかも各村での早い者勝ち。

 食べる機会はそうそう多いものではなかったのだろう。

 そんな貴重なものを、半分食べて薬の材料にした私は、とんでもないばか者だったに違いない。

 というか、今なら「あの時の私おばか! なんてもったいない!」って思う。

 ルナの木の実はあれ以降も時々食べる機会があった。

 やはり半分薬に使っていたけれど。

 だって肺炎の薬はそれなりに需要があったから。

 けれど、ルナの木の実は美味しかった。

 あの頃は城に住んでいたから、取り寄せようと思えば簡単に取り寄せられた。

 でも、今の暮らしからだと秋にしか採れないし早い者勝ちだしでその貴重性は桁違いだ。

 食べたい時に食べられない。

 だからこそ美味しいし、もったいない。

 薬の材料にするなんて、とディニアが思ったのも無理はないだろう。

 もちろん薬の材料にしたことを無駄だとは思わない。

 だって実際ルシアスさんの妹さんは肺炎で死にかけてたんだし! うん!


「さあ! では次だ! 余を王子のもとへ連れて行け! 余は余を癒した“薬師の聖女”と加護を与えた王子の顔を見にきたのだ!」

「カーロですね。……しかしいきなり火聖獣様が現れたら驚くだろうな……。ダウ、ミーア、やはり先に戻ってカーロに伝えてくれないか?」

「あ、はい、わかりました」

「かしこまりました、殿下! ミーア、お乗りなさい」

「うん」


 ダウおばさんに乗り、村へと戻る。

 そういえば村は魔獣融合で生まれた魔獣が来ることおそれて、避難している真っ最中のはず。

 ……まさか火聖獣様が一撃で倒したとは、誰も思わないだろう。

 案の定、村はまだざわざわと騒がしかった。

 荷物の持ち出しや、他の村への連絡などで慌ただしい。

 そこは私とダウおばさんが戻ったことで一気に落ち着く。

 私たちが「融合で生まれた魔獣は火聖獣様が倒してくださった」と告げると別な騒めきが起きたけど。

 それはそうだ。

 火聖獣様は崖の国の守護者。

 しかもまだ眠っていると思われている。

 狭間の森は風聖獣様の領域。

 そんな火聖獣様が魔獣を倒しに来る意味がわからないだろう。


「カーロ、あなたに会いにきたんだって」

「おれ!?」

「うん、どうしよう? 村で会ったら色々聞かれちゃうよね?」

「っ」


 ダウおばさんが村の人たちにことの経緯を掻い摘んで話す横で、私はカーロに近づいて火聖獣様の目的を話す。

 同じくスティリア王女に追われる身とわかったから、火聖獣様に顔を見せるのは慎重になるべきだと思った。

 とはいえ、加護を与えてくださった火聖獣様へご挨拶もしないのはもっとまずいよね。

 悩んだ末、村から少し離れた場所でご挨拶をしよう、とカーロは顔を上げた。

 ……私はどうしよう?

 うっかり知らぬところで正体がバレるのは嫌だから、ついていこうかな。


「……あ」

「おお、ようやく顔を見せたな」


 崖の国方面の森へ出てすぐにルシアスさんと火聖獣様、風聖獣様が歩いてきた。

 ダウおばさんの自慢の足も、やはりルシアスさんや聖獣様にはなんてことのない速度なのかもしれない。

 ルシアスさんは聖森国へ戻らねばならないからと、火聖獣様と風聖獣様に頭を下げて挨拶している。


「ミーア、最後に聞きたいのだが」

「はい?」


 ルシアスさんは立ち去る直前、私の横にしゃがんで視線を合わせる。

 カーロは少し不安そうにしたけど、火聖獣様への挨拶を優先させて側から離れていく。

 それを見送ってから、改めてルシアスさんへ顔を向けた。


「……多分、無理だと思うんだが」

「聖森国のお城には行きませんよ?」

「だよね」


 では、と一呼吸置いて。


「妹に会ってはもらえないかな? 今十五歳なのだが、体が弱くてあまり社交の場に出られず、歳の近い友達がなかなかできなくてね……話し相手がほしいんだ」

「えぇ……」


 なにより、ルシアスさんは「誘拐されたり、肺に疾患があったり、すぐ熱を出したり、毒を盛られたりと、気が気でない」と頭を抱える。

 なんでそんなに狙われるんだ、その子。

 王太子であるルシアスさんが狙われるのはまだわかるのだが……あ、いや、ルシアスさんは全部自分でなんとかしてるのかもしれないけれど?


「頼む、君だけが頼りなんだ。少なくとも聖森国の貴族の令嬢は軒並み信用ならない! でも君は人間だし、権力に興味はないだろうし、薬は即座に作れるし、妹を助けてくれたこともあるし、同性だし、なにより信用できる!」

「お、落ち着いてください。……なんでエルメス姫はそんなに狙われるんですか」

「王族の血を引いているのに体が弱い……半獣人なんだ」

「!!」


 小さな声で、妹は獣の姿になれない、と教えてくれた。

 獣人とは、獣の姿と人の姿を使い分けられて初めてそう認められる生き物。

 そのどちらかの姿にしかなれない者、そのどちらの姿も併せ持つ者は半獣人として半端者の烙印を押される。

 ……まさか、聖森国のお姫様が……。


「俺は半獣人も獣人として聖森国で受け入れられるように現法を変えた。でも差別はなかなかなくならない。狭間の森で生きる半獣人たちの人権や権利を取り戻したいが、上手くいっていないのが現状だ。正直どうしたらいいのかわからなくなってる」

「ルシアスさん……」


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