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私です


 ——作ろう、聖獣治療薬。


 あの時作った材料はちゃんと覚えている。

 中でももっとも入手困難なのが[マナの花]。


「……! マナ……」


 そうだ。

 さっき風聖獣様は『マナが濃くなってる』と言っていた。

 魔獣の融合が起こると、そこはマナが濃くなるのかも。

 なら、そこに行けば[マナの花]が咲いているかもしれない。


「よし、ポーション五十本完成!」


 本当はルシアスさんが来た時に渡す用の空瓶だが、今回は事情を説明して使わせてもらおう。

 すぐに[保管]して、数日分の着替えを持って家の外へ出る。

 今更だけど私物を服以外まるで持ってないな、私。引っ越しいつでもできる。


「ミーア!」

「荷物はまとめた? え? それだけ?」

「タルト、カーロ、あのね、お願いがあるの」

「?」


 風聖獣様のために[マナの花]がほしい。

 もちろん危険は承知の上。だから——。


「私が[マナの花]を探しに行っている間、なんとかごまかしててほしいの!」

「「は?」」

「…………」


 未だかつて二人のこんな顔、こんな声……見たこと聞いたことないんですが。

 え、なに? 怖。


「なに言ってる?」

「ミーア、どうしてそんなことを言うんだ? [マナの花]? なんでほしいんだ? お前のことだから薬の材料なんだろうけど、なんの薬でどうして今、危険だと言われてる時に採りに行きたいなんで言い出したのか、ちゃんと説明しろ。タルトより言葉足らずだぞ」

「うっ」


 カーロ! ものすごいネチネチ!

 喋るようになったと思ったら言葉が多すぎる!

 でも、おっしゃることはごもっとも!


「え、えっと……[マナの花]は、風聖獣様を元気にした薬の材料なの。風聖獣様がもしも怪我をしたら、必要かと思って……」

「「……」」


 タルトとカーロは顔を見合わせる。

 それを見上げていたらカーロに深々とため息をつかれた。


「それ、今じゃなきゃダメなのか?」

「今、危ない。魔獣いなくなったあと、行く?」

「踏み荒らされたあとじゃ、薬の素材として使えないかもしれないし……」


 そもそも、あるかどうかも確信があるわけではない。

 それにふたりをつき合わせるわけにはいかないでしょ?

 だからここは、わたしひとりで見にいこうかと。


「その話ほんと?」

「「「わーーっ!」」」


 立ち話していたところを覗き込まれ、大声を出してしまった。

 見上げるとジトーっとした目で見下ろしてくるダウおばさんと、ルシアスさん。

 あ、これは聞かれてしまった感じですか?


「ミーア、君、聖獣治療薬を作れるの?」


 しゃがんで目線を合わせてきたルシアスさん。

 いつもと雰囲気が、違う……?

 グッと詰まる。

 これに対して、どう答えるのが正解なのだろう?

 でも……もし、ルシアスさん——大人の力を、借りることができたなら——!


「あの……私、風聖獣様を癒すお薬を作りたいです! そのために[マナの花]がほしい! 危険なのは承知の上です。でも、もし魔獣融合が行われている場所にマナが満ちているのなら、そこに[マナの花]が咲く可能性が高い! 連れて行ってはもらえませんか!? ……はわっ!」

「危ない!」


 自分が相変わらずバランスのよくない、子どもの体だというのを忘れていた。

 ずっこけそうになったところをタルトに引っ張られて、ルシアスさんの方に倒れ込むのを助けてもらう。

 よ、よかった、危なかった……頭突きするところだった。


「……ミーア」

「は、はい」

「作れるんだね?」


 多分、咄嗟にルシアスさんも私を抱えようとしてくれたんだろう。

 差し出されていた両手が私の両手を掴む。とても真剣な表情。

 私は——。


「はい! 作ります!」


 ()()()()、とは、あえて言わない。

 だってレシピが確立している薬ではないんだもの。

 たまたま、風聖獣様にかかった分量が適量だったのかもしれないし、材料もあれが最適だったのかわからないし。


「……そうか。わかった」

「ルシアスさん?」

「しかし、僕は[マナの花]を見たことがない。特徴を教えてくれないか?」


 え? あ、そうか。

[マナの花]は年に一回しか咲かない花。

 よく知らない人には幻の花とまで呼ばれている。


「えっと、なんかこう紫とか赤とかでピカピカふわふわしてて緑色の葉っぱが紫色になってる、根っこの茶色い花です!」

「…………」

「ええ……?」

「マ、マアマア……?」


 ……なんかすごい変な空気になった!?

 ルシアスさんの整った顔に「?」が書いてあるみたいにきょとーん、って!


「う、うーん」

「よくわからないから、アタシがミーアを乗せて行きましょうか」

「え、ダウおばさん!?」


 突然そんなことを言い出すダウおばさん。

 待って待って、そんなこと頼めない。

 おばさんを危険な目に遭わせたくない。

 けど、ルシアスさんは顔を上げてダウおばさんをじっと見る。


「確かにダチョウ種は足が速く、人……ミーアくらいの小さな子なら乗せて走るのはわけもない、か」

「エエ、エエ! 見知らぬヨソの誰かに任せるくらいなら、アタシが乗せて走るわ。タルトとカーロもその方が安心でしょう?」

「まあ」

「ダウおばさんなら……」


 と、まさかのふたりも納得。

 え、待って待って?

 これってダウおばさんが私を乗せて、魔獣融合の現場までマナの花を探しにいく流れ?


「そんな! ダウおばさん、危ないよ! 反対!」

「そんな危ないところにひとりで行こうとしていたのはだーぁれ?」

「……うっ」


 私です。


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