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《正直者は、莫迦をみる》
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僕は変態である、とここで高らかに宣言しよう。
それは間違いのない事実で嘘ではない。僕は堂々と人前で自分が変態だと言い放ち女の子に打たれる自信がある。「だから何だ?」とかは云わないでくれ、いつも云われているから。
変態へんたいと連呼していると、某他人が口癖よろしく「すみません、変態。普通じゃありませんからいますぐこの世を捨ててください」と哀れみ蔑みの言葉を投げてきたりもするのだが、僕は動じせずに変態に妄想してきた。
そうやって、過ごしていきたある日のこと。
僕は風が吹いてスカートの裾が捲れているのに、無防備にも押さえようともしない彼女の手助け……じゃなかった、風の手助けをした。
手助け。
人は僕のその手助けを〝事件〟と呼ぶだろう。
でも、僕の手助けは自分の性格に素直に従っただけで、無駄に詳細を語れば誰だって僕が変態であっただけで〝仕方がなかった〟と理解してくれると思う。
そう、望まれていないのに語れば……その日は風がよく吹いていて、スカート姿の無防備な彼女が景色を眺めているその場には偶然に僕もいた。風、彼女、僕と不運にも変態三拍子が揃っていたわけだ。いや、スカートも入れて四つ。それらの一つでも欠けていたら何も起きなかっただろう。
僕は走った。
誰かが開始の合図を送る前に僕は、本能に従って既に風で捲れているにも関わらず、彼女の真正面に立って迷うことなく両手でスカートの裾をなおも持ち上げていた。
えっ、どうしてかって?
下着が見たかったに決まっている。
えっ、だったら風で捲くり上がっているのだから手伝う必要がないって?
いや、手伝う必要はあったのさ!
残念ながら不幸ながら遠くからでは角度の問題ではなく、詳らかに言えばスカートの裾は捲れていたのだけれど、下着は見えてはいなかった。何故なら彼女は膝下までの丈の長いスカートを穿いていたからだ。それでは風がちょっとやそっとふいた力では、ちょろりと裾が捲れるだけで下着が見えるわけもなかったのだ……、だから僕が手助けする必要があった!
スカートの裾が小刻みに捲り上がったり下がったりと、ちらりと下着が見えるか見えないのが好いって人がいるけれど……、とんでもない! 大胆に見えるほうがいいに決まっている。確実に僕は女の子の下着を見たい! だから、僕は……彼女が穿いているスカートの裾を捲り上げた。
成功した。
下着を観賞できた、はずだった。
でも、哀しくもあまりに接近しすぎた結果によって、彼女のスカートの丈が長かったのも相俟って下着は見えずに、見える距離に移ろうと一歩後退したことで、僕はその場所から足を踏み外し落下してしまった。こちらもさりげなく、不運の三拍子が揃ってしまっていたのだった。
転落死。
一瞬思うと、変態走馬灯が奔るらしい。
僕は思った。
あれ? 僕変態なのに、いままで女の子と付き合ったことないじゃん。
つーか、それよりも、女の子と手すら繋いだこともないじゃん。
えっ、もしかして肌に触れた経験もない?
死ぬときにそんな願望を考えている奴を人はなんと呼ぶか、もちろん変態だ。
僕は死ぬまで変態だと思っていたが死んでも変態だった。
そんな僕は。
心残りがあったようで。
僕は。
地面に落下しそうだった、僕は……。
とっさに助けてくれようとしていた彼女のおっぱいを、触ってしまったのだった。