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気のせいだけど頑張ろう

 食事を終え、皆は自分のやるべきことへ戻っていった。

 エクアは食事の後片付け。その後は海岸へ絵を描きに。

 ギウは風呂工事の監督。

 ゴリンは城修繕の総指揮に。

 

 私はというと、畑づくりへ向かう。



 アルリナで購入した畑づくりの教科書と、八百屋の若夫婦から教えてもらったことを纏めたメモ帳を片手に、まずは除草した場所に大きなスコップを差し込んで土を掘り起こす。

 畑の大まかな区画を決めたら、次に鍬を使い耕す。

 鍬の先端で土の塊を砕き、さらに手を使い土を細かな粒状にしていく。


 ここで予め購入していた苦土石灰(くどせっかい)堆肥(たいひ)や肥料を投入。

 苦土石灰とは、ドロマイトと呼ばれる岩石を粉状や粒状にしたものだ。主成分は炭酸カルシウムと炭酸マグネシウム。


 この苦土石灰を、雨などの影響で土の中からカルシウムやマグネシウムなどが流れ出して酸性化しやすい土地に使用すれば、中和することが可能……トーワの土中がどういった状態かはわからないが。


 念のため購入しておいたから使っているだけで、ここら辺は結構いい加減だ。

 今回の畑づくりは小規模で実験的な意味だから、まぁいいだろう。


 次に堆肥(たいひ)や肥料を掘り起こした土壌全体に満遍なく混ぜる。

 今後、肥料はゴリンのメモに従い、自給していこうと思っている。

 経費削減にもなるし、重い肥料や堆肥(たいひ)を馬に持たせては他の道具が購入できない。


 これらの作業が済み、最後は土壌全体を慣らして、四方を掘って(うね)を作っておしまい。

 

 

 と思ったが、終わりに教科書とメモを確認したところでミスを見つけた。

「そうか、太陽の向きのことも考えないといけなかったのか。作物の表裏に太陽の光が当たるようにしなければならないし、防壁が差す影のことも考えて配置しないとな」



 水撒きが楽な井戸のそばに畑を作ることばかり考えて、そういったことを見落としていた。

「まぁ、今回はこれでいいだろ。試しだからな。しかし、この程度の畑づくりでこの手間……もし、領地全体を開拓しようとしたらどれほどの手間がかかることやら」


 私は視線を遠く北へ投げる

 そこにあるのは乾ききった呪われた大地。なぜそのようなことになっているのかわからないため、今のところ開墾及び開拓は不可能。

 


 次に防壁内へ目を向ける。

 広さから見て、小規模な町もしくは村程度なら作れそうだが、それに見合う人口も人手もない。


「いや、あったとしても開拓となれば、まずは食糧確保のための畑。水路。次に家屋。それらが安定すれば、店の誘致や学び舎の整備や病院の建設か? フフ、正直何をすればさっぱりだな。こういったことは素人知識程度だし。これらとは別の方法として、領主という立場ならではの開拓方法もあるが」



 土地の開拓というのには大雑把に二種類ある。

 一つは上記に記したもの。

 人を集め、土地を開墾し、水路を整備して、ライフラインと人口の確保を安定させながら設備を増やしていく。

 

 もう一つは領主ならではのもの。それは他領地を奪うこと。

 他者の領地を奪い、領地を広げ、人や資源を奪う。

 これはトーワだけのことを考えるのではなく、領主ケントとしての領地を開拓(カクダイ)していく方法。


 だが、どちらの開拓方法もまるっきり素人なので無茶はできない。

 それに後者は私好みではない。

 それは奪うのが好みではないというよりも、わざわざ面倒事を増やすのが好みではないという意味だ。

 


「こうやって手に届く範囲でのんびりやるのが性に合っている……いや、現状それしかできないからそう思っているだけで――だがもし、その手の距離を延ばせたら?」

 

――ここで私は大きく(かぶり)を振った。


「何を馬鹿なことを……さて、一段落もついたし……はぁ、自室に戻って書類作成に精を出すか。そうじゃないとエクアに怒られる」


 出会った時と比べて、ここ数日でエクアとの距離はかなり縮まった。

 そのおかげで彼女からは忌憚のない意見を聞けるが……親しくなればなるほど風当たりが強くなっているような気もしないでもないがそんなことはないと思うので気にしない。

 そう、気のせい。気のせいに過ぎないが、書類作成を頑張ろう。



 私は農具類を持って、城へ戻り、中庭の隅に置いた。

 そして、かつては吹き抜けだったアーチ状の台所の扉を開ける。


 そこで土を落とし、エクアが用意してくれていた水桶とタオルを使って肌に着いた汗と土汚れを落とす。

 汚れを綺麗に落とし終えると倉庫に置いていた城内用の衣服、白のブラウス姿に戻って城の中に入り、一階の大広間へ。


 ゴリンたちのおかげで不法占拠していた瓦礫や草木たちが、城の内部からすっかり追い出されていた。

 瓦礫と草木の賑わいで窮屈だった場所は広々としている。

 

 私は正面入り口近くに足を運び、一階全体を見回した。

 天井は高く、左隅に階段が置かれてある。

 ボロボロだった階段はゴリンたちによって整備され、補強されていた。


 また、正面奥には大きく広い壁があった。

 訪れた当初、壁には草木たちが無秩序な絵を描いていた。



「ようやく落ち着いたが……無地の壁というのも寂しいな。ムキの屋敷からせしめた絵でも飾るか? いや、それよりも時間と資金に余裕ができたら、エクアに絵を依頼するのも悪くない」


 巨大な壁のため、絵を描くとしたら時間も金もかかるだろう。

 それらの楽しみは未来に取っておくとして、私は頑丈になった階段へ向かう。



 二階からも瓦礫たちは追い出されている。しかし、一階と違い室内は未整備のまま。


 一階の整備された来客用の寝室に、ギウとエクアの部屋を用意したのだが、彼らは使用人の部屋で十分と言って、二人仲良く使用人の部屋を使っている。


 もっとも、元々は四人部屋であったため、二人だと十分に広い。

 そこにムキの屋敷にあった来客用の家具類を持ち込んだ。

 ベッドも豪華で家具も豪華。

 元使用人の部屋とはいえ、かなり豪華な部屋になっている。


 また、余った家具や装飾品の(たぐい)は一階の使っていない武器庫に放り込んである。

 いつか、家具の代わりに武具が満たす日が来るのだろうか……。

 あまり良い感じはしないが、必要最低限の備えは必要だろう。

 それもまた、先の話……。



 二階は先程も言ったとおり、ほとんどが未整備のまま。

 二階を素通りして三階まで上がり、私は自室へと入った。

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現在連載中の作品。 コミカルでありながらダークさを交える物語

牛と旅する魔王と少女~魔王は少女を王にするために楽しく旅をします~

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