豚のような鼠のような
前回のあらすじ
小柄な戦士「俺たちは古城トーワに攻め込んだが、まんまとケントの策に嵌まって負けちまった」
無骨そうな戦士「このままだと俺っちたちはムキ様に殺されちゃう。そこで、ケント様の策に縋ることにしたんだ」
小柄な戦士「ん、それは演技だよな?」
無骨そうな戦士「え? ああ、もちろんだよっ。さぁっ、再度トーワを攻めよう!」(うまくケント様たちは屋敷に侵入できたかな?)
――ムキの寝所
重厚な扉を音も立てずそ~っと開ける。
部屋の内部は屋敷の内部以上に、豪華な絨毯や絵画や彫刻などで飾り立てられていた。
中央には繭を彷彿とさせる、絹の生地が垂れ下がった天蓋付きの巨大なベッド。
そのベッドから豚のようないびき声が聞こえてくる。
豚にこっそり近づき、覗き込む……少し長めのオレンジの髪を麗しき婦人の御髪のようにベッドに広げ、いびきは豚なのに寝間着は猫さん柄の男が眠っていた。
鳴き声は豚のくせに、顔も体も細身で頬骨が浮き、前歯が二本飛び出している。外見は鼠のような男という表現がしっくりくる。猫さん柄は天敵だろうに……。
私はムキの頬を二度叩く。
「おい、起きろ」
「ぶひ~、もう食べられないよ~」
「ベタな寝言を……起きろ!」
「痛っ」
鼻の頭を指先で跳ねてやった。
すると、ムキはたまらずベッドから飛び上がるように起き上がった。
「いたたた、なんだ!?」
私は腰から剣を引き抜き、彼の首元に冷たさを伝える。
「初めまして、ムキ=シアン殿。私は古城トーワの主、ケント=ハドリーだ」
「うっ」
「目は覚めたかな?」
「ケント? てめえが?」
「ふふ、その通り。この銀の瞳を以って、本人と証明しよう。ランプの明かりだけでは確認しづらいだろうが」
「な、なんの用だ?」
「なんの用? 私は命を奪われそうになったのだ。ならば、その逆もまた……」
首元に剣を押し付け、彼の熱を深く剣に伝わす。
熱を奪われたムキは声にならぬ呻き声を上げた。
「か、く、こわ……」
「フン、私の用件はあとにしよう。まず、エクア。君は彼に言いたいことがあるのだろう」
「はい」
エクアは一歩前に出て、ムキを睨みつけるように真っ直ぐ見つめた。
「私の絵を返してください!」
「絵? そうか、てめぇが絵描きのガキか?」
「ええ、そう。それで、私の絵はどこにっ?」
「はん、なんで俺様が毛も生えそろわねぇガ、うっ」
私は剣に力を籠める。
「答えろ、ムキ。それとも、いい歳してベッドを濡らすか。色は黄色ではなく赤色だが……」
「クッ……一階の倉庫だ」
「一階か。エクア、どうする?」
「確認したいです」
「だそうだ。案内しろっ」
「……わかったよ。案内するから剣をどけてくれ」
「いいだろう」
首元からゆっくりと剣を放す。
ムキは両手を軽く上げた状態でベッドから足を投げ出し、床に置いていたフワフワのうさぎさんスリッパに足を入れて立ち上がった。
「案内すればいいんだろ。ったくよ、どこから入り込みやがったんだ?」
「無駄口は止せ。ギウ、もし彼が少しでも妙な動きを見せたら、足を切り落とせ」
「ギウ」
「ケッ、残忍な領主様だぜ」
「借金のカタに子どもを売り飛ばすような奴から言われたくはないな。ほら、足を失いたくないならさっさと歩けっ」
「チッ」
ムキは舌打ちを見せたが、抵抗は無意味だとわかっているらしく素直に歩き始めた。
私は彼の隣に立ち、剣を腹部に当てる。
後ろではギウが銛を突きつけている。
そのギウの背後からは呼吸の荒いエクアがついてきた。
「エクア、大丈夫か?」
「は、はい、なんだか、今になって急に緊張してきました」
「ケッ、金玉のちいせぇ奴だ。ああ、無かったか。あるのは玉じゃなくて毛なし饅頭ってか、ケケケ」
「無駄口は止せ、と言っただろ」
腹部にチクリと刃先を当てる。
「いつっ、わかったよ。クソッたれっ」