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交差する思惑

 小柄な戦士はいまだ納得できていないようだ。 

 そこで私は、彼にある提案を行った。



「君たちはムキの罰が怖いのか? ならば、私たちを過大評価して報告するといい」

「は、どういうことだよ?」

「君たちは勇ましく古城に攻撃を仕掛けた。だが、ギウはもちろん私も凄腕で手強かった。さらにはギウの仲間たちがいた。これでは手勢数十人程度じゃ歯が立ちません、とな」


「あ、ああ、なるほどな」

「ただし報告の際に、必死な思いで命乞いをしないとどうなるかわからんぞ」

「そりゃまあ、ムキ様の性格からしたらなぁ。なるほど、過大にねぇ……」



 小柄な戦士は顎に手を置き、ふむふむと頷いている。

 その彼から少し離れた場所で網に絡まっている無骨そうな戦士が、訝し気な表情で私を見ていた。


「どうして、俺っちたちを助けるような真似を? それにそんな報告をすれば次は、っ!?」

 彼は突然目を大きく見開き、唇を震わせる。

 そして、何度も(まばた)きを交え、無言で頭を振り始めた。

 


 どうやら彼は、先に続く展開に気づいてしまったようだ。

 それでも、放置しても良いのだが……放置した場合、面倒事が増えるので彼をアルリナへ戻すわけにはいかない。


「そこの君。悪いが捕虜になってもらうぞ。さすがに黙って全員を返すわけにはいかないからな」

「俺っちを捕虜に?」

「ちょっと待ってくれ!? こいつを捕虜にするなら、俺を捕虜にしてくれ!」



 小柄な戦士は網に絡まり、思うように身動きが取れない中でも必死に体を動かし、無骨そうな戦士を庇うように彼の腕を掴んだ。

 

「兄貴……」

「こいつとは古い付き合いで、俺の大切な仲間なんだ。だから、こいつを酷い目に遭わせるわけにはいかねぇ」

「……兄貴。ありがとう。そんな風に思ってくれていたなんて……でも、大丈夫。ケント様」

「なにかな?」


「今回の件で『大義』はそちらにあります。俺っちには終わりまでは見通せませんが、ケント様にははっきりと終着が見えているのでしょう」

「ふむ、それで?」


「俺っちたちを解放してください。必ずや、ムキ様を説得(・・)してみせます!」

「信用の担保は?」

「それはっ」



 彼はそばにいる兄貴分をしっかりと見つめ、私に視線を戻す。

 その視線は大切な誰かを思う心。彼にとって大切なのはムキよりも……。

 見られた当の兄貴分は、何が何やらさっぱり、という態度を見せている。


 弟分の想いをわからぬ兄貴分はさておき、この無骨そうな戦士は兄貴分と違い、状況の半分ほどを理解できているようだ。


「そうか。わかった、君たちを解放しよう。ムキを説得してくれ。無用な争いは避けたいからな」

「はい、必ずや、ご期待に沿えます!」


 無骨そうな戦士の声が闇夜を叩き起こす。

 私は彼の言葉を信じ、傭兵たちを解放した。



 傭兵たちは無骨そうな戦士に従い、素直に古城トーワから立ち去っていく。

 彼らの背中を見送る私の近くに、エクアとギウが寄り添う。


「いいんですか、逃がしても? 特にあちらのおっきな戦士さんは、ケント様の策に気づいているみたいですけど」

「ギウギウ」


「敵が策に気づいていることに対して不安を覚えるだろうが、彼は兄貴分を守るためにこちらに協力する」

「その根拠となるのは?」

「ムキの性分からみて、このまま手ぶらで帰ればどんなに謝罪を口にしようが、あの兄貴分は責任を取らされ殺される」

「あのおっきな戦士さんはそれを止めるために、ケント様側に?」

「そうなる。そのために彼は、一世一代の芝居を打つつもりだろう……」




――森の中



 古城トーワから意気消沈と無言で歩き続ける傭兵たち。

 その沈黙に耐え兼ねて、小柄な戦士が無骨そうな戦士に話しかけた。



「あのよぉ、本当にムキ様を説得して、矛を収めさせるつもりかよ?」

「まさかっ、そんなことをするつもりなんてさらさらないよ」

「なに?」

「俺っちはムキ様にお会い次第、全軍を以ってケントを討ち取るよう進言するつもり」

「おいおいおい、マジかよ?」

「本気だよ。そうじゃないと、俺っちも兄貴もムキ様に殺されてしまう」


「ん?」

「ムキ様は失敗を許さない。すでに俺っちたちは一度失敗している。二度目となると……」

「そ、そうだな。で、でも、どうする? このまま手ぶらで帰ったら!」


「まずはケントの言い訳を借りる。次に進言を行い、同時にケントを討つことを誓うんだ。もし、失敗すれば、俺っちたちの首を差し出すと!」

「そこまで……」

「する必要がある! 覚悟を示すことで、三度目のチャンスをもぎ取る。だから、兄貴も覚悟をしておいて!」

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現在連載中の作品。 コミカルでありながらダークさを交える物語

牛と旅する魔王と少女~魔王は少女を王にするために楽しく旅をします~

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