終焉の終焉
前章あらすじ
バルドゥル「ククク、ケントたちは数値で我々や神を覗き、私を拘束し観察しようとしたが失敗に終わった。そして、私は再び栄華を掴み取るため世に出たのだが……負けた~~~~はぁ。普通、ここまで引っ張った人物をあっさり退場させるものかっ? あそこでスースたちに捕まることなく逃げ延びてだな、意外なところでババンと登場となんやらかんやら~~」
ここは絶望と終焉を約束されたトーワ。
ケントとエクアを失い、二十四歳のフィナがトーワの代表として戦いを続けている世界。
だが、その戦いも終わりを迎えようとしていた。
荒れた北の大地と城を隔てる光の壁。その壁の大地側でひしめき合っていた魔族が一時撤退を始めた。
フィナはばたりと地面に寝そべり、親父へ問い掛ける。
「親父~、生きてる~?」
「なんとかなぁ。左目と左手を失っちまったが」
「それは前からでしょ。はぁ~、報告を」
次々と兵士たちから届く被害報告。
しかし、その報告もすぐに終える。
すでに生き残っている者はフィナたちを含め二十七人。
今回の戦いでは一人も欠けることなく終えた。
だが……。
「フィナ様、トーワのエネルギーは十分でありますが、シールドコイルの替えがありません。複製による代用も限界です」
「魔導用の結界石もです、フィナ様。もはや、トーワを守る壁は……」
「そう……次の戦いでどのくらい持つ?」
「一時間、持つかどうか」
「そっか……そう……ようやく、休めそうね……」
フィナは地面から起き上がり、トーワの大地を踏み締めて、今日まで生き残った親父やカインやキサといった二十七の戦士を瞳に宿していく。
皆の瞳に恐怖はなく、今日という日が訪れることを受け入れていた。
フィナは遺跡の方へ顔を向ける。
「私たちは頑張ったよ。もはやバルドゥルの抽象兵器なんて、たとえ正面から受けても生き残った私たちには通じない。それは私たちが確固たる存在として自分を描ける強い心を持っているから。ふふ、自分の姿を描く心だけなら神様を超えちゃってるね。でも……もう、おしまい……」
顔を遺跡から戻し、報告を上げた戦士へ言葉を伝える。
終わりの言葉を……。
「次の戦闘でトーワの壁は破られる。シールド消失三分前からカウントを始めて……私たちは自爆する」
衝撃的な言葉。それでも誰も動じない。
そう、これは決定づけられた運命だから……。
「幸い、エネルギーだけは十分にある。自爆に使用すれば、北の荒れ地を完全に吹き飛ばせる。それでも遺跡に傷をつけるなんてできないでしょうけど」
頬に深い傷を残す十六歳のキサが小さく声を生む。
「だけど、時間が作れる。一時的とはいえ、魔族の数を減らすことができる」
「そうね。もし、このスカルペルに生き残りがいて、まだ戦い続けているのなら、少しだけ助けになるかもしれない。すぐに複製されるんだろうけど」
暗い表情を見せるフィナヘ少しばかり痩せたカインが微笑み、親父は残った右手でポンと彼女の肩を叩く。
「あははは、せめて複製システムに不具合が出るように祈りましょうよ」
「ま、そういうこった。ここまで歯を食い縛った。あとは盛大に最後っ屁をかまして、そいつが通じることを祈ろうや」
「あのね、親父。もう少し上品な言い方はないの? どでかい花火とかさ」
「へっへっへ、すまねぇな。ってか、その言い方もどうよ」
「ふふ、そうね……」
フィナは微笑み、次に二十七の戦士に剣を置くように伝える。
「次、敵が押し寄せてきても、もう戦う必要はない。今からシールドが持つ間、自由に過ごして。最期の時くらい、自由に時間を使ってちょうだい」
この言葉を最期に、トーワの戦士たちは解散となった。
――次の日、早朝、執務室
一晩、魔族たちは攻め込む気配を見せず、久々にゆったりとした夢の衣にトーワは包まれた。
フィナはケントがいつも座っていた机でコーヒーを味わい、左薬指にはめている婚約指輪を見つめていた。
「結婚式もなく、先に逝って。あっちに逝ったら覚えてろよ」
この言葉の終わりと同時に、ビービーと不快なブザー音がトーワに木霊した。
しかし、フィナは執務机から動かず、ほんのりとした湯気が立ち昇るコーヒーを味わう。
そこに親父が訪れる。
「フィナの嬢ちゃん」
「ん、どうしたの?」
「全員、戦闘配置についてるぜ」
「……ふふ、馬鹿ね。最期くらいゆっくりすればいいのに……わかった、今行く。私も最期までケントの代わりに、トーワを預かる者として振舞いましょうかね」