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初耳です

――砦前



 サレートは腐れた肉に包まれる化け物たちを勇者と同じだと言う。

 父が行った研究と同じだと言う。

 皆はサレートが何を言っているのか理解できないといった様子を見せる。

 そのような中で私は動揺を隠し、極めて冷静に言葉を返した。


「君が何を言っているのか、理解に苦しむな」

「フフフフ、隠しても無駄無駄。ドハ研究所の勇者増産計画のことは知っているんだよ。それにあなたが関わっていたこともね」


 反応を忘れていた仲間たちは一斉に瞳をこちらへ寄せた。

 少し前の私なら、ここで動揺を隠しきれなかったかもしれない。

 しかし、すでに覚悟はできている。

 だからといって、こんな奴にべらべら喋られたくはないが……話すなら自らの口で仲間たちに伝えたい。



「なるほど、色々詳しいようだが、それ以上はやめてもらおうか」

「ふふ、それは機密だからかい?」

「いや違う。それらのことは私から皆に話すつもりだからだ。だから、お前は黙ってろ!」


 瞳に力が宿る。

 銀眼は想いに応え、白光を纏う。

 それを目にしたサレートは子どものようにキャッキャとはしゃぎ始めた。


「あははは、それが銀眼の力かい? でもでも、勇者の力と比べるとなんて弱々しい。ケント様は失敗作だと聞き及んでいたけど、そのようだね」

「聞き及んでいた? その物言い、全てを知っているわけではないな」


「う~ん、残念なことにね。僕が知っているのはアーガメイト様が人間を改良して勇者を産み出そうとした。そして、あなたは失敗作として生まれた。失敗作のあなただったが、勇者の完成に何らかの形で貢献した。だからこそ、()のアーガメイト様に認められ養子になることができた!」


 彼は自分の頭を叩きつけるように平手で覆う。

「ああ~、天才の称号をほしいままにしたアステ=ゼ=アーガメイト。彼の生命科学の知識は断片でも震え立つような芸術だった。僕もそんな芸術を生み出したい。そして超えたい。そう思い作り上げたのが、このテロールたちさ!」



 サレートは女性の顔と身体を持ち、胴体にいくつもの男の顔が張り付いた化け物を前に置いて、下らぬ妄想を語っている。


 盗賊たちはその妄想の犠牲になった。

 彼らに盗賊としての罪あれど、これほどの罰を受ける必要はなかっただろう。

 私は腐れた肉体に包まれる彼らにさっと視線を振って、サレートに戻す。



「彼らが父の研究を超えた存在で、父の研究の一端だと?」

「そうだよ。完璧な、存在だ。勇者たちを、大きく超えた、存在。それを僕が、生み出したんだ。人の命を、鎖のように繋ぎ、一つに、すること。それにより、絶大な力を、得た。アーガメイト様の研究のように、そして……アーガメイト様の研究を、超えた」


 (おぼろ)のような怪しげな韻を踏む言葉を漏らし、自分を抱きしめて酔い続けるサレート=ケイキ。

 私は呆れと不快さに大きく息を吐く。

 そこにフィナが小さく問いかけてくる。



「今の話、本当なの? アーガメイトが人体実験を行っていたって。そして、あんたもそれに」

「いや、初耳だ」

「え?」

「どうやら彼は、父の初期の研究論文を鵜呑みにして暴走したようだ」

「「へ?」」


 この言葉、フィナとサレートの声が重なって生まれたもの。

 私は両手を腰に当てて、研究の一端を披露する。



「たしかに父はスカルペル人の肉体を改良し、地球から訪れた勇者のような力を得られないかと研究していたが、結局のところ個々の才がものをいい、あまり役に立たないとして途中で放棄しているんだ。サレート」

「う、嘘だねっ。それじゃ、あの勇者たちは一体何なんだ!?」

「そんなものお前に話してやる義理はない。私のことを含め、それらは仲間だけに話す。お前は謎を知ることなく、ここで、死ねっ」



 私は素早くホルスターから銃を抜き取り、彼の足を狙い発砲する。

 だが、女性の体を持つ存在がサレートを庇い、銃弾を肉体で受け止めた。

 肉体からは腐れた血が流れ落ちたが、女性は平然としている。


「おおお、テロール。さすがだよっ。あはははは、ふふふふふふ、かかかっかかあかかか。まぁいい。アーガメイト様の研究がなんであったにせよ。僕が至った……人を超えし存在を産み出せた。だけど、足りない。あとはエクアさんの才能が埋まり、完璧に至る」


「エクア、彼は何を?」

「わかりません。なぜか、私の才能とやらが、あの方々を完璧にするらしいですけど」

「そうか。所詮、狂人の戯言。知る必要もない。ギウ、フィナ、盗賊たちを土へ還してやれ」

「ギウギウ」

「おっけ。いくら盗賊でもこれはあんまりだしね」

「俺も行くぜ!」



 怪我を負った親父が小さなナイフを片手に前へ出てきた。

 それをカインが引き留める。


「親父さん、安静にしていてください!」

「大丈夫だって、先生。なぁ、旦那、頼むよ。俺はまだやれる」


 彼の足元はおぼつかなく、ナイフを持つ手は小刻みに震えている。とてもじゃないが戦闘に参加させることはできない。

「駄目だ」

「旦那!」

「君にはカインとエクアを守る役目がある。君はエクアに恩があるのだろ。ならば、その想いを全うしろっ」

「旦那……わかりました。二人には指一本触れさせません!」



 エクアとカインの命を親父に預け、その二人は親父の治療に専念する。

 私は銃を取り、フィナは穂先に黄金の魔法石のついた鞭を。ギウは魔族を塵へ帰すことのできる銛を。



「サレート、大人しく降伏しろ。君の芸術とやらがいかに強かろうと、私たち相手では力不足だ」

「さぁ、それはどうでしょうかねぇ。テロール!」


 サレートの前に立っていた妄想の産物がギウに襲い掛かった。

 七つの拳を振るい、五つの足で蹴りを見舞う。

 十二の拳と蹴りは衝撃によって地面を削り、音によって(くう)()ぜさせる。


 ギウは十二の狂気を銛と手足を使い受け流すが、勢いに押され後ろへ数歩下がった。

 すぐさま銛を構え直し、あの桃色の魔族との戦いでさえ見せたことのない殺気を纏う。

 それは仲間である私たちの肌さえも粟立たせ、恐怖に息が詰まるもの。



――強敵!



 テロールと呼ばれた女性らしき存在は、桃色の魔族よりも危険な存在のようだ。

 たまらずフィナが加勢に入る。




評価を入れていただき、ありがとうございます。

文を追う瞳が先に続く物語に惹きつけられる。そのような魅力と臨場感に溢れた物語を産み出すために研鑽を続けていきます。

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現在連載中の作品。 コミカルでありながらダークさを交える物語

牛と旅する魔王と少女~魔王は少女を王にするために楽しく旅をします~

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