形作るナニか
エクアの話では、その後もジェイドおじ様は絵を購入した際に、必ずといって『サレート=ケイキ』の絵の模倣画を要求したという。
最初は一枚だけだったのが、二枚に。三枚に。
最後にはサレート=ケイキの模倣画だけを求めるようになっていた。
そこで、エクアは様子がおかしいと思い、ジェイドおじ様のことを調べる。
その結果、彼がシアンファミリーと交流があることを突き止め、さらに……。
「ジェイドおじ様はシアンファミリーに私の絵を売っていたんです。サレート=ケイキ先生の模倣画を……そしてそれを、シアンファミリーは本物のサレート=ケイキの絵として、富豪の人たちに売っていた……贋作である私の絵を、本物として売っていたんです!」
エクアは目を強く瞑り、左手を自分の心臓に当てて強く握りしめている。
そこから感じ取れるのは悔しさと――罪悪感。
彼女の心に渦巻くのは、憧れの画家であるサレート=ケイキを貶める行為に加担していたことへの後悔。
そして、それに気づきながらも、今日まで気づかぬ振りをしていたこと……。
エクアは言葉の終わりに『贋作である私の絵』と言った。
おそらく、途中でジェイドおじ様が何のためにサレート=ケイキの模倣画を持って行くのか気づいていたのだろう。
だが、貧しさがエクアから勇気を奪った。
エクアは俯いたまま、涙を膝に落としていく。
「私は……自分の絵がどう扱われているのか、なんとなく気づいていたのに、それなのにっ!」
「だが、君は己の良心を貫くことに決めたのであろう?」
「はい。でも、今さら……」
「自分と見つめ合うのに今さらも何もないだろう。私は勇気ある決断だと思うよ。まだ、年端も行かぬエクアのような少女が、罪と向き合い、その過ちを認めるとは……尊敬に値する」
「尊敬なんて、そんな、私には」
「君はまだ子どもだ。この罪を負うべきは、君の心を食い物にしようとした大人たちだ!」
私の声にびくりと反応し、エクアは私に顔を向けて、何かを発しようとした。
だが、私は手のひらを向けて、言葉を止めさせる。
幼い少女が何度も何度も後悔を口にし、苦しむ姿を見たくはない。
ギウへ顔を向ける。彼は無言で、ゆっくりと身体を縦に振った。
「ふふ、さて、これからどうするかだが、少し時間をくれ」
そう言って、私は先程抱いた違和感に、ある考えを付け加える。
(人の目を避けるようにエクアを囲った……それはいつでも彼女を始末できるように? いや、それならば、なおのこと、シアンファミリーとしてはエクアを傍に置いた方がいい。つまり、ジェイドはシアンファミリーとは別の意思の存在というわけか)
ならば、ジェイドとは何者であり、何を考えているのか……?
金持ちそうであるが貴族である証拠はない。
そのような者が貴族を名乗り、エクアを利用した。それはシアンファミリーに対しても同様だろう。
エクアの絵画を利用し貴族を名乗り、シアンファミリーに近づいた。その理由は?
だが今は、連絡もつかない。それはエクアから悪事がバレそうになったから?
(う~む、微妙なズレを感じるな……)
ズレ……情報が足りぬため、これは仕方ない。足りぬ部分は可能性で補助する。
(もし、これらの事象に何かの企てが隠れているのならば、これらの条件を積み上げる存在。積み上げたい存在がいる)
一見、不可解な出来事の塊。
しかし、シアンファミリーとジェイド以外に目を向ければ、朧気に全体像が見えてくる。
「ふむ、真実はいまだ靄の中。現時点では判断のつかない部分があるが……」
私の心に巣食う闇が囁く……。
(エクアとシアンファミリー……この話、上手く事が運べば、私に利するものがあるな)
「ふふふ。どうやら、私にできることとやるべきことが決まったな」
「あの、何をするんですか?」
エクアの問いに、私は満面の笑みを見せる。
「決まっているだろう。君を救い、シアンファミリーを潰す!」