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カリスの咆哮

「もういい! ギウ、こいつら相手に手加減なんてできない! 親父も本気でいくよ! 親父? 親父!?」


 親父には、たしかにフィナの声が届いている。

 だが、彼もまたギウと同様に相手の命を奪うことなく、二本の剣を振るい続ける。

 彼はギウのサポートに、(ひざ)当てや(ひじ)当てに隠していたナイフを敵へ飛ばす。

 ギウは親父のサポートに、道に落ちている小石を敵に蹴り飛ばす。



 フィナは自分に向かってくる敵を相手にしながら、二人の動きをよく見ていた。

(凄い、二人とも。戦い慣れてる。私とギウのコンビじゃこうはいかないだろうな)


 個々の実力だけでいえば親父よりもフィナの方が上だ。圧倒的と言ってもいい。

 しかし、集団戦闘における戦い方は親父の方が上手い。

 相手を自分が戦いやすい場所に誘い込み斬りつけていく。

 仲間と連携し、動きを合わせることができる。

 これは常に圧倒的強者として戦ってきたフィナにはできないこと。


 そしてギウは、圧倒的強者でありながら、親父と同じく仲間と背中を合わせて戦うことができる。

 あらぬ方向から飛び込んでくる攻撃を予測して、避け、反撃をする。

 フィナはギウの戦士としての姿に言葉を漏らした。



「あれは戦場を知る人の動き。やっぱり、あんたは軍人だったの?」

 トーワで初めてギウと出会ったとき、フィナはギウの体幹を見て軍の経験者と語った。

 その予測は当たっていた……いや、それ以上!


 ギウと親父は互いに視線のみで動きをやり取りする。

 隊長は彼らの動きに対応しようと兵を動かす。

 二人はそこに生まれた僅かな空白を見逃さなかった。

 

 ギウは敵の攻撃をよけつつ地面に突き刺していた銛を手に取った。

 それを正面に投げつける!


 正面には僅か数騎の騎士。

 銛は彼らの馬を穿ち、騎士は地面に叩きつけられる。


 その彼らの上を親父が駆け抜ける!

 親父の瞳に映るのはっ、宗教騎士団の隊長の姿!


 迫り来る二刀の(やいば)に、隊長は怒声を上げて騎士たちへ命じる。



「すぐに頭を押さえ突進を止めろ! おい、どうした!?」


 隊長の命令は明白に騎士たちへ届いていた。

 そして、その(めい)に従おうとしていた。

 だが、間に合わない!


 騎士たちは隊長のそばを離れていた。

 ギウと親父の動きに翻弄され、隊長のそばから離れてしまっていたのだ。

 


――彼らにそう命じたのは隊長。

――そう命じさせるように動いたのはギウと親父。



「まさかっ、私を直接狙うために陽動したのかぁ!?」

「そのまさかだよっ、()えあるルヒネの宗教騎士団様よ!」

 

 親父は二本の剣を大きく広げ、飛び上がり、体を独楽(コマ)のように回転させながら馬上の隊長に襲い掛かった!

 隊長は腰から剣を引き抜き親父を両断しようとする。

 親父は二本の剣を重ね、柄をしっかり握り締めて隊長の(やいば)へと叩きつけた。



「おらぁぁあぁぁぁっぁ!」

「なんのぉおぉぉおぉ!」


 ぶつかり合う二つの怒声。

 次に聞こえるは、剣の折れる音!


 一本の刃が宙を舞う――それは隊長の刃!


 親父はひび割れた二本の剣を手放し、体を回転させて、拳を握り締める。


「ぶっとべやっ! アグリス!!」

「なっ!? ぐごがぁぁあ!」


 親父の拳は深々と隊長の顔に突き刺さった。

 彼は大きく拳を振るって、隊長を馬上から地面へと叩きつける。

 飛び散る衝撃と無数の歯と血飛沫。


 親父が纏うは沈黙――次に来るは、騎士たちの悲鳴という名の爆動!


「た、隊長が……」

「隊長がやられたぁ!」


 親父は彼らの声に応え、雄叫びを上げながら宣言する。


「うぉぉぉぉおお! 俺はカリスのテプレノ! アグリス宗教騎士団、その隊長の誇りを刈り取ったっ! さらに誇りを刈り取られたいと申し出る者が居るならば、俺が相手になる!!」


 彼の声は騎士団に動揺という心を産み出す。

 騎士の一人が周囲を見回す。


 すでに半数近くが地面に倒れ、残る者たちにも疲労が見える。

「クッ、仕方がない。隊長を打ち倒された以上、撤退だ! 退くぞ!」


 彼らは隊長と幾人かの騎士を馬に乗せてアグリスへと退却していった。

 親父、ギウ、フィナは、気を失い地面に横たわる残された騎士たちを瞳に入れる。



「はぁ、何とか勝ったな」

「ギウギウ」

「親父、なかなかの啖呵(たんか)だったよ」

「ははは、恥ずかしいぜ。年甲斐もなく熱くなっちまった。ギウ、花道を用意してくれてありがとうよ」

「ギウ」


 三人は疲れに大きなため息を混じらせ、ケントたちが待つマッキンドーの森へ顔を向ける。

 そしてフィナが、これから先に訪れる絶望の一端を親父に尋ねた。



「上奏でヴァンナスが仲介に入ってもこじれたら、アグリスの兵が出てくる。エムト=リシタだっけ? 彼はとんでもなく強いみたいだけど、引き連れてくる兵はどんな感じ?」

「宗教騎士団よりも強く、装備もいい」

「わぁお、ご機嫌な話……さすがに次は、命を奪わないは難しい。初めから本気でやるしかない」

「ははは、たしかに……本気でも五千相手じゃ、まともな戦いにならないだろうけどな」

「うん、千くらいならなんとかなったんだけどね」

「はい?」

「どうしたの?」


「いや、百人の宗教騎士団の相手でも手こずってたのに、それよりも強い兵なんだぜ? たとえ千でも抵抗らしい抵抗もできないだろ? さっきの戦闘だってフィナの嬢ちゃん、かなりヤバいって感じで声を出してたじゃねぇか?」


 彼の声にフィナとギウは視線を飛ばし合う。そして、親父に言葉を返した。

「それは手加減して力をセーブしてたから。そのせいで無駄な傷を負う可能性が出てきたんだもん。このあと、エムト=リシタを相手にするかもしれないっていうのに」

「へ?」

「もし、初めから本気ならあっさり全員キュッとできてたよ。ねぇ、ギウ?」

「ぎうう」



 一見、ふざけた冗談かと思うやりとり。

 だけど、二人からはそのようなものは微塵も感じない。

 親父は戦いの末、ヒビの入ったサングラスを懐から取り出し、それを見つめる。

「マジかよ、二人とも、とんでもねぇな……俺、いらなかったんじゃねぇか?」


 と、意気消沈する親父の背中をフィナとギウが強く叩きつける。

「なに言ってんのよ! 親父の意地をあいつらに見せつけてやれたじゃない! それって一番必要なことでしょ!」

「ギウギウギウギウ!」

「あだっ! あたたたっ、へへ、それは何もかも二人のおかげだぜ。ありがとうよ、ギウ。フィナの嬢ちゃん」




評価を入れていただき、ありがとうございます。

文字の体幹をしっかりと安定させて、読みやすい文章を書き綴りたいと思っています。

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現在連載中の作品。 コミカルでありながらダークさを交える物語

牛と旅する魔王と少女~魔王は少女を王にするために楽しく旅をします~

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