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銀眼は眺望す

 様々なパズルのピースが形を成そうとして、うっすらと口角が緩みそうになった。

 そこにギウの声が届く。

「ギウ」

「あ、ふぅ……いかんな」

「何がいけないんですか、ケントさん?」

「いや、カイン。いけないというか……そうだな」



 私は頭を振り、話題を変える。

 それは親父の不可思議な行動に対する疑問について。

 親父に顔を向けて問いかける。


「わからん。どうして、親父はそんな行動をとった?」


 この言葉にグーフィスが口を挟む。

「わからんって、親父さんの話、聞いてましたよね? ケント様自身、理解して復唱してたじゃないですか?」

「そのわからんじゃない。なぜ、ここにきて、こんな無茶をした理由がわからんと言っているんだ」



 私は机に片肘をつき、手の甲に顎を乗せて、親父をちらりと見た。

「君は冷静で慎重な男のはずだ。自身の過去を秘匿にし、少しずつ少しずつ、私にアグリスの異様さを伝え、嫌悪感を抱かせ、そこからゆっくりと介入をほのめかす手はずじゃなかったのかな?」

「……そのつもりでした」

「では、なぜ、このような馬鹿な真似をした? しかもこれらはカリスのことを考える余地が生まれるだけで、彼らを救うことには繋がらないんだぞ? そうだというのにエクアを巻き込み、私たちの関係の全てを捨てるような真似を何故?」


「それは……それは……それは……」


「なんだ?」

「自分でも、わからないんですよ、旦那……」

「なに?」



 親父は両手を震わせて、涙を涸らし充血した瞳で、それをじっと見る。

「今回は、旦那にアグリスを実際に見てもらい、その非道さ知ってもらうだけに留めるつもりでした。ですが、この街に来てからというもの、俺の心がざわついて、おかしいんですよっ。それでも、耐えるつもりでした。だけど、旦那の姿を見て、冷静じゃいられなくなった!」


「私の姿?」

「旦那は、カリスの現状を見ても、眉一つ動かさない。旦那は、カリスのことを何とも思っちゃいないっ。旦那はトーワのことだけを考えて、何もする気がない! そう感じたんです!」

「アグリスに帰り、感情をかき乱され、そこに氷の仮面をかぶり続ける私に焦りを抱き、冷静さを失った、ということか?」

「そうです! まさか、ここまで無視されるとは思いませんでしたから!」


 

 親父の枯れた瞳から涙は流れない。

 しかし、言葉からは呪いのような涙が零れ落ちる。

 この涙をフィナは唾棄する。



「あんたさ、ケントが悪いってっ――」

「フィナっ。頼むから一々感情的になるな」

「私はあんたのことをねっ」

「フィナ」

「む~、わかった! 黙ってればいいんでしょっ、黙ってれば!」


 フィナは不満を露わとして、そっぽを向いてしまった。

 だが、仕方があるまい。

 いくらテイロー一族の(おさ)とはいえ、十六の少女にこのような現状を感情的にならず、冷静に対処しろというのは無理な話。


 そう思っていたのだが、感情的なのはフィナだけではなかった。

 カインとグーフィスが揃って声を出す。



「フィナ君が怒るのも無理はないですよ。どんな事情があろうと、こんなやり方は間違っています!」

「そうっすよ! 正直、親父さんには幻滅ですよ。エクアさんを傷つけてっ。ケント様が居なかったら、ぶん殴ってるところですよ!」

「二人とも……」



 カインもグーフィスも仲間を、友を思っての怒りだろう。

 だが、事は急を要する。

 感情に付き合っている暇はない。


 とはいえ、最も傷ついているであろう、エクアの心情は安んじておかなければなるまい。

 無言のエクアのそばにはギウが立ち、彼女を支えているが……。


 

「エクア、先ほどから静かだが、大丈夫か?」

「はい。親父さんに悪意があって裏切ったわけじゃないと知って、ホッとしましたから」

「エクアの嬢ちゃん……」


 まさかの言葉に、親父は枯れたはずの瞳に再び涙を浮かべる。

 しかしっ――


「親父さん。泣くのは許しません。謝罪も受けません。私は、親父さんを許したわけじゃありませんから」

「あ、ああ、その、すま……いや、何でもねぇ」

「ふふ」



 エクアは笑みを漏らす。

 その姿は、先ほどまで謝罪を繰り返し、涙を流し、肩を震わせていた少女とは思えない。


「エクア、どうした?」

「え、あ。すみません。いくら、親父さんが全部悪いとはいえ、浅はかな私のせいでもあるのに……」

 チクリと言葉に針を仕込むエクア。

「うぐっ」

 そして、木霊するは、親父の小さな悲鳴。

 

 エクアは信じられないくらいの余裕を見せる。

 本当にどうしたのだろうか?

 もう一度、エクアに声を掛ける。



「エクア、何を考えている?」

「考えているのは私ではありません。ケント様だと思います」

「なに?」

「だから、私はケント様を信じるだけです。そうですよねっ、ギウさん」

「ギウギウ」



 二人は互いに笑顔を向け合う……ギウは相変わらず無表情だが。

 二人のこの態度。

 どうやら、私が解決策を見出していることに気づいているようだ。



「ふふ、驚いたな。ギウはともかく、エクアがこうまで人の心を読むことのできる少女だったとは」

「ケント様の下で学んでますから。今回はケント様の真似事をしようとして、迷惑をかけてしまいましたが」

「私の真似? そうか、それで……悪い見本で済まない」

「違います。私がちゃんと見渡せるだけの力がなかったからです」


「ふふふ、君は想像以上に成長している。フィナ、エクアを見習えよ」

「はい? いや、あんたとギウとエクアは何をわかり合ってんの?」

「すぐにわかる。親父!」

「は、はい、なんでしょうか?」


 私は問いかける。

 誰もが驚く質問を……。



「もし、アグリスと戦争となるならば、どの程度の戦力が投じられ、指揮官は誰が出てくる?」




評価を入れていただき、ありがとうございます。

感謝の思いを燃料に創造の熱を生み、夏の熱さなんか吹き飛ばす勢いでお話の続きを綴ってまいります。

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現在連載中の作品。 コミカルでありながらダークさを交える物語

牛と旅する魔王と少女~魔王は少女を王にするために楽しく旅をします~

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