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自由の代償

「それで親父、何故エクアを嵌めた?」

「……旦那に、カリスのことを考えて欲しかったからです」

「カリスの現状をどうにかしてほしいということだな。君とカリスの関係は?」


 この問いに、彼は自身の胸倉を強くつまみ、右胸を見せてきた。

 そこには歯車の形をした(かす)れた焼き印がつけられてた。

 その焼き印を見て、エクアが涙の残る声を上げる。


「その焼き印……カリスの男の子にあったのと同じ」

「ああ、そうだ。この焼き印はカリスに生まれ落ちた者たち全てに、罪の烙印として付けられるもの」

「カリスの……それじゃあ、親父さんはっ?」

「ああ、俺はカリスだ……」


 

 まさかの事実に、皆は心の中だけでザワリと音を立てる。

 私は彼の右胸に押された歯車の烙印を見つめながら、過去を思い起こす。


「ムキの事件後、小柄な戦士と話した際に、アグリスのことを口にしたな。その時、君は右胸をさすっていた。アグリスに訪れたあとも、右胸に手を当てていた。君がカリスだったからか」

「はい……」

「カリスである君は、どうやって自由を得た?」

「それが全ての発端で、俺の罪なんです」

「話してみろ。ただし、時間がない。感情は入れるな、簡素に」

「わかりました」




――親父の過去


 俺はカリスでした。

 カリスは生まれながらに忌避される存在。

 子どもだろうが女だろうが関係ない。

 貴族はもちろん普通の市民や奴隷にさえも見下される存在。

 年老い、邪魔となれば殺されても何も言えない。

 当時の俺はそんな生活に嫌気がさしていた。

 このまま、カリスであり続けても、何もない……。

 家畜と同じように、屠殺される日を待ち続けるだけ。



「毎日毎日、暴力を振るわれることに怯え生きる。尊厳なんてものはなく、唾を吐きかけられ、罵倒される。それは幼子でもあってもそう。そんな日々に耐えられなかった。そんな人生を、運命を受け入れられなかった。だから俺はっ、カリスをやめた……」


――


 俺は十四の頃、隙を見て、アグリスから出ることができた。

 そうして、自由を得られた。

 俺は、自由を、自由を……自由をっ、手にしたんだ!!


――――


 感情を入れるなと、私は言った。

 だが、親父は耐えられずに、涙を流しながら自分の過去を語る。

 私は彼にその後を問う。


「自由になった君はどうしたんだ?」

「五年ほど、半島内を転々としました」

「で、戻ってきた?」


「はい……そこで、見たんですよ」

「見た? 何をだ?」

「アグリスの門の近くの防壁から突き出た棒。そこにぶら下がっていたロープを覚えてますか?」

「ああ、覚えている。二本の突き出た棒の片側の棒だけに、ロープがぶら下がっていた」


「あのロープは、二本の棒に一本ずつぶら下がってたんですよ。そして、そのロープには……俺の両親がぶら下がっていた」

「なっ!?」

「俺が見た時はもう五年経ってますから、もちろん死体なんてありゃしませんよ。俺も最初はあのロープの意味が何なのかわかりませんでした。ですので、そばを通りかかった旅人に聞いたんです……そうしたら」



『ああ、あれかい。五年位前だったかな? カリスの少年が逃げ出した見せしめに、その親が縛り首になったんだってよ。それで、その少年に見せつけるために、城門前にずっとぶら下げてたってわけさ』



「アグリスの連中は、親父とお袋をぶら下げて、死体が腐っても、鳥に食われても、ずっと放置していた。腐れた身体がロープから崩れ落ちても放置していた。俺が見た時にはロープの下に、獣に食われ虫に食われ、骨となり崩れ落ちた親父とお袋が居ました……」



 親父はそこで口を閉じた。

 皆はアグリスの壮絶な制裁に言葉が生まれない。

 だが、フィナは椅子から立ち上がり……。



「それってさ、親父は両親がそうなることを知ってたの?」

「…………無事では済まないとは思っていた」

「最低じゃん! そして、今度はエク――」


 フィナは親父を問い詰めようとする。

 それを止める。



「フィナ、話の腰を折るな」

「折るなってっ。今の許せる話? こいつ、エクアも同じように」

「許せないし、怒ってもいる。頼むから感情に飲まれないでくれ」

「むっ、もう!」


 

 フィナはお尻を叩きつけるように椅子に座った。

 私は続きを尋ねる前に、一つ間を置く質問を親父へぶつける。


「親父、続きを尋ねる前に一つ確認しておく。エクアが対処できたからいいものの、できなかった場合はどうするつもりだったんだ?」

「元々、対処できると思っていませんでした。ですので、途中で助けに入るつもりだったんですが……」

「エクアの才が君の予想を上回ったわけか……」



 エクアへちらりと視線を振る。

 彼女は涙を止めたが、ギウに抱きしめられ、いまだ肩を震わせている。

 小さな少女――だが、悪に立ち向かう勇気を持っている。

 そのような少女を利用した罪は重い。

 しかし、今は感情に飲み込まれることなく、極めて低い声で親父に続きを尋ねる。


「話を戻すが……両親を失い、君は後悔した。次に来る話は、後悔の懺悔というところか?」

「その通りです」

「アグリスの外にいる君は両親への罪滅ぼしのために、カリスを開放したいと考え始める」


「はい」

「しかし、その方法が見つからず、月日だけが流れた。そして、私と出会った」

「ええ、旦那と出会い、利用できると思いました」


「私は腐ってもアーガメイトに繋がりを持つ者。もし、私がただのお人よしの領主なら、うまくおだて、アーガメイトの名を通してヴァンナス本国にカリスの待遇改善を願う。悪党なら、利益を前に出し誘導し、アーガメイトの名を利用して、ま、同じようなパターンだな」


「ですが、旦那はどちらでもなかった。切れ者だが、慎重に慎重を重ねる御仁。そう簡単に無茶をするような方ではない」



「ふむ、ざっと言えば、君はカリスの運命を呪い、そこから逃げ出し、両親の死という代償を支払った。その死をきっかけに自身の行動を後悔し、カリス全体の運命を変えたいと願うが、方法が見つからない。そこで私と出会い、利用しようとしていた」


「その通りで……」



 私は腰を深く椅子に預け、天井を見上げる。

 頭の中で、さまざまの情報がパズルのように組みあがる。

 現在のトーワの立場。多くの種族との交流。二十二議会。そしてフィコン……。




評価を入れていただき、ありがとうございます。

微才ですが、ありったけの思いを文字に詰めて、物語を楽しんで頂けるように頑張ります。


誤字報告ありがとうございます。

本来ならば筆者が気づくべきところでありますが、推敲する目が近くになりすぎて気づかぬことが多々あるようでして、報告は大変ありがたく受け取っております。

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現在連載中の作品。 コミカルでありながらダークさを交える物語

牛と旅する魔王と少女~魔王は少女を王にするために楽しく旅をします~

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