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不思議な村

「ケント、そろそろ起きたらどう? もう、光の太陽テラスが空の真上で笑ってるわよ」


 聞き覚えのない女性の声。

 私はその声に導かれ、瞼をそっと開けた。



「う~ん……ここは?」

 少し硬めのベッドから体を起こし、辺りを見回す。

 古びた家具が置かれた小さな部屋。

 見た感じから変哲もない民家のようだ。


 

「一体、何が? ここはどこだ? どうしてこんなところにいる?」

「こんなところとはひどいわねっ。ケント、目が覚めたなら、畑の手伝いでもしに行ったら?」


 再び女性の声が聞こえた。

 声が聞こえた方向へ顔を向ける。

 そこには黒髪と黒の瞳を持つ、見たこともない女性が立っていた。

 顔立ちはそれほど堀が深くなく丸みを帯びている。

 年は二十歳(はたち)を超えていると思うが、美人というよりも可愛いという表現が合う女性だ。


「あの、あなたは?」

「私はセア。あなたのお世話係兼案内役ってとこかしら」

「案内役? 一体、何を言っている? ここはどこなんだ?」

「ふふふ。さぁ、どこでしょうね? 答えを知りたいなら、まずは村を見て回ってみたら?」

「村?」



 この問いかけに女性は答えることなく、茶目っ気を感じさせる微笑みと共に部屋から出ていった。

 私はベッドから足を投げ出し、床に置いてある靴に足を通す。

 そして、服装に目をやるが……。


「ブラウスに旅用のマント? なぜ、こんな姿でベッドに? そもそも、ここにどうやってきた? 来る前には何をしていた?」


 記憶の糸を手繰り、それらを思い出そうとする。

 最後に残っている記憶はカインと共に遺跡からトーワへ戻り、その後、化粧品について話し合いが必要になったため、遺跡から一時的にフィナたちを呼び戻し、そしてエクアと一緒にマフィンのいるマッキンドーの森に向かっている最中の記憶。


「そのあとは……っ!」

 左目に軽く痛みが走る。

「なんだ? はぁ、よくわからないが、現状ではここに繋がる記憶がない。ともかく、この村を見て回り、答えを探すか」



 民家から外へ出て、村を見回す。

 畑があり、家畜があり、人はまばら。とても深い森に囲まれた牧歌的な村。

 森はマッキンドーの森ではなさそうだ。村の建物に何か変わった点は見られない。

 しかし……。


「やぁ、ケント。調子はどうだい?」

「ケント、ゆっくりしていってね」

「何か困ったことがあったら言ってちょうだい、ケント」

「ケントが過ごしやすいようにしてあげたいからな」

「けんと~、こんにちわ~」


 年寄りや若い男女や子どもが、私の名を呼ぶ。

 だが、私は彼らを知らない。


 私は言葉を曖昧に返して、そぞろに歩いていく。

 しばらく歩き、村の門らしき場所を見つけた。

 門と言っても木の枠でできた簡素なもの。

 その枠の下に、倒れた看板があった。

 そこに書かれていた文字は?



「テラ……テラだとっ? テラと言えばたしか、勇者たちの隠れ里。まさか、ここは勇者たちの村だというのか!?」


 文献だけで知っている村の名前――テラ。

 その村には勇者の末裔が住んでいたという。(※第七章――勇者は……)



「馬鹿なっ? なぜ、そのような村に私が? だいたい、勇者の末裔はとっくの昔に絶滅し、つっ、うぎっ!!」


 左目に突然激痛が走る。

 私は痛みに耐えかねて、その場で左目を押さえうずくまる。

 私の様子を心配して、村人たちが私の名前を呼ぶ。

 その声に混じり、よく知っている仲間たちの声が響いてくる。

 声には焦りと悲痛が合わさる。


「ケント、しっかりして!」

「ケント様!! ケント様!!」

「ケントさん! 聞こえますか!?」

「旦那! しっかりしてくだせい!!」


 はっきりと届く、仲間たちの声。

 しかし、痛みがそれらをかき消す。

 私は激痛に体を押さえつけられ、意識を失った。




――トーワ城・診療室


「ケント!!」

 フィナの怒号が響く。

 だが、それを受け取る者は診療台の上で浅く呼吸を繰り返すばかり。

 台の上に乗るのは、ケント=ハドリー。

 彼の左目には、深々と鋭く尖った木片が突き刺さっていた。

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現在連載中の作品。 コミカルでありながらダークさを交える物語

牛と旅する魔王と少女~魔王は少女を王にするために楽しく旅をします~

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