表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

167/359

潤い始めるトーワ

前章のあらすじ

カイン「ケントさんたちはついに古代人の姿を見た。ですが、彼らは私たちの想像と違い、知は深くとも心は私たちと同じく薄い存在だった。また、僅かですが、北の荒れ地の浄化機構に触れることができました。ゆくゆくは緑の大地となるといいですね」


――古城トーワ



 現在、トーワにはエクア・フィナ・親父の姿はない。

 彼らは遺跡の探索に従事している。


 その間にこちらでは、化粧品の商品化について大詰めを迎えていた。

 すでに試作品は出来上がり、あとは生産を待つばかり。

 マフィンとノイファンの伝手(つて)で富豪や貴族に試供品を渡し、その反応は上々。

 

 彼らの話によれば、クライエン大陸から届く化粧品よりも質が高いそうだ。

 商品化の暁には是非とも優先的に販売してほしいという言葉も貰った。

 仲介してくれたマフィンとノイファンの感触も悪くない。


 マフィンは流通を一手に引き受け、ノイファンは今後の大衆向け商品についての話を喜んで受けてくれた。

 ムキの件で関税を撤廃していたので、こちらとしては化粧品に無用な税がかからずアルリナ内で安価で流通させられることが非常に大きい恩恵だ。

 あの時に、関税を一方的に撤廃させたのが生きてきた。



――これではノイファン率いるアルリナが不満を覚えるのではないのか?



 いや、そうでもない。

 大衆用の製造工場はアルリナに建つことになるが、製品開発に必要な材料の一部はフィナやカインではないと扱えないものがある。

 だが、余計な関税がないため、アルリナの工場側も材料費の経費削減につながる。

 

 スカルペルにおいて関税はごく一般的な税収入の一つだが、双方に不都合がなければ、むしろ無い方が得をするのかもしれない……今のところ関税撤廃は一方的で、トーワはアルリナに関税を掛けられる権限を持っているが、一つ一つ見直していく必要があるようだ。

 しかし、とても面倒そうな作業なので親父とキサに丸投げ……もとい、力を借りようと思う。



 ま、なんにせよ、化粧品開発と販売は幸先の良いスタートだ。


 半島、いやビュール大陸において、ほぼ独占状態で化粧品が販売できれば、どれほどの利益がもたらされるか想像もつかない。

 まだまだ、捕らぬ狸のなんとやらだが、最低でも皆に気持ち良く給与を払えて、ゴリンたちを雇うくらいはできそうだ。




――それからしばらく時が経ち、一部の商品化が済み、アルリナやアグリスの貴族や富豪たちの間で流行の兆しが見え始めた。


 私は執務室の椅子に深く腰を掛けて、トーワ特産の化粧品を手に取り眺めていた。

 化粧品のパッケージはエクアのデザイン。


 化粧水を納めたガラス瓶は上から下へ先が(せば)まる円柱状で、上にはガラスのキャップがある。瓶の表面には金で描かれた花の模様。

 この瓶はトロッカーのワントワーフによって作られたもの。


 瓶を包装するのは自然を身近に感じさせる新緑の布。

 布のあけ口もまた、瓶と同様に花の模様を描いている。布自体にも花の香りがあり、化粧水の香りも花。


 ここまで花にこだわるのは、海藻という文字から連想される生臭さを消すためらしい。

 私は布を手に取り、その端にあるワンポイントマークを目にして一言。


「花にこだわったというのに、どうして端にギウのマークを入れたんだろうな……」

 ギウ発案のためエクアはマークを入れたのだろうが、これは受けるんだろうか? 

 そう案じていたが、なぜかご婦人方の間でこのアンバランスなお魚マークが受けているらしい。

 世の中、何が受けるか全くわからない……。



 私はガラス瓶を手に取り、ガラスの表面に描かれた金の花模様を引き立てるラベルを目にする。

 ラベルには海衣(うみごろも)を纏った古城トーワの姿が描かれている。

 トーワの先に広がる海は、世界の大きさと豊かさを感じさせてくれる。


 それは実にエクアの絵らしい、世界の広さを感じさせてくれる絵だ。


「ふふ、仲間たちとの協力によって出来上がった商品か。多くの人々に愛される商品になるといいな」



 この思いは幻で終わることなく、ビュール大陸に広がっていく。

 だが、これにより、ある者たちの注目を浴びることになった。

 その者たちの名は……ビュール大陸最大勢力・宗教都市アグリス――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現在連載中の作品。 コミカルでありながらダークさを交える物語

牛と旅する魔王と少女~魔王は少女を王にするために楽しく旅をします~

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ