何ら変わらない
私は女性の顔を見つめ、次に瞳を覗き込む。
「この方は? そして、この瞳の色は……?」
「どうしたの、ケント? 惚れたちゃった?」
「いやいや、そうではない。何故か、見覚えがあるような気がしただけだ。あるわけないのにな」
「もしかして、そうやってナンパしてたりする?」
「してないっ。それよりも、瞳の色が気になる」
そう言って、瞳を見るように促す。
瞳の色は――銀色。私と同じ銀の瞳を持つ女性。
皆が不思議に思う中で、フィナは私にちらりと視線を振る。
「私は先に映像をざっと見ただけで気づかなかったけど……まさか親戚? どことなく、似てる感じがしないでもないし」
「そんなわけなかろう」
私は当然の否定をして、女性の瞳を見つめる。
(私の瞳には古代人の力が宿っている。この方は古代人。だから同じ力を? いや、不完全な私ではあるまいし、瞳だけにアレが集約されるなどあるはずがない)
ひたすらに彼女の瞳を見つめ続ける。
その姿にフィナが眉を折りながら話しかけてきた。
「チンピラがやる、ガンを飛ばすってやつ? 喧嘩売ってんの?」
「なぜそうなるっ?」
「あ、たしか、あんたの瞳って人工物で古代人の技術に関係してたっけ?」
この言葉に皆が驚き、エクアが声を上げた。
「え、ケント様。そうなんですか?」
「そういえばフィナは私と初めて会ったとき、私の瞳に興味を持ちルーペまで取り出してそんな話をしたな」
「それじゃあ、ケント様の瞳は?」
「ああ、古代人の技術が関係している。中身は言えないぞ」
皆は、特にフィナはまたこれだといった態度を取り、そこから頭を切り替えるように左右に振って、紫が混じる蒼玉の瞳を彼女の銀の瞳に合わせる。
「瞳の力の正体がどんなものか知らないけどさ、あんたと同じと考えるのは早計かもよ。古代人だと銀色の瞳って普通の瞳の色かもしれないし」
「なるほど、その可能性もあるか」
私たちがやり取りをしている傍らで、物言わぬ古代人の姿を目にした親父がぼそりと言葉を漏らす。
「その女の目の色はともかく、姿は俺たちと同じですね。これが古代人ですか、旦那?」
「古代人という名は通り名でその正体は異世界人なんだが……私も初めて姿を目にしたから何とも言えない。しかし、親父の言うとおり、見た目は人間族と何ら変わりないな」
マスティフは腕を組みして、鼻から息を飛ばす。
「フンッ、少々拍子抜けだな。我らよりも知識を持ち、先を行く存在の見た目がさほど変わらぬ存在だとは」
さらにマフィンとエクアの声が続く。
「不思議ニャねぇ~。映像とは思えないくらいに精巧ニャ。人形どころか人間そのものニャ」
「そうですね。ちょっと怖いです……」
皆が皆、声を出し、場の状況に慣れたところで、フィナが話を前に進める。
「じゃあ、いまから三人のやり取りを見せる。でも、音声はない。そこらへんは故障してるみたいで」
「そうか。彼らの言語がどのようなものか知りたかったのだが残念だ。いや、施設浄化の際に聞いたな」
「あれはたぶん、壊れた音声だと思うから違うよ」
「そうか?」
「そういったところも含めて今後色々調べるとして、今は映像だけで我慢して。んじゃ、動かすけど、衝撃のラストに心をしっかり持ってね。特にエクアは」
「私ですか?」
「そ。なんとなく雰囲気を察するから、途中で目をつぶってもいいからね」
「はぁ、わかりました」
「では、スタート!」
フィナは浮かんでいたモニターをグーで殴りつけた。モニターはガラスが割れたような光跡を残してキラキラと消えていく。
扱う者の癖を見抜くインターフェイスとフィナは説明していたが、どんな癖を覚えさせようとしているのだろうか……。
そのことはさておいて、三人の古代人が動きを見せ始めた。
音声はないが、白衣の老人が高らかに何かを語っている。
それをショートヘアの女性が強く否定しているように思える。
だが、態度はとても冷静で、あくまで口調のみが強い、といった感じだ。
それでも老人は語ることを止めず、口角泡を飛ばして、更なる高鳴りを声に込める様子を見せた。
するとここで、青いスーツ姿の男が手のひらを老人に向ける。
彼の形相は憎しみと怒りに塗れたもの。
次に何が起こるのか察した私は、エクアの顔を私の胸にうずめた。
「エクア!」
「キャッ!?」
男は手のひらから光を飛ばして、老人を吹き飛ばした。
いや、正確に言えば、塵に帰した。というべきだろうか。
光が当たった瞬間、老人は砂のように消えてしまった……。
それを見た黒髪の女性が男性を睨みつけ、声を荒げた様子を見せるが、途中で感情を鎮め首を横へ振った。
そこで映像が消えて、周囲は父の書斎に戻る。
映像から見た一連の行動を、私たちなりに分析して考える。
老人は何らかを語り、それは二人にとって不快な出来事であった。
女性はあくまでも冷静に老人を諭そうとするが、男性が感情を抑えきれず殺害。
それを女性は責めようとしたが、もはや意味のない行動と諦め、首を横に振った……。
これらの分析から、マスティフはとても残念そうに言葉を落とす。
「遥かに進んだ存在。しかし、仲違いをして殺す。精神的には我らと何も変わらんようだ。どれだけ高度な技術を手にしようと、所詮、人は人でしかないということか……」
古代人を知る者は、彼らのことをこう伝え聞いている。
神の如き知識と神の如き力を操る存在。
だが、映像から受け取った印象は私たちと何ら変わらぬ存在。
私たちの中には、古代人とは偉大な存在というイメージがあった。
それがここで、完全に崩されてしまった。
マスティフではないが私もそれなりにショックを受けている。
フィナは、ゆっくりと言葉を編む。
「この映像だけでは、古代人の何たるかは語れない。でも、本当に私たちと同様の精神レベルでしかないなら、次の映像で、彼らに恐怖することになるよ」
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