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浄化機構

 その後、私たちは部屋を占拠した本たちへ立ち退きを迫る。どちらかというと彼らの方が家主かもしれないが。

 

 とにかく、本の大部分を追い出して廊下にまとめ、そこからどこか別の場所へ運ぶことにした。

 フィナだけは部屋に残した本の内容から施設について調べることになった。


 部屋から追い出された本たちは移住先を変えても存在できるようなので、彼らを別の部屋に押し込めて一応の整理が終える。

 そうして執務室に戻ってくると、フィナは執務机の椅子に座って赤の線で形作られた立体映像を浮かべていた。


「フィナっ?」

「あ、お疲れ様」

「ああ……それは?」

「この施設のマップ。本棚の地図の棚にあった本からね」

「本から? どうやって?」

「こんな風に?」



 フィナは一冊の本を開き、いきなりページを破り始めた。

 その奇行に対して驚きの声を上げる間もなく、彼女はページを放り投げる。

 すると、ページは光に包まれ、フィナの前に浮かんでいる立体映像と同じものへと変わった。


「こ、これは?」

「正直、凄いよっ。古代人のインターフェースは! ある一定の知力。知識じゃなくて知力ね。ある程度の知力があれば、直感で扱えるようになっているっ。それどころか、こちらの行動を学習して、それに見合ったインターフェースへ変化するのっ!」


 フィナは興奮気味に言葉を弾ませる。

 インターフェースもさることながら、システムを扱えるようになったところにも興奮しているのだろう。

 ただ私としては、何をすれば本を破くという直感が生まれるのだろうか? という疑問の方が前に出るが……。



「色々と聞きたいが……何がわかった? 君の判断で優先事項を伝えてくれ」

「そ? それじゃ、説明させてもらうよっ」



 フィナは施設の全体マップを浮かべる。

 マップの形は球体を真ん中から切断したようなもの。切断面の階層は三十あり、中心には大きな円形状の部屋が見える。


 私たちがいる階層は上から三段目。

 フィナは私たちが存在する階層よりも下の階層を指差す。

 そこは真っ赤になっており、半透明な檻で囲まれていた。


「真っ赤なところは汚染区域。ここから下の階、施設の九割くらいに汚染が残ってる。で、半透明の檻は結界。汚染物質――放射線だろうけどそれが漏れないようにしてる。球体の外や上階は浄化できてるけど、施設全体の浄化は無理だったみたい」


 これにマフィンが答える。

「結界なら確認したニャ。階下に進む階段に結界が張ってあったニャ」

 私が研究所に閉じ込められる直前、マフィンは鈴を使い、見えない壁があることを伝えていた。


 フィナは次の説明に移る。

 マップの映像を指先で操り、施設を外側から見た全体像に切り替える。

 真っ黒な球体の施設。

 それは一つではなくて、二つ。

 二つの球体が、廊下で繋がっている。



「どうやらこの施設って、二つの球体だったぽいね。で、一つはどこかへ消えちゃった」

「どこへ?」


 フィナは映像の球体に触れる。

 すると、映像は大陸を表す。その大陸の形を私は知っている。


「これは、クライエン大陸か?」

「そっ。もう一つの球体はクライエン大陸の古代人の遺跡。分裂した理由はわからないけど」

「分裂したとしても、なぜこれほど距離が離れているのか?」

「謎よねぇ。でも、今はわかることだけにしよう」


 と言って、フィナは球体の屋上部分に指先を置き、その指を動かして白い線が生んだ。

 その線を入り口の洞窟と結ぶ。



「これで、出入り口が結ばれたはず。これは帰りに確認しましょっ」

 

 次に別の本を取り出して、またもやページ破き、投げた。

 破り捨てられた紙は立体的な映像に変わり、トーワ城とその領地の形を表した。

 北の荒れ地の部分が真っ赤に染まり、周囲は半透明の壁に囲まれている。



「これは?」

「赤いところは汚染部分で壁は結界ね。と、これから……」


 フィナは赤いところに指を置いて、ピンと弾いた。

 すると、映像から別の映像が飛び出す。

 それは光の球体で、内部では日本語らしき文字がごちゃごちゃになって動いている。

 フィナはその文字を見ながら、これでもかと口元を上げて、にやりとした笑みを見せた。


「ふふん、これ、北の荒れ地の浄化機構」

「何!? ということは、つまりっ」

「待って。浄化機構は突き止めた。でも、現時点では扱い方がわからないの」

「そうか……いや、浄化機構があるとわかっただけでも素晴らしい!」

「ふふ、こんな感じで古代人の知識の表面を引っ掻くことはできるようになった。でも、理解できるとまではいかない。そこで……ケントっ」



 フィナは青いナルフを取り出して、私に投げ寄こす。


「私はしばらくここに残って施設を調べてみる。何か用があったらそのナルフで連絡してきて。私も何か見つけたら連絡するから」

「残る? 一人でか?」

「うん」

「しかし……」

「大丈夫よ。ここまで誰かがいたわけでもないし、危険区画は封印されてるし」



 と、ここで、親父が初めてこの部屋に訪れた時に見たものを思い出す。


「あ、そういえば、この部屋に窓がありましたよね、旦那?」

「ああ、そうだったな」

「窓?」


 フィナは首を捻る。

 私は王都を見渡せる窓になってしまった場所を指差す。



「父の書斎に変化する前に、親父がちょうどいま窓になっている場所に窓らしき窪みを見つけてな。そこにはシャッターが降りていた」

「いま窓になっているところ? ちょっと待って」


 フィナが空中に浮かんでいる遺跡のマップを操る。


「……たしかに、この先に空間があるみたい。でも、アクセスができない。これは時間が掛かりそう」

「そうか……」



 私は親父とエクアに顔を向けて、ある頼みごとを行う。それをフィナが嫌がり断ろうとした。


「二人はしばらくフィナについていてくれるか? どうやらこの遺跡にはまだまだ未知の部分があるようだ。フィナ一人をここに残すというのは不安がある。なにせ、先ほど、私が死にかけたばかりの場所だからな」


「ケント、それはあの部屋に不具合があっただけで」

「他にもないとは言えないだろう?」

「そうかもしれなけど。だからこそ、私一人でいいじゃん。それにさ、未来の私とエクアはこの施設を探索して死んでないわけだし。いずれにせよ、しっかり探索しないとどうしようもないよ」



 たしかにフィナの言うとおり、探索しないと遺跡のことはわからない。

 だからとって、私も一緒にここに残るという選択肢は難しい。

 領主としてトーワを何日も空けるわけにはいかない。それに何より、今回私はここに長期滞在するつもりで訪れたわけでもない。


「わかった。だが、君のことだ。研究に没頭するだろう。そんな君の世話役が必要だ。エクアは君の世話のため。親父さんはエクアの護衛のために残ってもらいたい。二人とも構わないか?」

「はい、私は大丈夫ですが」

「俺も大丈夫ですよ。不気味ですがね」


「すまないな。正直、安全が確保されていない場所に人を残すのはどうかと思うが……何かあれば、すぐに連絡してくれ。フィナ、二人にナルフの扱い方を」

「もう~、私一人でも大丈夫なのに……だけど、一人で残るのは心細いしね。二人とも、しばらくよろしく」

「はい」

「はは、むさ苦しいおっさんだが、よろしく頼むよ。お嬢ちゃんら」



「よし、三人ともあとは頼んだ。食料の方は手持ちで数日持つだろうが、追加分は」

「ワシが直接届けよう」

「よろしいので、マスティフ殿?」

「遺跡とトーワは片道二日。しかし、トロッカーと遺跡ならば一日。ワシの方が近いからな。無論、他の者には知られぬようにしておく」


「マスティフ殿、感謝する。では、そろそろ私たちは戻るとしようか」

「そうであるな。あまり留守にするわけにもいかぬ」

「そうニャね。何か新しい発見があったら連絡するニャよ、ケント」


「もちろんだ……新しい発見と言えば、フィナ?」

「何?」

「君は父のメモ帳……この遺跡の記録に当たるメモ帳に興味を持っていなかったか?」

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現在連載中の作品。 コミカルでありながらダークさを交える物語

牛と旅する魔王と少女~魔王は少女を王にするために楽しく旅をします~

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