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――運命の分岐――

――バイオハザードマーク研究室扉前


 

 ケントが閉じ込められ、四人は焦りに焦っていた。

 そこに追い打ちをかけるように、扉の表面が赤の光を纏って点滅を始めた。

 言い知れぬ危機感に、一同の焦りはさらに増す。


 マスティフが扉をこじ開けようとするがびくともしない。

 マフィンが高出力の魔導をぶつけるが、扉に触れた途端、霧散して消えてしまう。

 親父はエクアに声をぶつけた。


「エクアの嬢ちゃん! フィナの嬢ちゃんを!!」

「わかりましたっ!」

 

 エクアはフィナのもとへ駆け出そうとした。

 その時、彼女の声が響く。


「その必要はないよ、エクア」

「え!? フィナさん!?」


 フィナが正十二面体の深紅のナルフを浮かべ、皆の前に現れた。

「さぁ、ケントを救わないと!」


 


――研究室内部


 

 研究室内部では、呻き声のような短い声が響いている。

 感覚的に、何かのカウントダウンのようだ。


「これはまずいこれはまずい、まずいぞっ。ここは病原体を扱っていた場所。誤作動か何か知らないが、この内部を完全に浄化しようとしている! 早く脱出しないと!!」


 私は扉を何度も叩く。

 しかし、力も音さえも扉に吸収されているようで、何の反応を示さない。


「みんな、聞こえるか!? 聞こえていないよな、くそっ! どこか脱出口を!!」

 室内を見回す。どこにもそのような場所はない。

 この間にもカウントダウンらしきものは続いている。

 その音に交わり、彼女の声が聞こえてきた。



「ケント、聞こえる?」


「え?」


 声は青いナルフから聞こえてきた。


「フィナか!?」

「ええ、そうよ」

「フィナ、どうやら故障か何かでこの部屋はっ」

「わかってる。部屋の右奥にある制御卓(コンソール)に向かって」

「なに?」

「いいから行ってっ。死にたいの?」

「あ、ああ、わかった」



 フィナに促されるまま、部屋右奥にあるコンソールの前にやってきた。

 それは透明な壁から透明な机が飛び出したもの。


「来たぞ。どうするんだ?」

「机の真下にパネルがある。それを開いて」

「パネル? ……あったぞ。なぜ、君がそんなことを?」

「あとで話すからっ。パネルを開いた?」


「開いた。中には色とりどりの水晶のようなものがある」

「その中で、中央にある大きな穴から右に三つ目の穴。六角形の穴があるでしょ?」

「え~っと、あったぞっ」

「そこに……そこに……」



 フィナは突然、とても苦し気に声を出す。

 だが、次には、その苦しみや辛さを吹き飛ばすような大声を張り上げた。


「そこにおばあさんからもらったペンダントをはめなさい!」

「おばあさんの? あの老婆の? だが、一体?」

「いいから早くしなさい! 死ぬよ!!」

「わ、わかった!」


 首に掛けていたペンダントを外し、六角形の七色水晶をはめこんだ。

 その途端、透明な机の上に立体的な画像が浮かぶ。

 画像はこの施設のマップのようだ。


 マップには古代人の丸文字が描かれ、この部屋と思われる部分が赤く点滅する。

 次に、正面の透明な壁にたくさんの丸文字の羅列が浮かび、それが消えると、赤く点滅していた部屋が緑色を示した。

 同時に、あれほど耳障りだったカウントダウンも止まった。



「助かった、のか?」

「まだよ。一時的に止まっただけ。この研究室は完全に壊れていて、制御は不可能なの」

「なぜ、そんなことを? 君は一体?」

「……部屋の隅に行って、扉から離れて。吹き飛ばすから……」


 フィナは私の問いかけに答えず、必要なことだけを口にしてナルフの通信を切った。




――研究室扉前



 このフィナの一連の不可思議な言動・行動は、扉の前にいた者たちにも伝わっていた。

 彼らはフィナに問いかけるが、彼女はやはり答えない。


 フィナはケントを救うために、マスティフとマフィンに声をぶつける。

「この扉はエネルギー波を吸収する。魔法をいくらぶつけようと無駄。でも、純粋な物理的な打撃なら破壊できる。そこで、マスティフさん、マフィンさん!」

「応っ!」

「なんニャ!?」


「ワントワーフとキャビットの合わせ技でこの扉を破壊して! 私が爆弾を使用するよりも、計算上、この方法が最もケントの生存率が高いらしいの。おそらく、不測の事態が発生しても、二人がいた方が対処の幅が広がるんでしょうね」


「フィナ殿、何を言っている?」

「ごめん。疑問はあとで答えてあげるっ! 早くしないとまたカウントダウンが始まっちゃう!!」

「なに、それはいかんなっ! マフィン!」

「了解ニャ! いくニャよっ!」


 マフィンは魔力を高め、身の内から光の奔流を生み出し、秘儀となる魔法の詠唱を始めた。



――共に歩み別れ線は交差する機会を失えど、盟友の絆は凛として輝く。輝きは光の衣となりて我らの穢れなき魂魄(こんぱく)を示し、十万億土へと続く道を形作る。我と汝は幾重もの層を産み、分界は終幕へと結び新たなる道を指し示さん! ニャ!!――



「受け取るニャ! マスティフ! 永遠の誓い(ノクシンガペリ)!!」


 マフィンの肉球から光の球体が飛び出して、それはマスティフの肉体を包み込んだ。

 光の衣に身を包むマスティフは腰を落とし、右拳に力を溜める。


「うぉぉおぉぉぉぉお!」


「親父とエクアは下がってるニャ! フィナ、結界の準備ニャ!」

「わかってる!」


 

 二人はエクアと親父を守るように立ち、結界を張った。

 それを見届けたマスティフは鮮烈(せんれつ)なる正拳を放つ!


「憤怒っ!」


 拳が扉にぶつかる――衝撃が廊下に広がり、空気は竜巻のように渦を巻く。


 フィナとマフィンが張った結界は衝撃と竜巻によって、耳をつんざくような悲鳴を上げ、震えは結界内部にも伝わった。

 振盪(しんとう)が、エクアたちの肌を痺れさせる。


 空気は駆け抜け、音が消える。

 マスティフは拳を放った扉を見つめ、驚愕に声を生んだ。


「なんとっ!?」



 家の丈を越える巨石でさえ消し飛ばすであろう、爆発的な力を持った拳。

 そうだというのに、扉は軽くひしゃげた程度。

 

「信じられぬっ? どれほどまでに頑丈なのだ!」

「扉が壊れなかったのは計算外だけど、十分!」

 

 フィナが扉を指差す。

 ひしゃげた扉には隙間が生まれ、そこから銀髪を見せてケントが這い出してきた。


「よいっしょっと、いつつ。あ、尻が引っ掛かった!」

「もう、何やってるのよ! みんな、手伝って!」


 フィナを中心にケントを引っ張り出す。


「いっせい~の、はい!」

「いたたたたっ、まて! 尻がとれる!」

「待たない! 時間がないんだから。もう一回! せ~のっ」

「うがっ!?」



 スポンッ、といった感じでケントが飛び出してきた。

 ケントは尻をさすっている。


「いつ~、尻の筋肉を捻った」

「あとでエクアに治療してもらいなさいっ。今はここから距離を取るのが先!」


 尻を痛めたケントは親父に支えられ、他の皆と一緒に扉から離れていく。

 しばらくすると、扉の前に半透明の青白いカーテンが降りた。

 カーテンは研究室を覆う障壁のようだ。


 次に呻くような声が響き、研究室内で眩い閃光が走る。

 光が消えると青白いカーテンは消えて、静けさのみが辺りに残った……。



 たしかな意味で助かったと安堵したケントは大きく息を吐き、フィナに問いかける。

「はあ~……フィナ、どういうことか、説明してもらえるな?」

「うん、もちろん。これはみんなにも知ってもらいたいことだから……」


 フィナは悲しみに瞳を溺れさせ、眉を顰めながらもエクアとケントへ微笑みを浮かべていた。

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現在連載中の作品。 コミカルでありながらダークさを交える物語

牛と旅する魔王と少女~魔王は少女を王にするために楽しく旅をします~

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