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過ぎ去りし叡智へ

前章のあらすじ

マフィン「ついに遺跡を探索できるニャ! ケントが抜け駆けしようとしてやがったが、まぁ許してやるニャ。だけど……放射線は怖いニャねっ。毛が抜け落ちるなんてぜ~ったいにごめんだニャ!」


――遺跡へと続く洞窟前



 私たちはフィナが生み出した、空間の力が溶け込む淡い紫色の結界に包まれた。

 結界は周囲の壁や道の形にぴったりフィットするように弾力を帯びている。

 

 その結界内部に空気を生み出す風精石(ふうせいせき)を配置し、一部の場所に空気穴を作る。

 気圧を調整することにより、外気は内部に入ってこない。


 フィナとマフィンの魔導の力で光の魔法を生み出し、遺跡内部に満ちているであろう、放射線を操り、私たちに触れないようにする。

 さらに、正十二面体の深紅のナルフを結界の外側に浮かべ、放射線が危険な濃度に達した場合、警告を発するようにした。


 これにより、遺跡内部の探索が可能となった。

 


 入り口そばで、フィナはポシェットから懐中時計を取り出す。そして、針を操作しているようだが?

「よしっ」

「何をしているんだ?」

「たぶん、私は演算をミリ秒単位まで追求し、そして間違いなんてない。だから、時間にズレもない……それに対する、絶対に忘れないためのアラーム設定。じゃ、行きましょう」

 

 彼女はまるで他人事のように自分を語り、時計をポシェットに戻し、先へ進むように私たちを促す。

 一連の行動……一体、何のための演算であり、何のためにアラームを設定したのだろうか?




――入口



 地上の洞窟入口に私たち以外誰も通れぬフィナ特製の結界を張り終え、地下へと続く道を歩いていく。

 強力な熱線で生まれた道は、冷え固まった(ただ)れた黒の肌を持つ。

 先へ進み、角度の高い坂道を下っていくと、途中で道は途切れ、底がまったく見えない巨大な地下空間へと出た。


 

「これが、古代人の遺跡……」


 巨大な地下空間には黒い球体の人工物が浮かんでいた。

 大きさは直径百メートルくらいだろうか?

 光源はナルフのほかに洞窟の外壁が淡い輝きを放っているが、巨大な空間を見通すことができるほどではない。


 しかし、球体の建物の表面に凹凸はなく、つるりとしたものだというのは見て取れた。

 また、球体半ばに廊下のようなものが見えたが、そこは引き千切れて廊下の先には何もない。

 廊下の先には何か別の施設があったのだろうか?

 

 それらの疑問はあとに置き、まずは球体の天井部分へ至るための道に視線を向ける……。



「これを降りていくのか……」

 私たちと球体の間には闇に染まった奈落――その奈落を越えるために、球体の頂点まで続く鉄で組まれた階段があった。

 おそらくこれは、ランゲンもしくはヴァンナスが用意した道だろう。

 その階段は錆びており、お世辞にも安全とは呼べそうにない。


「フィナ」

「わかってる」

 フィナは青色のナルフを使い、階段を調査する。

「かなり劣化してるけど……マスティフさん、マフィンさん、体重は?」

「175㎏だが」

「140㎏ニャ」


「うん……それくらいなら全員が同時に乗っても十分に耐えられる。あと移動中、結界の内側に手すりが入り込んできても、汚染されてるから触れちゃ駄目。結界を押し込む形で入り込んでくるから表面は結界で覆われてるけど、安全のためにね」

 


 私たちはフィナの注意をしっかり受け止めて、階段を降りていくことにした。

 ギシギシと音を立てる階段。

 入り口と球体の頂点を繋ぐ階段の真下には真っ黒な空間が広がっている。

 どれほど深いのか全く見当がつかない。


 一歩足を進めるたびに、最悪のシナリオを浮かべ冷や汗を生むが、足場は崩れることなく球体の頂点までやってきた。


 球体でありながらその巨大さゆえに、頂点に丸みを感じず平面として立っていられる。

 もちろん、端によれば底見えぬ闇まで滑り落ちることになるが。



 フィナは青色のナルフと赤色の強化ナルフを使い、周囲を観察。

「病原菌の(たぐい)なし。生命反応なし。放射線濃度は障害が出るレベル。結界がなかったら、後々体に影響が出ていたでしょうね」

「ということはつまり、遺跡の呪いの正体は?」


「放射線ってこと。ふふ~ん、これで病気の心配はしなくていいっぽい」

「君とマフィンの魔力と結界が持つ間はな」


「正直、しんどいニャ~。気を張るのも疲れるニャ」

「フン、なさけないのぅ。マッキンドーの(おさ)ともあろうものが」

「ニャンッ! マスティフは何もしてにぇ~からニャ!」



 二人の掛け合いの様子から、まだまだマフィンに余裕はありそうだ。

 私は階段を見つめているエクアと親父に声を掛ける。


「どうしたんだ、二人とも?」

「いえ、この階段って、あとどれくらい持つんだろうなぁ、と思いまして」

「これから先、何度も往復するかもしれねぇと考えたら、ありゃちょっと怖いですぜ」


「そうだな。安全性を考えて強化したいところだが、私たちが行っているのは秘密裏の調査。大工たちにここを調査していることを知られるわけにはいかないしな」

「ですが、親父さんの言う通り、今後何度も訪れることになるならかなり怖いですよ」

「そのことはあとで考えよう……古代人は一体どうやって外を行き来していたんだろうな?」



 入り口を作ったのは古代人。

 だが、階段を作ったのはスカルペル人。

 古代人は入り口までどうやってたどり着いていたのか謎だ。


「フィナ、どう思う?」

 と、呼びかけるが、フィナはナルフを注視していて、こちらの会話が耳に入っていなかったようだ。

「え、なに?」

「古代人は入り口とこの施設をどうやって行き来していたのか、という話だ」

「ああ~、たしかに疑問ね。それは内部を調査して考えましょ」


 そういって再び、ナルフに視線を戻す。

「う~ん、放射線もだけどレスターの濃度も高いなぁ」


 この、濃度という言葉にエクアが反応する。

「サノア様の力が濃い、ということですか?」

「サノア様ねぇ。エクアのとっては少し不遜な話になるかもだけど、ちょっとだけ説明しよっか」




――レスターとは?(フィナの説明)



 レスターはスカルペルに満ちている神の力。

 それは、肉体に取り入れて体内を巡る間は特に大きな力を見せない存在。

 でも、レスターを力として還元するときには、魔力という力となって発現する。そして、この魔力を具現する行為を魔法と呼ぶ。


「私たち実践派はレスターそのものをサノアの力とし、具現の法則をレスターの素と表した。だけど、ケントから理論派の知識を得て、レスターの素は原子ということがわかった」



 つまり、大気のレスターを体内に取り入れて魔力として発現するまではサノアの奇跡だけど、具現の際は科学に(のっと)っている。

 例として水の魔法――水を産み出すときは魔力を使い、実践派がレスターの素と呼んでいる大気中の水素分子と酸素分子を結合させて水を生み出している。



「でも、実際に魔法を使用した場合、魔力が大気に存在する分子量よりも多い水を産み出せるところから、魔力もしくは大気のレスターの力が何らかの作用を起こし、その量や力を増している。ってところ」


 と、そこまでフィナが話すが、エクアはもちろん親父たちもピンと来ていないようで首を傾げている。

「フィナ、分子の説明をしないとわけがわからないだろ」

「あ~、そうだね。みんな、詳しくはまた今度ね」



 講義を行っている暇はないのでレスターの話を打ち切る。

 だが、話の頭にあったレスターの濃度が濃い理由については尋ねておく。


「先ほど、放射線以外にレスターの濃度が濃いと言っていたな。理由は?」

「わからない。憶測でいいなら」

「それで構わない」


「それじゃ……レスターは力の根源。トーワの動力源から見てそれに使用したわけじゃないと思うから、古代人はレスターを集めて、何らかの実験を行おうとしていた」

「なるほど、彼らは異世界からやってた。もしかしたら、彼らの世界はレスターのような力が存在しない世界で、これを有用と考え研究しようとしていたのかもな」

「ま、全ては遺跡内部に入ってからよねぇ~」


 そう言いつつ、フィナはナルフに目をやる。


「何か見つけたのか?」

「うん。ここからちょっと先に窪みがある。たぶん入口」

「そうか。ここで話していても何も始まらない。謎の答えを見に行くとしよう」

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現在連載中の作品。 コミカルでありながらダークさを交える物語

牛と旅する魔王と少女~魔王は少女を王にするために楽しく旅をします~

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