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コミュニケーション可能?

「グッ……ここは?」



 痛みに起こされ目を開ける。

 私は痛むわき腹を押さえながら、周囲をゆっくり見まわした。

 目の前には開けた場所。背には大樹。

 周りは茂みに囲まれ、その奥には木々が乱雑に並んでいる。


「森か? マッキンドーの? 何が起こった?」

 私はわき腹から走る痛みに耐え、朧げな記憶を呼び起こす。



 フィナに名を強く呼ばれ、それに問いかけようとしたとき、横腹に衝撃が走った。

 次には女の子からもらった花が飛び散り、私は誰かに抱えあげられていた。

 その時、目に入ったのは……桃色の毛の魔族の背中。



「私は魔族に連れ去れたということか。一体、なぜ? いつっ!」

 痛むわき腹にそっと手のひらを置き、痛みが少しでも和らげないかとゆっくり深呼吸を行う。


「すーはー、折れてはなさそうだが、激しく動くのは無理だな。さて、どうする?」

 近くに魔族の気配はない。

 赤色の木漏れ日が森に降り注ぎ、そよ風が茂みを揺らす。


「もう、日が暮れようとしている。半日くらい気を失っていたということか。フィナは無事だろうか?」

 服の袖に残っていた、白い花びらを掴む。

「あの子のことだ。おそらく大丈夫だろう。それよりも、自分の心配をすべきだな」


 怪我を負い、満足に動くことすらかなわない。

 魔族がどこへ行ったのか知らないが、次に会えば、抵抗らしい抵抗もできず、喰われる。

「いや、まだ武器がある」

 私は花びらを胸のポケットに収め、代わりに弾丸を取り出そうとするが指先に痺れがあり、うまくいかない。

 そこに、正面の茂みが揺れ、奴が姿を現した。



「ぐがぁ~」



 全身を桃色の毛で覆われ、頭に角の生えた雌の魔族が、牙から涎をぽたりぽたり落としながら近づいてくる。

 私は恐怖に呼吸を止め、だたじっと魔族を見つめた。


 魔族は澱んだ黒の瞳で私を睨みつけたかと思うと、片手で頭を押さえ、その場を行ったり来たりと落ち着きのない様子を見せ始めた。


「うがぁ~、がぁ~、うぐぐ~」

「なんだ?」

 私の声に反応し、魔族はこちらをちらりと見るが、すぐに何度も頭を振りながらウロウロしている。

 その姿は、何かを訴えようとして悩んでいるかのような姿。

 私は魔族に、彼女に問いかけてみる。



「君は、何を考えている?」

「うが? がっ、がっ、がぁぁ!」


 彼女は両手を大きく振って声を張り上げた。

 言葉を訴えている、そう、私には見えた。


「すまない、君の声がわからないんだ」

「うがが、うがががぁ。うがぁ!!」


 空へ向けて咆哮を放つ。それは思いが伝わらずにイラついているようにも見える。

 私はそんな彼女の姿を見て、ある種の安心感を得る。

(よくわからないが、すぐに私を喰うつもりはないようだな)

 安堵に押され、息をつく。

 すると、息に混じり、腹が鳴った。


――グ~


 私はこの音がきっかけで、彼女が余計な思いを抱かないかと慌てて誤魔化す。

「違う、今のはだな、その、頼むから、妙なことを連想しないでくれよ」

 片手を前に出して、説得を試みる。

 すると彼女は、だらりと涎をこぼし、私の眼前に顔を近づけてきた。


「がぁ~」

「うっ」


 彼女から血腥(ちなまぐさ)い香りが立ち上る。

 思わずむせ返りたくなるが、それをぐっとこらえて、息を止めた。

 しばらくの間、彼女は私を観察していたが、背中を見せて出てきた茂みに戻っていった。



「た、助かった? いや、助かってない。彼女が戻ってこないうちに、ここから、っ!」


 僅かに体を動かしただけ、わき腹に痛みが走る。

 とてもじゃないが逃げ出すなんて不可能のようだ。

「くそっ、このままでは……だが、もしかしたら」


 私は茂みを見つめる。

「なぜか彼女は、私とコミュニケーションを取ろうとしているように見える。もし、そうならば、何とか分かり合えるかもしれない」

 そう、感じていたのだが、次に彼女が茂みから現れた時、それがどれだけ遠いことなのかと思い知らされた……。

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現在連載中の作品。 コミカルでありながらダークさを交える物語

牛と旅する魔王と少女~魔王は少女を王にするために楽しく旅をします~

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