どして、そなる?
――宴の会場
巨大なキノコを椅子と机代わりにした会場には、大勢のキャビットたちがちょこまかと歩き、食事や酒を運んでいる最中だった。
彼らの姿を見てフィナは思わず、あるワードを口にしそうになり、カオマニーから警告を受ける。
「うわっ、かわ――」
「フィナ、キャビットに可愛いは禁句ニャよ。侮辱として、罰せられるニャよ」
「あ、そうだった。でも、これを見せられたらつい出ちゃうよね~」
「愛らしい見目を持っているのはたしかニャ。でも、私たちは戦士としての誇りがあるニャ。だから、頼もしい、心強い、と褒めてくれると嬉しいニャ」
「そんなこと言ったって……」
「にゃん、にゃん、にゃにゃにゃにゃん♪」
赤いチョーカーをした三毛模様のキャビットの少女が、キノコテーブルの上に花を飾り付けている。
その姿は実にメルヘンで愛おしい。
フィナでなくとも、私でさえ思わず禁句を口にしてしまいそうになる。
「ふふ、なかなか厳しいな、これは」
「そこは頑張ってほしいニャ。でも、もし我慢できなくなったら言ってほしいニャ」
「ん?」
「にゃふふ、それはあとの話ニャ。そろそろ親分がやってくるニャ。そしたら、宴の始まりなのニャ!」
カオマニーは小さなお手手で口元を隠して笑い声を立てる。
その声を聞いて、イラが再び奇妙な忠告をしてきた。
「ケント様、どうかお気を強く。そうじゃないと、剥がされちゃうわよ~」
「剥がされる?」
「おお~、ケント。待たせてわりぃニャ」
「領主のお兄さ~ん。お待たせ~」
「お? マフィンにキサか。それに……」
マフィンがキサと手を繋ぎながらこちらへ向かってくる。
二人はとても満足そうな笑みを見せて、さらにとても仲良さげだ。
保険の話が順調に進んだと見える。
その二人の隣に、青い狩人服に身を包む、白い毛並みとヘーゼルカラーの瞳を持つ青年のキャビットがいた。
彼の耳はへたりと倒れていて、その耳周辺と尻尾の先は茶色の縞模様をしている。
背の高さはキサよりも少し低いくらい。
私の視線に気づいたマフィンが彼のことを紹介してきた。
「こいつは俺の息子の『スコティ』だニャ」
「初めまして、ケント様。スコティと申しますニャ」
彼は豪快なマフィンとは違い、物腰はとても柔らかで、言葉遣いも丁寧な青年だ。
「こちらこそ、よろしく。後ろの二人はフィナにカインだ」
「よろしくね」
「よろしくお願いします」
簡単な挨拶を交わし、私はマフィンに顔を向ける。
すると彼は、私たちにとって朗報と呼べる声を上げる。同時に目玉が飛び出すような出来事も口にした。
「そうそう、ケント。アルリナとの関係修復にゃが、俺たちとしては前向きに検討することに決めたニャ。いや、是非とも、と言いたいニャ」
「そうかっ! それはよかった!」
「ああ、なにせ、キサとスコティの結婚のことを考えると、アルリナと仲良くしておかないとニャ」
「……………………は?」
この声は私だけのものではない。
フィナとカインの声も重なっている。
私は何もない場所を手で擦るように動かし、動揺を隠せないまま、尋ねる。
「いま、結婚、と?」
「おう、結婚ニャ。もちろん、いますぐってわけじゃにぇ~けどニャ。とりあえず、婚約ってことニャ。結婚ためにはまず、アルリナと関係を修復して、キサのご両親とお付き合いしやすくしにぇ~とニャ」
「え、は、ええ?」
私はぎごちなくキサに顔を向ける。
キサはとっても元気よく言葉を返してきた。
「マフィン様と商売のお話をしてたら、スコティちゃんと結婚しないかって話になったの」
「どして、そなる?」
言葉が片言になる。首をギギギっとマフィンへ動かす。
「いや~、キサと話せば話すほど、人間族にしておくのが惜しいくらいの商売人だったんでニャ。この子の才が是非とも欲しくにゃって、俺の息子の嫁に迎えたいって考えたんだニャ。幸い、キサも息子のことを気に入ってくれたようでニャ。にゃ、キサ」
「うん、スコティちゃん、ふかふかで可愛いし」
「今の発言、どう見ても恋愛対象の発言では。それにキャビット族に可愛いは……」
「ニャッハッハッハ! キサは特別だニャっ。いくらでも俺たちを可愛い呼ばわりしても構わニェ~。それによ、今はスコティのことを可愛いだけだと思ってるかもしれにゃいが、そのうち、愛ってのも生まれるニャろっ」
「えっと、どうだろうな……? あの、スコティ殿。スコティ殿は納得して?」
「納得も何も、親父が言い出したら人の話にゃんて聞きませんから」
と言って、父親をちらりと見上げる。横暴な父は彼の背中をドンっと叩く。
「この野郎っ! こんなに可愛いい才女が気に食わにぇのかニャ!? てめぇにはもったいニャいくらいだぞ!」
「それはっ」
スコティは視線を父親からキサへ向けた。
キサと視線がかち合い、キサがにこりと微笑むと、スコティは口をもごもごとして、顔を洗うような動作を見せた……この様子から、まんざらでもなさそうだ。
私はキサとスコティに視線を送り、色々なことを考える。
種族の壁や年齢差など。
しかし、それらはキサとその両親。そして、マフィンとスコティが話し合うこと。
私が余計な口を挟むことではない。
というわけで、私は彼らに無難な言葉を送る。
「まぁ、なんだ。ご婚約、おめでとう」