第21章 『謎の男女と紀子の敗北 ~戻ってきた主任 引杉範人~』編
取り急ぎ、第21章を投稿します。
次の日、紀子と紋子が出社しようとアパートから出ると、入り口に黒い服に身を包んだ男がいた。
よく見ると、後ろには女性もいる。
紀子たちが構わず会社の方に向かうと、男が声をかけてきた。
男「よう、お姉さん。」
紀子「私?」
男「そう、ずいぶんな『力』持ってるそうじゃない。」
紀子「は?」
すると、男の後ろに隠れるようにしている女が言った。
女「『歪み』が生じた。私達も『手伝う』ことになりました。」
紋子「…なんか…。」
紀子「…湧いてきたね。」
男は女の方を見て、何やら話をし始めた。
紀子たちは気を取り直して、会社の方に向かいだした。
紀子「何あれ?」
紋子「…さぁ…。」
紋子が後ろを振り返ると、その男女も後をつけてきている。
「南無妙法蓮華経。南無妙法蓮華経。」
歩いている方向からそんな声がして、紋子も前を見ると、年老いた男女がこっちを見ていた。
紋子「今度は何よ…。」
紀子「…さぁ…。」
老人「ひょっひょっひょっひょっひょ…。」
そう言って老人は、手に持っている杖で地面を思いっきり突いた。
すると、その地面から、黒い霧のようなものが紀子に向かって襲い掛かった。
紀子「きゃぁぁぁっ!」
紋子「紀子!」
紀子の周りに黒い霧がまとう。
老人「ひょっひょっひょっひょっひょ…。」
老人が再び杖で地面を突くと、黒い霧が再び紀子を襲う。
紋子「紀子!『コート』『コート』!」
紀子は両腕を顔の前にやるだけで手いっぱいだった。
すると、いつの間にか、紋子の左側に、後ろにいた男がいた。
男「…ですよねぇ…。」
紋子が男の方を振り向くと、男の左斜め後ろには女の人もこびりつくようにしている。
男は、両手を前にして、『呪文』を唱えた。
男「『萬國仰天掌』!(ばんこくびっくりしょう)」
すると、男の手のひらの前から、白い火の玉状の『波動』が飛び出し、二人の老人の周りを通り過ぎていった。
二人の老人は、何事もなかったかのように、紋子と紀子を通り過ぎていった。
紀子と紋子はビビりながら老人が通り過ぎていくのを待った。
老人は、まるで何かに乗り移られでもしていたかのように、
紀子の右横を、意を介することもなく通り過ぎていった。
二人の老人が通り過ぎていってしばらくすると、紀子が尋ねた。
紀子「なんだったんですか?あれ。」
すると、男の後ろにこびりついている女が答えた。
女「あなた達では『処理しきれない』事態が発生しつつある。」
紋子「そんなこと言われましても、何のことやら…。」
男「『神出鬼没』あんたたちがどういう生活をしているのかは、大体調べてある。つまり、そういうことだ。」
紋子「意味が分かりません。」
男「能天気な生活の中に、『神出鬼没』の事態が発生する。」
女「『カラス』。」
男「そう、つまりそういうことだ。」
紋子「何か知りませんけど、凄い人そうですね。」
男「そんなこともない。俺にはその、『コート』の技は使えないし。」
女「『相性』。」
男「俺は……おおっと、自己紹介をしようと思ったら、もうこんな時間だ。」
女「遅刻する。」
紋子「…。」
男「いや、あんた達が、だぜ?」
紀子は時計を見た。
紀子「紋子!」
紋子もハッとなって時計を見ると、
紋子「きゃー!」
紀子と紋子は男と女に何も言わず駆けて会社の方に向かった。
電車に乗ると、果たして会社が大事か、あの男と女のなぞ解明が大事か、少し分からなくなった紋子と紀子であった。
紋子「紀子、あんた、あれ、大丈夫だった?」
紀子「…大丈夫みたいだけど…何か疲れた…。」
紋子「あんなのこれから何回もあるわけ?」
紀子「勘弁してよー…。」
重い足を引きながら、紀子と紋子は会社にたどり着いた。
事務室に入ると、なおの事足が重い。
紀子「課長の野郎…。」
課長の席が空席なだけでも足が重かった。八十子と花依子はすでに出勤していた。
紀子と紋子が席に座って少しすると、課長がだれか引き連れて、紀子と紋子の席の後ろを通った。
紀子「あ…。」
課長が紀子と紋子の方を振り返ると、声をかけてきた。
課長「今日から、『引杉』君が戻ることになった。」
課長が引き連れてきたのは、『引杉 範人』、紀子と紋子の課の唯一の主任だった。
範人が会釈をしながら右手を軽く上げる。
紀子「あ、お帰りなさい。」
紋子「お帰りなさーい。」
八十子は同じ課で会うのが初めてだった。
課長「あそこにいるのは、『受付』からもらった祭田八十子君。」
範人「初めまして。引杉範人と言います。」
八十子「初めまして。」
課長「それから、派遣できている『平』君。『平 花依子』って名前だそうだ。」
範人「初めまして。」
花依子「初めまして。」
課長席に二人で行くのを八十子が見ていると、左手薬指に指輪を見つけた。
紀子がガッツポーズしている。
挙句、その両腕を高々と上げた。
紋子も安堵のため息を漏らしている。
紀子は、「ちょっと総務に郵便物がないか確認しに行ってきます。」といい、席を立った。
紋子も続いた。
廊下に出ると、紀子は安堵から声を漏らした。
紀子「『育休取得以外完璧』なのが来たー…。」
紋子「ふふふ…。」
紀子「これで仕事楽になるわ…。」
紋子「そうだね。」
紀子と紋子が席に戻ると、範人の復帰に気づいた他の部署が不満そうにしている。
紀子「ですよねー…。」
紋子「うん…分かる…。」
八十子が何事なのかとおろおろしている。
その日は他の部署の圧力により、テレビがつけられた。
安倍晋三内閣総理大臣(執筆当時)はその日出席しておらず、副総理が代理出席していた。
それを見てお茶を吹き出してしまう紀子であった。
テレビのリモコンでテレビをつけた女性も、その日は腹痛だったようで、お腹をおさえながら自分の席に戻っていった。
引き続き、ご愛読の程、よろしくお願い申し上げます。
さやそばらすか。




