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「魔力でもないとやってられない!」  作者: さやそばらすか(第25章より『ことそばらすか』)
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第14章 『怪奇…動く人形と地蔵』

取り急ぎ、第14章を出稿いたします。

そして、ついに、八十子、紀子、紋子、この三人の『浜松旅行』の日が襲来した。



紀子と紋子は、前日、八十子と連絡を取る一方で、アパートで『悲鳴』を上げそうになっていた。



そして、八十子との旅行の当日、三人は東京駅で待ち合わせた。



紋子「良かったねー…全日程、『電車』移動で…。」



紀子「うん…。」



混み合う東京駅…。



そこに、人をかきわけてこっちに向かってくる女の姿が見えだした。



そして、キャリーバックを引き、小走りしながらやってくる八十子の姿が見えだした。



八十子「すみません、先輩!」



八十子は、紀子と紋子の間にたどり着くと、腰をかがめて息を切らした。



八十子「駅弁買っておこうと思ったら並んでて…。」



紋子「駅弁?」



八十子「ほら、電車の中で。」



そう言って八十子は手にぶら下げていた駅弁を二人に渡した。



紀子「…ありがとう。」



紋子「ありがとう…もしかして…。」



八十子「え?」



紋子「今日…『こだま』?」



八十子「…。」



八十子が答えそうなのを紋子が遮った。



紋子「ああ、言わなくていい言わなくていい…。」



紀子「…マジか…。」



八十子「…『ひかり』の…自由席で行きましょう。」



紋子「そうして…。」



紀子「うん…。」



八十子は、紀子と紋子に、『奇怪な』行きと帰りの切符を渡すと、



「行きましょう」と言って改札口へと向かっていった。



浜松に止まる『ひかり』の発車前まで、二時間ほど、



待合室でスターバックスのコーヒーを飲みながら、売店でおかしとジュースを飲みながら時間をつぶした。



発車前に『ひかり』の自由席の列に並び、何とか三人用の席に座ることができた三人は、売店で買ったおかしの残りを傍らに、駅弁を食べ始めた。



ガヤガヤとした車内で、静かに三人の時間が過ぎていく。



紋子はスマートフォンをいじって、LINEだの、メールだのにいそしみ始めた。



紀子は、熱海を過ぎたあたりから、八十子としゃべり始めた。



八十子は、なかなかない三人での旅行を少なからず喜んでいるようだった。



浜松駅に着いた頃には、もう午後3時を回っていた。



その日は、特に何の変哲もないホテルに三人で泊まることになっている。



紋子はいよいよテンションを落とし、紀子と八十子が喋っている間、ホテルへの道のりを先に歩いて行った。



『贅沢』ではなく、『節約』の限りを尽くした三人部屋に入ると、紋子はベランダ側のベッドに座り、ベランダの方を眺めて何も言わなかった。


八十子「…。」



紀子「…。」



八十子「何時から…飲みに行きましょうか?」



紀子「できるだけ早く行って、ゆっくりしようか?」



八十子「そ、そうですね。」



紋子「そうしよう?」



八十子「は、はい!」



八十子は緊張気味に答えた。



焼き鳥屋に入ると紋子は、ビールを飲みまくり、うっぷんを晴らすかのように次々に野菜系の串焼きを注文する。



八十子が恐る恐る、ウナギの串焼きを注文すると、紋子が思いっきりにらんできた。



八十子「…すみません…。」



八十子のベタな注文で、火に油が注がれたかのように、紋子は飲み続ける。



紀子はチビチビと、チューハイを飲み、八十子は「ウーロン茶」と言い出した。



そこでまた、紋子が八十子をにらんだ。



八十子「…すみません…。」



紀子が堪えかねて、八十子に話を振った。



紀子「…あのさ、八十子、明日行くところってさぁ、どういうところなの?」



紋子が思いっきり首を横に振る。



八十子「その…私も行ったことないんですが、多分、自然が豊かなところなんだと思います。」



紀子ですら(『多分』?)と思わざるを得なかった。



次第に紀子が、チューハイを飲むペースを上げ、日本酒を飲み始めた。



八十子はそれを何も不思議には思わない。



紋子が首を縦に振ったかのような仕草をした。



ホテルに戻り、缶チューハイとペットボトルの飲み物を部屋の机において、ぐったりと寝た三人は、翌朝、ホテルのフロントからの電話で目が覚めた。



八十子「うわあぁぁぁぁ!」



紋子「…どうした?おはよう…。」



紀子「…。」



もう12時を過ぎていた。



紋子「…いやな予感…。」



八十子「市内で食事を済ませて出ましょうか?」



紋子「帰り着くのって何時よ?」



八十子「えっと…。」



紀子「…分かるわけ…ないよね?」



八十子「はい…。」



そう言って八十子は首を縦に振った。



三人は交代交代シャワールームを使い、着替えて出発の準備をした。



紋子「温泉ぐらいさぁ!!」



八十子「…すみません…。」



紀子「今日行くところって、そんな大事なところなの?」



八十子「多分、良いところではありますよ?」



紀子「…そう…。」



紀子の脳裏にはなぜか、『聖徳太子』の形をした男の姿が浮かんだ。



それが紀子にとってはかなりの恐怖になり始めた。



三人はホテルを出て、『すき家』で牛丼を食べ、遠州鉄道に早歩きをして行った。



紋子「お洒落な店くらいさぁ!」



八十子「…すみません…。」



『遠州鉄道浜松駅』から、『遠州岩水寺駅』に向かった。



浜松の市街地を眺められる風景から、次第にのどかな風景に変わっていくあたりが、紋子の胸に何かを突き刺した。



『遠州岩水寺駅』



そこは、のどかでしかない場所であった。



東京とは完全に異なる、『遠州鉄道』しか電車が通っていない、新幹線も通っていない、地下鉄も通っていない…バスは通っているのであろうか。



何より問題は、もうすぐ、日が暮れそうなことだった。



紀子の脳裏に、『聖徳太子』の形をした男の姿が浮かんだ…。



『嫌な予感…。』と紀子が不安げなのを、紋子が気付いた。



紋子「…何か…ありそうな訳?」



紀子は頷いた。



八十子は、前に進み手招きして二人を呼んだ。



紋子「あーあ…。」



八十子は、線路と同じ方向をなぞるように北に向かった。



しばらくのどかで、暗くなりそうな風景が広がっていたかと思うと、八十子がカメラを構えた。



『パシャッ!パシャッ!』と写真をとり、『よし!』といわんばかりの顔をして、紀子と紋子の方を見た。



紋子「それが…目的?」



八十子は申し訳なさそうに頷いた。



紋子「ここ、良いところだね?」



八十子「そうですよね!?」



紋子は頷いた。



八十子「もう少し、歩いても良いですか?」



紋子「…いいけど…。」



紀子「…私も…。」



八十子「じゃあ、『岩水寺駅』っていうのがこの先にあるんで、そこまで歩きましょう。」



近くには、『西鹿島駅』という看板が見えた。



八十子が誘導するまま二人は歩き続ける。



いよいよ暗くなり、八十子は、来たこともないような道を、スマホを開きながら歩いている。



すると、「うわぁ!」と八十子が声を上げた。



二人で後ろを歩いていた紀子と紋子は驚きながら八十子に歩み寄った。



八十子「びっくりしたぁ…。」



紋子「どうしたの?」



八十子「いや、これにびっくりしちゃって…。」



よく見ると、小さな社が備えつけられており、地蔵の前に線香が立てられている。



地蔵の隣には小さな赤子のような人形。



紋子「何よ、人形が置いてあるだけじゃない?」



八十子「…すみません。」



そういうと、その地蔵が祀られている社の天井の上に、半透明で小さな『聖徳太子』の形をした男と、『卑弥呼』の形をした女性の姿が映し出された。



紋子「何よこれ…。」



紀子はなぜか震えだした。



すると、地蔵の隣に置かれた人形が『カタカタカタカタ…』と動き始めた。



紋子「キャーッ!」



暗闇の中で声を上げる紋子。



紀子は震えている。



八十子はその人形が震えている光景を凝視している。



少し経つと、『聖徳太子』のような形の男の人と、『卑弥呼』のような形の女の人が姿を消した。



すると、人形も、動きを止めた。



紀子はなぜか、しばらく震えが止まらなかった。



八十子「大丈夫ですか!?紀子さん。」



紀子は頷く。



紋子「ちょっと休憩して行こうか?」



八十子「…でも…暗いです…。」



紋子がにらむ…。



八十子「でもー…。」



紋子はやむを得ず、『岩水駅』まで紀子を支えながら歩いた。



八十子は心配そうに紀子と紋子の歩く先を、スマホのライトで照らしながら歩いた。



『岩水駅』の次にたどり着いたのは、『西鹿島駅』。



紋子「カッチーン!」



八十子「すみません…。」



紀子は少し落ち着いたかのように、微笑んでいた。



そのまま掛川駅まで電車に乗ってくらい夜道を移動し、掛川から新幹線に乗って、東京に戻った。



三人が夕食にありつけたのは、新幹線に乗ってからだった。



窓側に座った紋子が、通路側に座った八十子に声をかけた。



紋子「八十子…今度…。いや、いいや。」



八十子はただただ緊張した表情を浮かべているだけだった。



窓側に座った紋子は、何も見えない窓の方を向いて、次第に微笑みを浮かべ始めた。



八十子は降りたら何を言われるのだろうかと気が気でなかった。



そんな心配をよそに、『品川駅』のビル群やその明かりが見え始め、『東京駅』までたどり着いた。



紋子「あー…もうすぐ会社が始まるねー…。」



八十子「…そうですね…。」



八十子は緊張しっぱなしだった。



紋子「今年もよろしく!」



八十子「私の…方こそ…。」



紀子は何も言わなかったが、不思議と、何事もなかったかのように三人は別れてその日は終わった。


引き続きご愛読の程、よろしくお願いいたします。

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