第11章 『紀子の危機 ~紀子に渦巻くクリスマスのトラウマ~』編
取り急ぎ、第11章を投稿いたします。
今年最後の週末、帰り道の一言目、それがすべての始まりだった。
紋子「紀子~、今週末何…あっ…。」
紀子「はっ!」
紀子はそういうと、肩を落としてうなだれた。
"THE クリスマス"
それは、北条紀子にとって、トラウマの日であった。
毎年のようにクリスマスになると陰鬱としている。
クリスマスの日に会社で一緒にいると、ほとんど近づくことができない。
近くにいた花依子が何事かと心配している。
帰る支度をして、会社から出ても、紀子は元気が出ない。
紋子「ねえ、花依子ちゃん、範人が来て、仕事楽になったでしょー?」
花依子「は、はい。分からないところちゃんと教えてくれるし、助かってます。」
紀子「…。」
紋子は何とか紀子を元気づけようとしていた。
花依子は何のことやらわからない。
紋子の怒りゲージがたまる。
紋子「花依子ちゃん、週末、何するの?」
花依子「暇なんで、動物園にでも行こうかなーって思ってます。」
紋子「寒くないの?」
花依子「寒いんですけど、大学時代、そこでバイトしてて。」
紋子「そうなんだー?」
紋子は紀子の方を見るが、相変わらずうなだれている。
紋子「ねえ、紀子、私達も行ってみようか?」
紀子「……うん…いいよ…どっちでも…。」
紋子「よし、じゃあ、行こう!動物園、三人で。」
花依子「はい!」
そして、恐怖の『クリスマスイブ』の日曜日、三人は動物園の前で待ち合わせた。
その前日、紋子はアパートに立てこもりつつ、紀子とは連絡を絶っていた。
その日も紋子は、紀子より先んじて動物園について、二人を待っていた。
何とか気を張っているかのように動物園に現れた紀子。その少し後に、花依子がやってきた。
花依子「先輩!すみません!遅くなって。」
紋子「いいよー…。」
紀子「うん…いいよー…。」
紋子は小一時間待たされていた。紀子と二人になっても、ほとんど会話が成立しなかったのだ。
三人で動物園に入ると、知り合いがまだ勤めていたりするらしく、時折、花依子は雑談をしたりしていた。
入り口に入ってもほとんど人がいない。
紋子「早く来すぎたかー。」
花依子「そうですね。」
紋子「寒いねー。ちょっと室内のイベントでも見てみようか?」
花依子「そうですねー。」
室内でのイベントを見ると、その日はクリスマスイブというだけあって、お笑い芸人がライブをしていた。
もう少しで始まるようだった。
室内には入りたい。しかし、紀子と紋子はそこまでお笑い芸人は好きではなかった。
紋子「ああ、これ、だめなやつだわ。」
紀子の元気もそれでは回復しそうにない。
花依子「そうなんですか?」
紋子は頷く。紋子は困りつつ言った。
紋子「ちょっとそこの自販機のところでゆっくりしてさ。花依子ちゃん、その後、中に入っておきなよ。」
花依子「そんなぁ。」
紋子「大丈夫、この子、ちょっとここまでテンション低いと手が付けられないもんだから…。」
紀子は明らかにテンションが低い。花依子もそれが分からないではなかった。
花依子「分かりました。」
紋子「ごめんね?一通り時間つぶし終わったら戻ってくるわ。そこで待ち合わせしよう?」
花依子「はい。」
三人は、自販機でジュースを飲みながら話していたが、
明らかな紀子のテンションの低さに絢子は怒りゲージをためっぱなしであった。
紀子と紋子が歩いていると、「乗馬体験」が催されていた。
子どもはポニーに、大人は馬に乗って、動物園の中を少しだけ移動できるのだという。
紋子「紀子、乗って気分転換でもしたら?」
紀子「私無理…多分落ちる…。紋子乗りなよ…。」
紋子「私乗るよ?」
紀子「うん…良いよ。乗って乗って。」
紋子は呆れながら、乗馬体験の列に並んだ。
まだ人手がそこまで多くなく、紋子はすぐに乗ることができた。
紋子が高々と馬の上からの景色を眺めている中、紀子はその横を陰鬱な表情で歩いている。
すると、そこで虎のゾーンに近づくと、突然虎が吠え出した。
紀子「きゃぁっ!」
紀子は腰を抜かして倒れ、馬の脚に当たった。
慌てて紋子をサポートしていた飼育係が紋子を馬から降ろした。
虎はなぜか吠え続ける。
紀子はビビり散らし、コートを右から左、左から右へと祓うように振った。
紋子「ちょっと紀子、落ち着いて!」
紀子は何とか落ち着きを取り戻し、虎のそばに近づくと、
紀子「虎さんごめんね、だ、大丈夫だった?」
といい、あまりの驚きぶりにあきれている飼育係の前をとおりながら、そのゾーンを後にした。
その後、花依子と合流して三人で、動物園を、アイスクリームを食べながら歩き回った。
紀子は心ここに非ずと言った雰囲気を漂わせていた。
三人は、コアラゾーンの前にある喫茶店でお茶をして喋り、動物園を後にした。
次の日出社した、紀子、紋子、そして花依子の三人は、昨日の話しをするのだが、なかなか紀子が乗ってこない。
紀子のテンションの低さに怒りゲージがたまり切った絢子は花依子に聞いた。
紋子「花依子ちゃん、今度、沖縄でも行こうか?」
花依子「はい!よk…。」
紀子が机を『バン!』と叩いたのを聞き、花依子は驚いて発言を止めた。
紋子「また今度話しよう?」
花依子「は…はい。」
てっきり、紀子のテンションを上げるためと勘違いして答えてしまった花依子は、ふととなりの八十子を見た。
幾分、八十子にも緊張の色が走っている。
紋子は仕事にとりかかった。
花依子はその姿を見て、社会人になって仲良くなった後の、何気ない恐怖を感じたのであった。
一体何事なのか、花依子は、となりの八十子に聞こうにも聞くことができなかったのであった。
引き続き、ご愛読の程、よろしくお願いいたします。