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どこにもなかった風景、経験しなかった思い出

古い雑誌とヴァイオリン

作者: あめのにわ

(しまった。)


電車のドアが閉まったところで、気がついた。


ひと駅乗り過ごしてしまった。

ぼくは次の駅までゆき、そのまま折り返しの電車に乗りなおして戻ることにした。


ここは、いままでは、単なる通過点だった。

訪れるのは、ずいぶん久しぶりである。

その時の記憶がまだ残っており、乗り過ごしてしまったようである。


昔は通学のためによく通い、なじんだ路線であった。

当時、この駅はなかった。この場所に来たことは何度かあったが、隣の駅からずいぶん歩かねばならなかったのを覚えている。


ようやく降り立ったその駅は、新駅であった。できて間もない。一年も経っていないようだ。


駅前は、開発地になっていた。まだ造成地ばかりで、建物はほとんどない。これから住宅やショッピングモールが建設されて、街になってゆくものと思われた。

むかし訪れたときには田んぼと畑しかない場所だったのだが、減反の影響と、最近になって人口が流入しているために、宅地化されるようになったのだろう。


街路を少し歩き、知人の家に着く。

昔からの家だった。

かつては、田んぼの一角、鎮守の森に隣接した土地に、ぽつんと建っていたのを覚えている。

今は田んぼがつぶされて造成地になってしまったため、住宅街になるはずの空き地の中に建っていた。住宅地の中で、どこよりも早く建てられたようにも見えた。


ぼくは知人の家の応接間で、雑誌を見ていた。

雑誌は一見新しかったが、内容はどことなく古かった。奥付をみると、平成四年の発行とある。もう三十年近く前の発行だった。


「なるほど、いまの雑誌とは違うね」


ぼくがそう言うと、知人は笑って頷いた。そして、


「どうだい。ヴァイオリンを弾いてみないか」


と言う。


彼は黒いケースを持ってきた。そこから楽器を取り出し、ぼくに渡す。

そしてオーディオのスイッチを入れると、楽器の録音が流れ始めた。


ぼくはヴァイオリンを左手に持ち、顎にはさんだ。右手で弓をとって構え、録音された音にピッチを合わせて弾いてみる。


僕には絶対音感はない。

しかし微妙なピッチの違いはそこそこ聴き取れるようだった。


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