8 トウコお姉ちゃん、事件です。
ーパチパチパチパチーーッ!!!!
曲が終わり、噛みしめるように胸に手を当て呼吸を整えていると複数の拍手が聞こえてきた。
その音に反応し、目を開けると俺の周りにはたくさんのちいさな光の精霊が夜のとばりに淡い光でホタルのように照らしていた。『すごーい、すごーい!!』『もっかいもっかい!!』『こんなに元気になったのは生れてはじめてー!!』など、精霊たちが騒ぎ出す。
こんなに騒がしかったのに全然気が付かなかった・・・!
そして、拍手の音の先にはトウコお姉ちゃんとアルルちゃんがキラキラと満面の笑みを浮かべてこちらに駆け寄ってきた。
「すごい、すごいよユイナちゃん!!お姉ちゃん感動しちゃった!!」
「ユイナお姉さん、今のがお歌なんだ・・・私あんなに元気になるお歌初めて聞いた!!」
二人がこんなにもよろこんでくれるなんてと、聞かれて恥ずかしいという気持ちは一切出てこなかった。
むしろアルルちゃんの心からの笑顔に自分がしたかったことができて誇らしく思う。
そのときアルルちゃんが突然抱きついてきたのだった。
「あ、アルルちゃん・・・。」
「私、ほんとはパパがいなくなって、すっごく心細かったの。 でも、ユイナお姉さんのお歌聞いたら、きっと大丈夫ってお姉ちゃんのおかげで、私・・・すごく元気をもらったよ!」
儚く笑う彼女に俺は自然と頭に手が伸びる。
「えへへ・・・」
アルルちゃんが気持ちよさそうに目を細める。
「お姉ちゃん、ユイナちゃんのこともっとも~っと好きになっちゃった、なんていうか憧れというか抱きしめたいというか!」
そういうとトウコお姉ちゃんはこちらに顔を近づけ、彼女のいうように尊敬のような眼差し。
って近い近い!!
「お姉ちゃん、ちょ、ちょっと離れて離れて!!」
がーーーーーん!!って擬音が聞こえてきたと思ったらお姉ちゃんの叫びだった。
地面に”の”を書き出すお姉ちゃん ほんとごめん、でも俺やっぱりまだ女性は苦手なんだよぉー!!
「ぐす・・・でも、私も歌って聞いたことなかったんですけど、あんなにすごいものなんですね・・・。」
涙を浮かべたお姉ちゃんの話によるとこの世界は魔物との戦闘ですっかり娯楽の存在しない世界になってしまったらしい。生活をしていくのがやっとで、生きるか死ぬかの世界。
思ってたより魔王はこの世界で好き勝手やってるらしい。
この子たちのような子が苦しんでると思うと俺は勇者になれなかったことにひどく後悔する。
「そのためにもまずは・・・!」
「まずはお風呂に行きましょう!!」
お姉ちゃんが両手を叩いてにっこりとほほ笑む。
そうだ、お風呂に入って魔王を!!
「ってお風呂ぉ!!」
*
トウコお姉ちゃん、事件です。
ってひと昔前のテレビで見たようなセリフが頭を駆け巡る。
うん、現実逃避しっぱい。
あれから、いつのまにかギルドに戻ってきてなぜかトウコお姉ちゃんとアルルちゃんの三人でベッドに川の字になって寝ていた。
だって、思い出すだけで恥ずかしいんだよ・・・。
トウコお姉ちゃんには無理やり服を脱がされるし、アルルちゃんには無邪気に抱きつかれるし
何より困ったのは自分自身の姿がちらっと見えてしまった時だった。
ーだって憧れだったゆいなちゃんの姿なんだよ・・・俺。
そう思うとまた顔が赤くなるのだった。
そしてついに問題の時間。
人の消えるギルドの宿屋に今いるという不安を感じる。
三人川の字になった理由もお互いの恐怖心を和らげるため。
入口側にトウコお姉ちゃん、アルルちゃん、俺の順番に寝ている。
今日は徹夜覚悟だな・・・。
そう思い目を閉じる。目を閉じると開けているときには気にならなかった。いろいろな音が聞こえてくる。この世界の虫だろうかジージーと羽を震わせるような音が聞こえてくる。
リーン・・・リーン・・・と鈴を振るような音もきこえてくる。かすかだけど頭に響く音。
この音はなんだろう・・・そんなことを思っているとふと、誰かがベッドから抜け出す気配を感じ、目を開ける。するとトウコお姉ちゃんとアルルちゃんがゆっくりと扉から出ていく。
アルルちゃんのトイレにトウコさんが付いて行ったのかなっと一瞬思ったが、微かな違和感を感じた。
どうして俺に声がかからなかったのだろう、そもそもこの状況で俺一人置いて行かれるのは事件のことを考えるとトウコさんらしくない。
俺は慌ててベッドから抜け彼女たちを追いかけるのだったーーー。
閲覧ありがとうございます!
少しでも『よかった』『続きを読みたい』と思っていただけたら幸いです!
ブクマや評価をしていただけると嬉しいです!
文章力が低くすごく読みづらいかもしれませんが誤字脱字、直したらいいところありましたら気軽に教えてください。
よろしくお願いいたします!