5 ようこそ最初の町へ
道中、俺とトウコさんは先ほどより一歩近い距離で歩く。
かすかに香る彼女のシトラスのような香りに顔が赤くなるのを感じた。
ドキドキして落ち着かない。俯いて下を見ると女性の服装にこれまたドキドキー。
なにか気を紛らわせる話題・・・なにか、話題はないだろうか。
その時チラッと彼女の腰に帯刀してあるカタナに目が行く。
道中チラチラと出てくる魔物を顔色変えず刀で斬るトウコさんを何度かみたけど、やっぱりカッコよかった。
俺なんかスライムに絡みつかれてばっかりだし(トラウマになった)なんでスライムは俺ばっかり狙うんだろうか・・・。
「トウコさんの持ってる剣は日本刀ですか?」
「ニホン?・・・この剣は私の祖国、ジャパリスタという国のサクラトウという剣だけど?」
サクラトウ?-桜刀かな? 彼女の名前もトウコとなんか少し日本人っぽい名前だし。もしかしたら日本みたいなところなのかもしれないな。
「へぇ・・・これから行くところがジャパリスタですか?」
「違うよ、これから向かうところはアムストラ王国っていう大きな王国なんだよ。」
「へぇ・・・王国。」
やっぱり最初の町とかそういうところなのだろうか。少し期待を込めて目先の国を見つめる。
先ほどまであんなに遠いと思った町はもう目と鼻の先だった。
「私は、ジャパリスタから剣を勉強したくて出てきたんだ。」
「へぇ・・・トウコさんは剣の修行で旅をしてるんですね。」
「そうなんだ、自分の国だとこれ以上の成長は得られないって思ったから、家出同然でね!」
トウコさんが何かを懐かしむかのようにほほ笑んだ。きっと自分の故郷のことを思い出したのかもしれない。
そうやって笑えるってことはいい思い出なんだろうな。俺もオタクでゲームしかしてなかったけど、やっぱり自分の家に帰りたい。あぁ・・・DHO2やりたいなぁ・・・。
「でも、ユイナちゃん、ちょっとお願いがあるんだけどさ。」
「あ、はい・・・?」
「お姉ちゃんのことはお姉ちゃんって呼んでほしいかなーなんてね、合ったばかりなのにおかしいかな。」
少し恥ずかしそうに、でもちょっと期待したような瞳に俺は動揺する。
うぅ・・・あんまりそういう顔をするのは反則だとおもう。
俺は顔をゆでたように赤くしながら、か細い声でつぶやくように呼ぶ。
「と、トウコお姉ちゃん・・・。」
きゅーーーーん!!!
と擬音のようなものが聞こえてきたと思ったら、彼女の叫び声だった。
「ユイナちゃん可愛い! なんでそんなに可愛いのぉーーー!!!」
気が付いた時にはすりすりと頬ずりをされていた。
お、俺が可愛いとかっ!一瞬転生まえの自分が同じことをしているのを想像する。
・・・うん、気持ち悪いなっ!!うえっ・・・
*
「さぁ、ユイナちゃんここがアムストラ王国だよ!!」
「う、うわぁ・・・」
トウコさん・・・もとい、トウコお姉ちゃんの後に続いて門を抜けるとそこの光景は想像を絶した。
中央にそびえる大きな城、城の周りを大く囲う湖。街並みは隙間なく家が建ち、露天商に噴水、見たことがない動物が馬車を引いていた。俺は走り出し、目の前の噴水のある広場に向かう。
「あ、ユイナちゃん!?」
「ごめんなさいお姉ちゃん、ちょっと先行きますっ!」
俺は興奮しながら速足でかける。
「すごい、ほんとの王国だぁー・・・RPGのドットでできたお城とは違う本物のお城だー!」
俺は両手を伸ばし全身でこの風景と風を感じる。それから両手の親指と人差し指を合わせ、よくカメラマンがやる風景の切り抜きポーズを取る。
すごい、本物だ・・・RPGで憧れ続けた風景が目の前にあった。
くるくると周りながら風景を楽しむ。その時、広場にとまっていた白いハトのような鳥が驚き舞う。
俺は鳥の羽を浴びながらこの風景に感動した。
「~♪~~~♪」
つい喜びのあまり鼻歌まで出でしまった。あれ、なんで俺こんなにはしゃいでるんだろう。しかも、ちょっと女っぽかった気がする。ちょっと恥ずかしい。
「え、うわっ!?」
その時、指先に先ほど飛んで行ったはずの鳥が止まる。なんだこの人に慣れた鳥はっ!?
それも1匹どころではなく飛んで行ったのが全部来る勢いだった。
『ねぇねぇー!さっきのなに!?すごくあったかい歌だった!!』
ーえ?
その声は鳥が発しているとなぜか直感が言っていた。しかもその鳥は淡く光っていて、脳内に直接語り掛けるような声だった。
トリガシャベッタ?
「さ、さすが異世界・・・」
その後も白い鳥は俺に『ねぇねぇ!もっかい歌って!歌って!』『きゃっきゃっ!!』など俺の周りを飛び続ける。
「ユイナちゃん・・・天使みたい。」
その時、きっと一部始終見ていたであろうトウコお姉ちゃんが声をかけてくる。
先ほどの光景を思い出し顔が赤くなる。
「すごい、すごい警戒心の強い光の精霊がこんなに人に近づいてくるなんて・・・まるで天使の奇跡みたいだね!」
へぇ・・・光の精霊って、この鳥達が精霊ー!?
俺は会ってみたと心でずっと思っていた精霊とのふれあいを知らない間にしてたのか。
「え、えへへ・・・」
俺は恥ずかしながらも悦に入ってしまった。
この時、俺は初めてこの世界に来てよかったと思うことができたのだった。