2 ツンデレ女神とわがままオタク
「俺、寝てたのか・・・?」
ふと気が付くとなにもないまっくらな部屋に座っていた。
最初は寝落ちして夜中になってしまったのかと思ったがそれにしてはおかしい。
真っ暗なそこには目を開けているのか閉じているのかさえ分からなかった。
ただ暗闇が広がっているだけ。五感がすべてマヒしそうな場所だった。
「なんだここは・・・。」
五感がわからないと人は恐怖を覚えるらしい。体がかすかに震え不安を覚える。
ここから脱出しなければと腰を上げようと思ったがそれもできない。
そもそもどうやって腰を上げればいいのか、わからない
普段から何気ない生活の中で当たり前にできたことができないことに、俺はさらに恐怖を感じた。
なんなんだこれ・・・?
「天坂 進さん・・・。」
突然暗闇に声が響いた その声は若い女性の声だった。俺いがいに誰かがいる・・・。
一瞬安堵したが、その声の正体がわからないのであれば、たとえ女性の声だろうが恐怖の対象でしかなかった。
「だ、誰だ!?」
声が上ずってしまった、ちょっと恥ずかしい。
「くすっ・・・突然お声かけしてすみませんでした。」
声のする方を見ると突然淡い光とともに女の子が現れた。その子の恰好に目が惹かれる。 それはどこかの制服を改造したような恰好、まさにコスプレ衣装のような恰好をしていたがなんのアニメかはアニメが好きな俺でもわからなかった。
金色のツインテールは少し幼さを表現していて制服と相まってとてもかわいい印象を覚える。
「私は女神メルファリアです、よろしくお願いします。」
彼女はスカートのすそを摘み清楚に挨拶をする。そのしぐさに女性に免疫のない俺はドキドキした。
しかし、今なんて言った? 女神だって? この人恰好もそうだが、頭は大丈夫だろうか。
それにしてもここは一体どこなんだろう。その時、俺の思っている疑問はすぐに解決した。悪い意味で。
「ここは死後の世界です。 あなたはお若いのにお亡くなりになってしまったんですよ。」
おやぁ・・・?なにか受け入れてはいけない言葉が聞こえてきたぞ?
「・・・ここは死後の世界です。 あなたはお若いのにお亡くなりになってしまったんですよ。」
女神様はにっこりとほほ笑んだ いやいやいや・・・聞こえなかったとかじゃないよ? なんで2回繰り返すの?というか、なんで笑顔? 仮にも死んだんだよ!
じゃなくて!混乱する頭で必死にこの事だけを再確認。
「え・・・俺死んだの?」
「えぇ、それはもう・・・ぷっ、ギャグのように。」
あ、なんだろう一瞬だけどイラっとした。
一瞬噴出したかのように見えたが、いつのまにか彼女の様子は落ち着いてるようだった。
気のせいだったのだろうか。
「ただ、それはちょっとこちらの手違いで・・・本当は今日亡くなる予定だったのは雨阪 通さんっていう方だったんですよ」
「えぇ、人違い!?」
確かに似た名前ではあるが、人違いで殺されてしまってはたまったもんじゃない!というより人の生死ってこの女神が管理してるの? それってすごく怖いんですけど。
「仕方ないじゃないですか、DHOとかいうゲームの1位の人って聞いてたんですから!!」
女神はちょっと拗ねたように言った。 確かに俺はDHO2のトップランカーだが、天阪 通ではない。
「ちなみに天阪 通さんは94歳で一度も働いたことのないプロゲーマー、死因は心臓麻痺だそうです!」
その年で廃人ニート!?
「え・・・待って待って、なんで俺とそんな生きる天然記念物みたいな人をどうして間違えて・・・ってまさか。」
DHO2には前作のDHOというゲームがある。いまだに前作もサービス中でシステムは前のほうがよかったという一部のゲーマーがプレイしているらしい。
「すいません、ゲームに疎くて・・・それにゲームの箱ににやにやしてたあなたが気持ち悪くてつい。」
ついで殺されてしまってはすごく理不尽なんだが、というかさっきからこの女神チラチラと本音が見え隠れしているような、もしかして猫被ってるの?
「それで、進さんにご提案なんですが "異世界" 行ってみたいと思いませんか?」
女神様がにこりと笑いながらこれからお昼行きませんか?みたいな軽いノリで異世界行きを提案してくる。
「異世界・・・だと!?」
異世界転生、厨二病を経験したことがある人ならだれもが夢見た話だろう。実際俺も経験者、心が惹かれるものがある。すぐに行きます!って返事をしようと
思ったが、脳裏に彼女の笑顔が浮かんだ。
「だが、断る!!」
「え、えぇー!?」
俺の即決に今度は女神が唖然。あ、ちょっとだけしてやった感がする。さっきからこの娘のペースだったから少し嬉しい。
「あ、あん、あなた・・・オタク・・・だよ、ですよね?」
「そうだけど?」
「オタクが異世界行き拒否するなんて、嘘ですよね?」
「君、オタクをなんだと思ってるの?」
俺の言葉に女神の顔色がだんだん変わる。思った以上にこの娘顔に出るようだ。
「り、理由を聞いてもいいかしら?」
女神は眉をピクピク動かしながら笑顔を作っていた。
最初に見た時と印象がだいぶ違う、理由だと?
理由なんてひとつしかないだろう!
「家でDHO2とゆいなちゃんが待ってるんだよーー!!お家に返してー!!」
「生粋のオタクだー!?」
せっかく2カ月延期で待ちに待ったゆいなちゃんとの逢瀬が異世界なんかよりも大事だった。
✳︎
「はぁ、はぁ・・・あ、あんたも強情ね・・・。」
「はぁ、はぁ・・・お前もな・・・。」
あれから数刻経った気がするが、この暗闇では時間の感覚も曖昧だ。ずっといけ、行かないの平行線。いつのまにか女神の猫も剥がれちょっとだけ親しみが持てるようになった気がする。
「あんたが異世界行ってくれないと、あたしがあの口煩い上司に怒られるのよ!」
「そんなの知らねーよ!!」
お前の都合に俺を巻き込まないで欲しい。早く帰ってDHO2と僕だけのアイドルをやるんだ!!
「お願い、異世界で魔王を倒して!」
「嫌だ、嫌だ! おウチに帰るー!!」
俺は子供のように駄々をこねる。
絶対に行きたくないんだよ。わかれ!
「あぁ〜もう、わかったわよ!!」
女神が腰に手を当てため息とともに、こちらを見た。やっと諦めたか、さぁ、お家に返してくれ
「くふふ・・・もう、あんたなんか知らないわ、こうなったらヤケクソよ!あんたの転生データをいじってやるんだから!!」
はぁ!?なにをする気だよ、この女神は!?
女神の手にゲームのステータスウインドウみたいなものが表示された
そこに書いてあったチラッと見えた勇者という文字を女神は容赦なく消した。
おい女神、今一番大事な部分を消したぞ!!
「こうして、こうー!あぁ、なんか楽しくなってきたわー!」
女神が楽しそうにステータスを魔改造してた。
「おいおい、やめろ!やめてくれー!?」
絶対それはやってはいけないやつだと思うぞー!
しかし、俺の言葉はとどかず。
よし、完成!っと満面の笑みで、女神が笑う
「それじゃあ、進ちゃん良い異世界生活をー!」
ーや、やめろー!ヤメーー。
薄れゆく意識の中、ゆいなちゃんの笑顔が脳裏に浮かぶ。
最後に見たのは女神の表示したステータスに書かれた俺のステータス
『性別 女』の文字だったー。