新婚旅行
「アイリス、マリー。新婚旅行に行こう」
まだ、ぎりぎり1年経ってないからセーフだろう……たぶん。
「「はい?」」
2人は、俺がいきなり新婚旅行に誘ったから困惑した様だ。
なぜかと言うとチケットを貰ったからだ。
「これを見よ。ギルドからの祝い品だ」
「水の妖精亭……宿泊券?」
「どうやら、観光都市サントリアンの様ですね」
「そうそう、どうやら3泊4日食事付きらしい。大盤振る舞いだな」
1泊2日だと思っていたら3泊4日とチケットに書いてあった。しかも、食事付き。
「赤ちゃんの授乳は、フィーネが代わりにしてくれるってさ」
乳牛族のミルクは、赤ちゃんにも大変良いそうだ。だから、フィーネには乳母の役割もして貰っている。
その為、数日空けても問題ない。育児もうちの女性陣で交代して行っているから問題ない。
「それで、どうする?」
「「行く!」」
俺たち3人の新婚旅行が決定した。
という訳でやって来ました。観光都市サントリアン。
「……騙された」
高級宿の3泊4日食事付きをタダでくれた時点でおかしいと気付くべきだった。
到着次第、冒険者ギルドに顔を出す様に言われたので行ったら、クエストを発行された。
「まぁ、直ぐに終わるでしょ」
「そうですね。数が多いだけですし」
目の前に広がるのは、オズタウロスの群れ。
奴らは、単体ならそこまで脅威ではないが、集団になると危険度が跳ね上がる。
それは、ある特性によるものだ。だから、冒険者ギルドも一切手を出せなかった。
名称:オズタウロス
危険度:B〜A+
説明:人の腕と肩を持つ牛型の魔物。極めて高い戦闘能力と『復讐』という特性を持っている。普段は温厚で大人しく近付いても襲って来ない。しかし、一度害すれば倍にしないと気が済まない性格をしている。知性が低い事もあり、被害が拡大する恐れあり。もし、殺害する場合は、1匹残らず確実に狩る必要がある。
「1匹残らず確実に狩る必要があるか……」
冒険者ギルドからそう通達されていたな。
「とりあえず、ここに居る奴らだけみたいだよ」
アイリスによる索敵が終わった様だ。
「地下には?」
奴らは、地下に巣を造る事もあるそうだ。地下から穴を掘り、背後から襲われる事例もある。
「いるよ。下に10体程。ただ、ダンジョンみたいな入り組んだ造りになってる」
「地上はいいとして、地下が問題か。地下に潜った時、逃げられたらマズいし。狩り残すと問題だしな」
「広範囲殲滅魔法を地下で放つのは?」
「壁が多くて、全ては無理じゃないかな?」
「アイリス。水没とか出来る?」
アイリスの水魔法に無いかな?
「水没ですか。それなら地下を全てカバー出来ますね」
「出来るけど時間かかるよ」
「どれくらい?」
「発動から満たすまで30分かな?」
「それなら先制攻撃を水没にしよう。それを合図に地上の敵を一掃する。水没が完了したら、マリー」
「はい?」
「雷魔法でトドメを指してくれ。終わったら俺も保険で氷魔法を使うから」
「分かりました」
「それじゃあ、作戦開始」
「「おーっ!」」
「後、どれくらいかかる?」
「後10分」
「逃げ出して来た奴は、こっちで狩るから気にせず注水してくれ」
「了解」
コイツら意外にしぶとい。注水を始めて20分経ってもまだ生きてる。
「マリー。索敵を続けてくれ。さっきみたいな奴がいたらマズい」
「はい」
アイリスが感知した時と違い、地下が拡大している。逃げようとしていたり、俺たちに復讐しようとしたりする為に地下が拡大し続けている。
現に1匹、そうやって襲って来たのがいたから警戒している。
「……マリー。アイリスが使ってる水魔法分かるか?」
「グランドアクアウェーブですね」
「詠唱は?」
「分かりますが、ユーリさんが使うのですか?」
「もし、使えたら水没が速いかなって?」
「そうですね。地下も拡大してますし。良いかもしれません」
という事なので、マリーから詠唱を教わる。
試しに詠唱無しでやったが、発動はしなかった。恥ずかしい。
適性を確認する為、下級を試す。詠唱有りで発動。詠唱破棄でも発動した。これなら適性は問題ないだろう。
「ムツツヲテベス ヨミグメノンテ クシサヤニキト クシゲハニキト スタミヲチイダ ヨズミバレサ ヲノモルユラア ミコミノ シガナシオ ヨメヨキイラア」
自分の中に膨大な魔力のうねりを感じる。
「グランドアクアウェーブ!」
ドドォオオオーー!!
「わっ!?」
アイリスがびっくりする。魔力にものをいわせて発動したのでアイリスより大量の水が発生した。
「マリー。どんな感じだ」
「拡張された場所も2〜3分ほどで浸かりそうです」
「よし、アイリス。頑張るぞ」
「うん」
「マリー。浸かったら魔法頼むな」
「はい、任せて下さい。とっておきを使います」
3分後。地下の全てを水が満たした。
「頼んだぞ、マリー!」
「いきます!轟雷閃!」
「げっ!?ユーリ、離れるよ!!」
「はい?」
アイリスが俺を掴み、全力でマリーから距離を取らせる。天空には、巨大な魔法陣が現れた。
「耳を塞いで衝撃に備えて!」
「えっ?」
意味の解らない俺は、アイリスの言う通りにした。その理由は、直ぐに分かった。
ドガガァアアーー!!
マリーの魔法が発動し、雷柱が轟音を立て直径300mもの地面を抉り、その衝撃で地面が振動する。
「うわぁ……」
昔、アイリスが使った雷魔法より洒落にならないくらいヤバい。
「ユーリ。マリーって、ほら、結構後先考えないタイプでしょ?私に鱗をやったり、露出したり」
「うん」
「今回もとっておきって言ったからヤバいと思ったんだよね」
「いつも温厚だから、つい忘れてたわ」
よく考えるとルイさんの血を継いでるし、ヤバいのは当然か。
「終わりましたよ」
もう凍結魔法とか要らなくない?地面陥没してるし、あれだけあった水も蒸発してるんだよな。
「アイリス。そっちは生体反応感じるか?こっちは、まったく感じなかった」
「こっちも問題ないよ」
「なら、終了ですね。これで観光出来ますよ」
「「そうですね」」
マリーを怒らせるのは、止めようと思った。たぶん、殺される。
街に戻って、冒険者ギルドに報告。
「ありがとうございます!ありがとうございます!凄い困っていたんです!」
ここのギルドマスターさんから金貨500枚の報酬金を貰った。
旅行の軍資金に当てるとしよう。お土産も沢山買いたいしな。
俺たちは、冒険者ギルドを後にして、高級宿『水の妖精亭』に向かった。
ギルド提携店という事も有り、距離はあまり離れていなかった。
宿に入り、受付で手続きを行う。
「チケットを拝見しました。代表の方のギルドカードを見せて下さい」
「はい、どうぞ」
「えっ?」
もう、慣れたものだな。カードを見せる度に2度見されるの……。
「竜種の方ですか?」
「マリー、来て。奥さんの一人が竜種です」
マリーを呼んで、受付で紹介する。マリーは、空気を呼んで自分のギルドカードを見せたら、受付の人は青褪めた。
「お部屋は、『和の間』になります。彼女が案内します」
「ええっ!? 私!?」
受付にいた女性が動揺した。俺たちが近付くと覚悟を決めたのか?
「わっ、分かりました。ご案内します」
彼女に従いついていく。
建物は、平屋で中央に大きな池がある。各部屋は、池を見れる様に造られている様だ。
「着きました。こちらになります」
案内された部屋は、日本風の和室だった。こっちに来て初めての畳を目撃した。
「畳か。懐かしいな」
「はい。この部屋は、和国をテーマに造っております」
「どうりで落ち着くと思った訳だ」
ここでも和国か。最近、話題に挙がらないな。今度、ガイアス爺さんを突っ付いてみるか。
「こちらが館内の地図になります。温泉は、掃除中以外、常時開放しておりますので好きな時にどうぞ。また、個室も御座いますので、御用命の際は受付にて承わっております。それでは、御夕飯までゆっくりお過ごし下さい」
とりあえず、ゴロゴロしよう。無駄に戦ったし。
「う〜ん、畳の良い匂い。落ち着く」
「ホント?」
「ほんとほんと。2人も寝てご覧」
2人も一緒にゴロゴロしないかと誘ってみる。
「……おお、草原みたいな良い香り」
「昔、芝生の庭園でお昼寝したのを思い出しますね。……ふぁ〜」
「少し眠そうだな。3人でお昼寝しないか?」
「するする。腕貸して」
「では、反対を借りますね」
俺の腕に2人の重さを感じる。お昼寝するのに枕は必要だよな。
抱き締めたり出来ないが、これはこれで良いか。
さっきまで戦ってたので、直ぐに瞼が落ち眠りに着いた。
俺たちが起きたのは、夕飯を持ってきた女中の声だった。