出産祝い メロディノーツ
「「私たち、結婚しました」」
「えっ……あっ、うん」
冒険者ギルドから出産祝いを持ってきたビリーさんがカトレアと一緒にそう報告してきた。
「ビリーさん、ここに洗脳解除薬あるんだが、飲まないか?」
「うぉい!!」
「冗談だ、カトレア。おめでとさん」
「ありがとよう」
「カトレア、大丈夫ですよ。飲んでも気持ちは、変わりませんから」
「ビリー……」
そう言って、ビリーさんを抱き締めるカトレア。
一周回って、意外にお似合いなんじゃないだろうか?
でもな、カトレア。イチャつくのは別の所でしてくれないか?
どう見ても、襲ってる様にしか見えないんだよ。
「そうそう、アイリスさんとマリーさんの出産おめでとうございます。これは、ギルドからの祝い品です。子の出来た冒険者にこれを渡すのが、恒例になっていまして、確認して下さい」
「これはご丁寧にどうも。それでは、早速」
ビリーさんから渡された封筒の中には、3枚のチケットが同封されていた。表面には、水の妖精亭と書かれている。
「観光都市サントリアンにある高級宿の宿泊券です。使う場合は、3ヶ月以内にお願いします。もし、売る際は、提携店の関係上、ギルドでのみ売却をお願いします」
観光都市サントリアンか……一度行ってみたかったんだよね。ペンドラゴンから1日で行ける距離にあるそうだし。
「有り難く使わせてもらいます」
現在、そんな風にあちらこちらから祝いの品が贈られて来ている。
そして、やはりマリー宛が、一番多い。竜種からだけでなく、各国の王や貴族からも贈られてくる。
「さすが王女。沢山来るね」
「だな、そろそろ、物で部屋が埋まりそうだし」
俺たちは、笑いながら言った。この後のマリーの大変さを知ってるので笑いが溢れるのだ。
「うう……面倒くさい。2人みたいに少ない方が良かったのに」
「「頑張っ!」」
部屋が溢れるなら倉庫に詰め込めば良いだろうと思うが、出来ないのには理由がある。
贈られた荷物のリストと相手への返事を書く為だ。
「まぁ、後でミズキとティアが手伝ってくれるから大丈夫だろ?」
特に、後者はマリーたちにしか出来ない。決まった文章とか知らないからだ。
「それは、そうですが……」
「リストなら俺たちが作ってやるよ」
「私たちも鑑定魔法使えるしね」
そういう事で手伝い始めた。
……多いな。贈り物は、軽く500個近くある。
俺たちがやるのは、鑑定魔法で贈り物の名前や効果を調べ、送り主の名前と一緒に記入したリストを作成する事だ。
送り主の名前が書かれたラベルが剥がれていたりするけど、そんなに苦ではない。
それより、手紙を大量に書く方が辛い。3人で分担しても150枚近く書く事になる。
それに比べこっちは、面白かったりする。
「おっ、コイツは良いな!簡易テント作成の魔導具か!」
竜種からの贈り物には、マジックアイテムが多い。
「ユーリ、見てみて!これ、水をキューブ状の氷に加工するんだって。料理に使えるね!」
「マジか!?アイスティーとかの氷を魔法で作って砕く作業が無くなるじゃないか!」
もはや、一種の宝探し状態。あっ、ちゃんと記入もしてますよ。
「これなんて良いな。メロディノーツ」
血を注ぐ事で、過去に知り得た音楽を呼び起し記録。その後、記録から再生出来る様だ。
「送り主は、ルイさんだな」
「ああ、それ、たぶん。厄介払いですね」
「厄介払い?こんな良いのが?」
「実際、見せた方が良いでしょ」
マリーが血を1滴落とすとメロディノーツに音楽リストが作成された。その数……5つ。
「再生しますね」
流れる曲は、社交界とかで使われるダンスの曲みたいだ。
「少なくない?マリーは、音楽に興味ないのか?」
「いえ、そうではなく音楽が珍しいだけです。基本、社交界でしか聞きませんね。使われる曲も基本5つ程ですし」
どうやら、音楽は、貴族だけのものらしい。
異世界によく居る吟遊詩人は、詩や物語を言うのであって歌うのでは無いそうだ。
「俺ならいくつに出るかな?軽く200は行くんじゃないかな?」
「そうなんですか?」
「俺のいた場所は、音楽に溢れてたからね。ちょっとした宣伝すら音楽使うくらいに」
「それは、楽しみです」
「ユーリの故郷の曲!?聞きたい聞きたい!」
「ok。やってみよう」
さて、血を1滴……アイテムボックスに俺の血があったな。
日和ったんじゃない!勿体無いと思っただけだ!!
「さてさて、何曲出るかな?……えっ?」
血を1滴落とすと凄いスピードで音楽リストに追加されていく。既に500曲は行ったんじゃないだろうか?
「……やっと止まった。追加された曲数は、2890曲」
この数字、何処かで……あっ、遺品の音楽プレイヤーに入ってた数か。
親父がクラシック好きでかなりの数が入っていた。そこにアニソンやらCMソングやらを入れたらこのくらいになった。
「凄っ!!」
「驚きました。こんなに有るとは」
「流してみていい?」
音楽を選択する。最初はやっぱりこれだ。俺の気持ち的にも。
『歓喜の歌』を選択した。
「おお、懐かしい。でも、こっちの言語に変換されるのな」
ドイツ語でなく、違う言語で聞こえてくる。いつも普通に使ってる異世界の言語だ。表記もこっちだったし、そんな気はした。
「アニソンは?」
某アニメのOPを流す。バックミュージックもバックボーカルも完璧だ。
「すげぇな、これ!!」
「何、この曲!ウキウキする!!」
「楽しい気分になります」
「そうだよな!音楽って良いだろ!」
作業しながら、3人で音楽を楽しんだ。とはいっても、俺とアイリスは直ぐに終わったのでカラオケを始めた。
カラオケには、アイリスが作ったリストにあった物を使った。
「これ、使えるんじゃない?」
音声を記録して文字化する板状のマジックアイテムだ。
最初は、手を繋いで歌詞を伝えていたが、途中でアイリスがマジックアイテムの存在を思い出した。
試しに、一曲聞かせてたら問題なく歌詞が作成された。
そこからは、歌詞を作っては歌い、歌詞を作っては歌いを繰り返した。
「なんだい、なんだい、楽しそうな事やってるじゃないか?」
「うわっ、凄い。マジックアイテムの山ですね」
「良い歌が聞こえた」
「しかも、気分が向上するやつね」
カトレアたちが参戦した。曲は、沢山あるので好みのものもあるだろう。
「主様、気になって来ちゃいました」
「私も混ざりたいです!」
「ダメですか?」
「良いよ。ついでに皆を呼んできてくれるかな?その方が、面白そうだし」
「「「は〜い」」」
「それじゃあ、談話室に移動するよ。ここじゃ狭いからね。アイテムを持って」
マジックアイテムを持たせ、全員を談話室に移動させる。
「マリーも今日は休憩ね」
「分かりました」
マリーを連れて俺達も談話室に行く。そこから、屋敷でカラオケ大会が始まった。
皆、声に特徴があって面白い。
カトレアとかは、演歌がしっくりきていたし、イナホたち獣人組は、アイドル曲とかが合っていた。
だが、エロース。鼻血を出しながらイナホたちの応援は止めろ。死ぬぞ。
「えっ、リリスたちに合う曲?……これなんかどう?」
なんとなく、見た目だけでK-POPを推してみた。
結果は、なんとなくだったが相性が良かった。
「さて、俺も十八番を歌いますか!」
「ユーリ。それ終わったらデュエットしよう!」
「おう、良いぜ」
『私も良いですか!』
皆もデュエットに食いついてきた。これは全員相手にしないと不味そうだな。
俺の喉、大丈夫か? 出来るだけ頑張るとしよう。
カラオケ祭りは、今日一日続く。