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父親になった日

「フォレスト? 神竜の系統の?」


 マリーの子どもの事も有り、竜種について学んだ。


 竜種には、2種類存在する。


 マリーたちの様な神竜とビリーさんの様な色竜。


 自然発生する魔物にドラゴンがいるが、あれは全く別物だ。魔力溜まりから産まれ、自我はなく、獣と大差無い。


 その強さと危険性からドラゴンと称されているだけなのだ。


 だから、2種類。そこから更に、神竜には3系統存在し、各大陸を管理している。


 北と南のヴァーミリオン、東のフォレスト、西のシースペイン。


 ガイアス爺さんを竜王と呼ぶのは、ヴァーミリオンが一番力を持った竜種だからだ。


「そうじゃよ。わざわざ、東から来てくれたんじゃ」


「それは、お疲れ様です。だけど、何故、フォレストの竜種がうちに?」


「貴方の息子さんの友となるべくやって来ました」


「息子の友?」


「どうやら、マリーの子は男らしい。神竜のオスが産まれる時、友であり従者になる竜が存在に気付きやって来るんじゃが……それがまさかフォレストとはのう」


「爺さんやギルさんにもいるのか?」


「おるよ。儂は、宰相のレギアスじゃな。ギルは、副マスターのビリーがそれに当たるのう」


 宰相のレギアスというとあの氷竜か。仕事の鬼って感じの人だった。


「でも、マズくない? 他国の王族を従者にするって事だろ?」


「大丈夫です。私は、これでも末席ですし、フォレストの王から許可を頂きました」


「許可もあるなら良かろう」


「まぁ、本人も嫌じゃなければ構わないが……」


「ありがとうございます」


「じゃあ、その娘も?」


「彼女は、王より許嫁となるよう言われたそうです」


「形だけですので、ご安心を。産まれた子や私に好きな相手が出来た場合は解消して貰って構いませんと受け賜わっています」


「竜種のオスは少ないからのう。他の竜が近付かない様に先手を打つのは、よくある話じゃ。まぁ、竜心の欠片(ハートフラグメント)が変わらないと無理じゃしな」


「そうだよな。好きに解消して構わないなら俺は良いよ。後は、マリーが許可を出せば問題ないね」


 まだ、時間があったのでマリーに聞いたら良いそうだ。産まれくる息子に、従者と許嫁が出来た。





 夜、とうとう2人が産気付いた。


 部屋の中は、助産婦さんたちが忙しく作業している。


 そんな部屋の片隅でリリィと一緒に座っている。


「そんな心配しなくても大丈夫よ。クスリも色々用意したもの」


「それは、そうだが……」


「それに貴方の血もあるもの」


「俺の血なんて何に使うんだ?」


「これは、アイリスちゃん用ね。場合によっては、飲ませる為よ」


「どんな場合なんだ?」


「魔物が子どもを産む際に起こす、魔力譲渡を緩和する為に使うわ。下手したら欠乏症で死ぬかもしれないからね」


 俺の血には、高濃度の魔力が込められている。アイリスなら即時吸収し補う事が可能だろう。


「っ!?」


「始まったわ!!」


 アイリスがベットで少し跳ねた。我慢出来なくはないが、裂ける感じが辛いのだそうだ。


「アイリス、頑張れ!」


「うん!」


 魔力の変動を確認する為、ルーン文字による鑑定魔法を使う。


「リリィ!減少を始めたぞ!!」


 表記された魔力量がどんどん目減りする。


「急いで飲ませてくるわね!」


 リリィは、アイリスに近付くと俺の血を飲ませた。これにより、表記の魔力量は即時上昇したが、直ぐ様、元の状態まで減少した。


「魔力量が減少した状態に戻ったぞ?」


「まさか、足りなかったの!?」


「……俺が直接飲ませても大丈夫か?」


「そうね。そっちが速いかも」


 苦しんでいるアイリスに近付き頭を撫ぜる。少しは表情が和らいだようだ。


「アイリス、今から俺の血を更に飲ませるよ。だから、頑張れ」


「うん!来て!」


 アイリスの口元で腕を持っていき、右に持ったナイフで左手首を斬る。刺すのは怖かったのに、必要なら躊躇しないものだと知った。


「いっ!?」


 でも、痛いものは痛い。


「こくこく……」


 流れる血をアイリスは飲み続ける。表記の魔力量には、増減は起こっていない。安定した様だ。


 くらっ……。


「おっと……」


 血を流し過ぎて、少し目眩がした。気を抜くと意識が飛びそうになる。それだけ、子どもが魔力を欲しているのだろう。


 産まれて来る子が高魔力保持者なのは確定だな。


 俺は、アイリスに血を与える事だけに集中し始めた。


「………」


「……ユ……。起き……」


「………」


「ユーリ。起きて!」


「ハッ!?」


 リリィの声で意識を取り戻した。立ったまま気を失ってしまった様だ。手には、包帯が巻かれている。リリィが処置をしたのか?


「アイリスは!?」


「無事。産んだわよ」


 アイリスの横には、可愛らしい女の子が寝かされていた。ほんの少し生えた髪の毛の色は、黒だった。俺に似たらしい。


 鑑定を行う。結果、状態は健康そのもの。


 そして、肝心の種族は、魔族になっていた。人に魔物の性質が加わる事で魔族が産まれるようだ。


「ユーリ。名前決めた?」


 少し疲労はしているが、アイリスは元気な様だ。


 そして、アイリスが言うように俺が名前を付ける事になった。アイリスに付けたから子にもとの事らしい。


「この娘の名前は、カグヤだ。アイリスと同じ花の名からだぜ」


『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』という美人の形容表現がある。


 ユキは、うちにいるから牡丹か芍薬を元にした名前にしようと考えたら、芍薬の名に『かぐや姫』があるのを思い出した。


 カグヤ・シズ。


 名前のニュアンスも良いのでこれに決定した。これなら、結婚して苗字が変わっても大丈夫だろう。


「さすが、パ〜パ。良い名前ね。カグヤ、ママよ。よろしくね」


 アイリスは、赤ちゃんの手を握り微笑んでいる。


 2人を見ていたら俺の視界が歪み始めた。たぶん、心の汗とかそんな奴だ。男が泣くとか、恥ずかしい。





 さて、残るはマリーだ。あのロリ体型で産めるのか、すごく心配になる。というか、心配で心配で仕方ない。


 ……でも、そんな心配する事もなかった。さすが、竜種丈夫です。


 アイリスと違い。特に問題もなく、普通に産んだわ。ただ、疲労はしているみたいだ。


「マリーもお疲れ様。男の子だよ」


 出産を終えたマリーの頭を撫でていたら、助産婦さんに渡された。俺は、赤ちゃんを抱え、マリーに見える様に頭の近くに連れていく。


「ほら、ママに挨拶しような。ユリウス」


「この子が私の息子なんですね」


 事前に息子だと分かっていたので、名前を伝えてある。マリーも了承したので決定された。


 ユリウス・ヴァーミリオン。


 神竜の為、ヴァーミリオンを名乗る必要がある。属性は、聖。その影響か、髪は金髪の様だ。


 ルイさんを含め数が少ない聖竜。これには、べディたちがガッツポーズしていた。


「いや、だって、相方が立派だと嬉しいものですから」


「優しい魔力を感じます。彼に好きになって貰いたいものですね」


 フィロは、ユリウスに狙いを定めた様だ。まぁ、頑張れ。邪魔しないから。




 アイリスとマリーの元には、祝いを述べる為、次々人が集まって来る。その隙間を縫って俺はその外に出た。


 足が自然とある場所へと向かう。勝手に俺が造った場所だが、それでもあって良かったと思う。


 社に入り、手造りのタナトス像の前に立つ。月明かりを取り入れる構造にしたので神秘的な輝きを示していた。


「ありがとうございます。俺に新しい家族が出来ました。貴方にあって、異世界に来て、アイリスに出会って……」


 今まで経験して来たことが、堰を切った様に次々な溢れ出す。まるで何かから逃げる様に。


「……怖いんです。向こうの暦で約1年。全てが上手くいっていて、それを失うのが怖いんです」


 家族がいて、友がいて、快適な家がある。向こうじゃ考えられなかったものだ。


「どうすれば、この不安は無くなるんでしょうか?」


 タナトス像は、答えない。それは、当然だ。ただの木で造られて像である。


「……まぁ、出来る事を確実にこなすしかないんだけどな」


 そう自分に言い聞かせて、社を後に……。


「大丈夫ですよ」


「!?」


 懐かしい声が聞こえた気がして振り返った。だが、そこにあるのはただのタナトス像だけ。


「………ふふっ」


 少し笑いが漏れた。聞きたい言葉を幻聴で聞くなんてな。でも、心が前より数段軽くなった。


「さて、ママさんたちを放置しておくのはマズいよな。帰らなきゃ」


 そして、俺は社を後にした。戻った屋敷は、出産による騒乱の真っ只中だった。


 出産祝いの酒で宴会を始めたのが原因だ。


 踊る者、脱ぎ出す者、説教する者、泣き出す者等など。


 さて、何から手を付けよう。この後の事を考え、自然と笑いが溢れた。

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