それ……ただの厄介払いなのでは?
困惑していた俺の前に、一人の天使が引きずられて来た。
簀巻きにされて猿ぐつわも噛まされている。
「ん?んん!?んんーー!?」
何を言っているか、全く分からん。
「エロースの猿ぐつわを外してあげなさい」
「はい、ルイーズ様」
簀巻きにされた天使は、エロースというらしい。トリシャは、彼女の後ろに回り猿ぐつわを外した。
「ちょっ、トリシャ!猿ぐつわはないでしょ!?猿ぐつわは!?ってか、何処から持ってきたのよ!」
「貴方がよく騒ぐので、わざわざ下界まで降りて買ってきたのですよ。有り難く思いなさい」
「嫌よ!だいたい、拘束するからでしょ!」
「拘束しないと女の子の服に手を入れてセクハラを続けるでしょ」
「仕方ないじゃない!天使の服がエロいのがイケないのよ!ムラムラするし!!」
残念美少女だ。
しかし、天使の服って、翼の関係上、童貞を殺すセーターと同じものなのだ。
「その気持ち、分かるわ〜」
「「えっ?」」
「あっ……」
外野を決め込んでいたのに、つい声に出してしまった。
「分かるの!?」
「えっ……あっ……うん」
物凄いスピードで詰め寄ってきたエロースに、俺は圧倒された。拘束されているのに器用なものだ。
「それで、何処が特にそう見える?」
「それは……横乳と見えそうで見えない先とか?」
「そこに手を入れたいとは、思わない?思うわよね!」
「うん。それは思う。だって、男だもん」
「服で強調された身体のラインは!!」
「誘惑してるみたいでエロいと思う」
彼女は、問い詰めながらどんどん近寄ってくる。
「同志よ!それが分かるとは素晴らしい人ね!!」
近い近い!顔が凄く近い!!
「そっ、それはどうも」
顔が物凄く熱い。たぶん、赤面しているのだろう。
女性には、慣れたつもりだが、美少女が目と鼻の先まで迫ってくると恥ずかしい。
「おっ、ほん!」
「「!?」」
ルイさんの咳払いで身体がビクってなった。
さすがに、娘の旦那がこういう話をするのはマズかっただろうか?
「どうやら2人の仲は、問題なさそうね」
「「はい?」」
「エロース。貴方、明日からうちに来なくていいわ。その代わりに、夢の職場を紹介します」
「ルイ様!?まさか、私、クビですか!?」
「ええ、皆からのセクハラされたとの苦情が多いもの」
「女同士だし、良いじゃないですか!!」
いや、女でもアウトだろ。
「どうかお願いします。クビだけは、勘弁して下さい!仕事量を増やして貰っても構いません!!」
「前回もそれだったわよね?既に、一人で二人分の仕事量をこなしているのよね?」
「大丈夫です!まだ、やれます!美少女に溢れた職場の為なら、頑張れます!」
まぁ、天使並みの美少女が多い職場なんて、そうそう無いよな。
「それが、有るのです」
「「マジでっ!?」」
俺もつられて反応してしまった。有るのか、そんな場所?
「どっ、何処ですか!?その職場は!?ちょっと見学に行ってきます!!」
エロースは、ルイさんの話にめっちゃ食い付いとる。
「それは……」
ルイさんは、何故か、俺の横に来て「彼のハーレムよ」と宣言した。
「ファッ!?」
あはは、お義母さんジョーダンですよね?
普通、娘の旦那に女を紹介しますか? しませんよね?
「失礼ですが、ルイ様。ハーレムなんて現実では、まず存在しませんよ」
確かに、異種族婚の関係上、一夫多妻も一妻多夫も認められている。しかし、現実問題、関係を維持するだけの甲斐性がないと無理だ。
「顔は、悪くは有りませんがいたって普通です」
ワン!……はっきり言ってくれる。
「魔力は多そうですが、強そうには見えません」
「ぐふっ!?」
ツー!それ、一応気にしてるんだぞ!
「そもそも、甲斐性がある様には全く見えません!」
「ぐはっ!?」
フィニッシュ!傍からみたらそうなのな……。
「言い過ぎだろ、お前……」
「お前じゃなくて、エロースよ。それに事実だもん」
「男なのに泣くぞ!」
「そうね。見るのが早いわ。力だけなら直ぐに確認できるもの」
パチン!
ルイさんが手を叩くと結界により俺たちは隔離された。
「さぁ、戦ってみなさい。ユーリ君、ハンデ。剣を抜くのは止めてね」
「ルイ様。私が負けると?」
エロースを中心に風が巻き起こる。
「ええ、負けるわね。だから、全力でやりなさい」
「分かりました。召喚」
エロースは、虚空に現れた魔法陣から槍を取り出すと宙に浮いた。
「それでは、始めなさい」
「勝てたら、私を好きにすると良いわ!その代わり、飛ばせて貰うけどね!!」
「おい、待て!!それフラグだぞ!?」
「覚悟!!」
激闘が始まった。
………
……
…
実は、激闘なんてものはなかった。
「くすん……ズルい」
「いや、3回もやり直しさせられて、それはないだろう」
激闘はなかったが、3回も相手をさせられた。
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1試合目、1秒で終了。
「ジオグラビティ」
「ぴぎゃ!?」
試合開始と同時に放った過重力空間に押し潰されて落下。ギンカに習った重力魔法だ。これにより動けなくて終了。
「なしなし!その魔法無し!!」
「え〜〜っ」
2試合目、3秒で終了。
「地面にいるからさっきの様にはいかないわよ!」
「グレイプニル」
向かって来るエロースに過重力の鎖を展開して拘束。魔力による物体創造の技術がないと出来ないそうだが、服を作るので慣れている。今回は、これで終了。
「女の子を鎖で縛るなんて、この鬼畜!!」
「いやいや、勝負だろ」
3試合目、5秒で終了。
「今度こそ、負けないわよ」
「負けを認めてるやん」
「重力魔法の対策はしたからもう効かないわよ。だから、覚悟!」
「はぁ……フリーズショット」
「にゃあ!?」
ジャッジメントに下級のマガジンを装填して発射。氷漬けの天使が完成しました。
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「まだ、やるなら他にもあるぞ」
「もういいわよ……私の降参よ」
「納得したようね。これで彼女の問題は片付いたわ」
「あの、ルイさん。今更ですが、この話ジョーダンですよね?」
「真実よ」
「いやいや、俺のハーレムに加えるって、嫁になるって事ですよ?」
「今更、1人も2人も変わらないでしょ?」
「いや、変わるから!マリーたちに嫌われたらどうするんですか!?」
「事情説明と説得なら協力するわ。まぁ、気にしないと思うけど」
「マリーちゃんもいるの?」
「あら、知らなかったの?彼、マリーの旦那さんよ」
「ええっ!?」
めっちゃ驚かれているんだが……。
「とりあえず、仮で良いので連れて帰ってちょうだい。彼女が望んだら受け入れてあげて」
「まぁ、事情説明もしてくれるなら……」
「ちゃんとするわ。そうね、今から行きましょう」
エロースを同行して帰る事になった。
やっと予定していたヒロインが揃いました。本来、ハイエルフ組とイナホ以外の獣人組は考えていませんでしたからね。