ラグス王国 首都エリシオン
首都エリシオンに到着。
門から見える街並みは、竜王国と代わり映えしない。少し期待していただけに残念だ。商業都市ウェンが特殊なのかな?
商隊は、船から荷物を降ろし、馬を繋ぐ。
さて、初めて来たエリシオンを護衛しつつ堪能しよう。
商隊と共に貴族ゲートから入場。
入国管理官にいつも通り冒険者カードを見せて、ギンカを従魔だと説明する。
「そこのお兄さん、両手を出して」
警備兵に声をかけられたので言われた通りする。
無視して拘束されると大変だからな!
「はい」
ガチャ!
「ん!?」
手錠を付けられた。
魔力が少し拡散する。魔法阻害の効果がある様だ。
「奴隷の売買は、Sランク冒険者でも禁止だよ。向こうの詰め所で詳しく聞こうか」
「ちょっ!?奴隷って、誰の事!?」
「そこの白髪のお嬢さんだよ」
「ギンカ?」
またか!またなのか? ギンカ人型が原因か?
「そうだ。君の従魔は、スライムとフェンリスヴォルフだろ?」
「はい、そうです」
「なのに、『彼女は、俺の従魔です』って、バカなの?どう見ても人でしょ。奴隷を誤魔化すにしても他に言い方があるだろ?」
「彼女は、魔人だから仕方ないじゃん!というか、彼女がフェンリスヴォルフだし!!」
「はいはい、そんなウソはいいから。向こうで話そう」
「いや、それ以前に話聞けよ!」
そうこうしてるうちに警備兵の後ろにギンカが来た。
「今、ご主人様を侮辱しませんでしたか?」
「ひぃ!?」
ギンカの爪が伸び、警備兵の背後から首に押し当てられた。
「訂正しなさい。さもなくば、今すぐ首を刎ねますよ」
「すっ、済まない!!」
「よろしい」
警備兵の謝罪を聞いて爪を引っ込めるギンカ。
「ああ、何か悪ぃ。ギンカはこういう娘なんだ勘弁してくれ」
彼の肩に手を置き、軽く謝る。
「分かったよ……って、何で両手が自由になってるんだ!?」
えっ、何故って?
「壊れた」
「そんな軽く言うな!」
「だって、事実だもん!」
石と鉄で出来た手錠は、筋力強化して捻ったら壊れた。
それはもう簡単に。ペキってクッキーが砕けるくらいに。
「魔法は、使えないはずだろ!?」
「それは、俺の魔力が多いからだね」
「はぁ?」
「その手錠は、一定量の魔力までなら拡散させるから魔法の阻害が出来るけど、それ以上になると阻害出来なくなるんだよね」
「なんだと!?」
「そういう事で俺に着けたアンタが悪い」
「おい、どうしてくれんだ!?これ金貨10枚もするんたぞ!」
「自分で払えば?」
「払えるか!どんだけかかると思ってんだ!!」
仕方ない。壊したのは俺だし、払うか。
「はい、金貨10枚。それじゃあ行くね」
冒険者ギルドに砂クジラを持って行かねば。
「待て待て!まだ、話が終わってないだろ!」
「えっ、あんな事されて、まだ人だと思ってるの?」
普通、人は爪が急激に伸びて刃物の様になったりしない。
「ギンカ……魔物体を見せてやってくれ」
「分かりました……ガウッ!」
「ひいぃーー!?」
ギンカが魔物体になって吠えると警備兵は恐怖で顔が引き攣った。
「もう良い?」
「はっ、はい!どうぞ!エリシオンをお楽しみ下さい!!」
時間を食ったが通る事が出来た。次から門を通る時は、ちゃんと魔物体になって貰っておこう。
商隊と分かれて冒険者ギルドへ。
「おい!そこの田舎ーー」
バチッ。
「よし、行こう」
出会い頭に絡まれそうだったので痺れて貰った。田舎って言ったから俺の事だろう。
「なっ!?俺の仲間にーー」
バチッ。
「いい度胸だ!2人の仇!」
バチッ。
「雷の魔法か?耐性のある俺に効かーー」
バチッ。バチッ。
「すみません!すみません!仲間がすみーー」
バチッ。
「あっ、つい流れでやってしまった。すまん」
謝罪されたのにやってしまった。ポーションを振りかけて回復させておこう。
「うう……」
「マジ悪かったって!これで癒やしな」
上級ポーションで痙攣は収まった様だ。では、受付に行こう。
背後に、痙攣した冒険者たちが転がっているが、絡んで来るのが悪い。
「すみません。事前に連絡を入れていたユリシーズです。砂クジラを持って来ました。話は通ってますか?」
自分のSランク冒険者のギルドカードを見せる。
「少々お待ち下さい。ギルドマスターに連絡します」
待つこと、数分。
「貴殿が、ユリシーズ・ヴァーミリオン殿ですか?私がエリシオンのギルドマスターを務めるダダンです!」
「ははぁ……」
陽気な中年で握手した手をめっちゃ振られる。
「砂クジラの件は、聞いています!既に解体師は、揃えていますのでこちらにどうぞ!」
ダダンさんの案内の元、冒険者ギルドの奥へと進んで行く。辿り着いたのは、倉庫の中の様な場所。
広さは、縦500m、横300m、高さ100m。広さは、問題ないけど高さは、大丈夫かこれ?
あっ、開閉するんだ。天井が左右に開き、空が見えた。
「それじゃあ、出します」
アイテムボックスから砂クジラを出すと倉庫のスペースをほとんど埋め尽くした。
「ほおぁ……これ程とは……直接見たのは初めてです」
「素材を少し引取りたいので、自分も解体に参加します。残りは、売りに出しますよ」
「分かりました」
職業スキルを使って解体開始。
皮を5m×5m、肉を200kg、鉱石を500kgほど引き取った。後は、売って問題ないだろう。
「では、後はそちらにお任せします」
「分かりました。君たち、後でリストを頼むよ」
『はい』
返事をした後、皆が一斉に解体を開始した。数は、力か。どんどん解体が進んでいく。
「では、ユーリさん。お話があるので部屋までついて来て下さい」
「了解です」
お話って何だろう? Sランククエストかな?でも、一応護衛中なんだが。疑問に思いながらもマスター室へとついて行った。
「さて、ユーリさんに招待状が届いております」
「招待状?」
「王宮から砂クジラを倒す勇士に会ってみたいと」
「分かりました。お断りします」
「そうでしょうとも。王との繋がりが出来れば……断る?」
「王様とのコネとか、今は要らないので」
「正気ですか!?王からの直接的な招待ですよ!それを断るなんて!」
まぁ、タダ断ったら問題だよな。献上品でも送るか。
「ダダンさん。これを王に送って下さい」
アイテムボックスから出した瓶と蜜柑の籠を出して渡した。
「これは?」
「乳牛族のミルクと蜜柑という果物です。初めての旅で体調が微妙なのを理由に断る事にして、これを献上して下さい」
乳牛族のミルクは、献上品とされる事もあるとマリーが言っていた。これなら問題ないだろう。ついでに、蜜柑も添えよう。まだまだ、沢山あるから。
「乳牛族のミルクですって!?こんな希少な物を!?」
「これなら文句は出ないでしょ?」
「はぁ、確かに。分かりました。それで対応しておきます」
「どうも」
その後、これといった話はなく、砂クジラの代金を受け取って帰った。
砂クジラは、白金貨25枚になった。
数百年振りなことや素材の効果の為、この値段になった。砂クジラの素材には、魔法緩和の効果があるそうだ。
武器としても防具としても一流の物が作成される。
だから、エリクサーより高かった。あれは、採取だけだしな。また、買取だから値段が安い。本来は、その10倍で売っている。
俺は、高額の収益でニコニコしながら冒険者ギルドを後にした。
本来なら王族の一員である主人公を呼ぶには、使者を送るなりしなければなりませんが、冒険者として来ているのでギルドマスターからという事になってます。




