彼らの正体は
既に全員集まっているのが見えた。
「ユーリ様〜!」
「主様!こちらに!」
2人が馬車を止める場所を指示してくれる。
うん? 隣から魔力の歪みを感じた。
「ご主人様、お疲れ様です。荷卸し手伝いに来ました」
空間が歪み、隣の席にギンカが転移してきた。
話には聞いていたが、俺以外で転移使う人初めて見た。
「ご主人様?」
「あっ、何でもないよ。馬車を止めたら手伝ってな」
「はい」
後ろで痙攣してる連中を見る。
転移してからスタンショットを撃ちまくった。
効果は、バルトたちで確認済みなので安心して使える。
大抵、一発で行動不能に出来るのは強い。耐性があっても2〜3発ほどで行動不能に出来る。
これは、優秀だな。雷は、応用も利くし素晴らしい。
リリアたちに指定された位置に馬車を止める。
暇な時に一両目を運転しているダダンさんから教わったのが役に立ちそうだ。記憶を辿りながら教わった通りにやる。
左右の手綱をピンと張り同時に引くと、馬は速度を落とし始めた。減速しながら任意の場所で更に手綱をグイっと引くと止まった。
一応、教えて貰った通りにやったつもりだが、なんとかなるものだな。無事停止出来た。
後の事は、専門の人たちに任せて、コイツらを降ろそう。
適当に掴んで投げ捨てていると視線に気が付いた。
「ヤッホー、さっき振りだな」
視線の主は、追われていた馬車にいた子たちだった。
「さっきは、助けて頂きありがとうございました」
『ありがとうございました』
気を失っていた男性も混ざっている。
無事、毒も傷も治り助かった様だ。
「さて、話を聞こうか」
テーブルを用意して席に着いたのは、俺とカリスさん、ゴーヴァン。後ろにリリアたちが待機している。
相手側は、3人。
まず、ティアと呼ばれる女性。
おそらくメンバーの中で1番身分が高いと思う。メンバーの女性が口を滑らせ『様』付けで呼んでしまった。
次にグレイと呼ばれる青年。
ティアの護衛か? 常に彼女を気にして、一定の範囲内にいる。
最後にライドと呼ばれる青年。
彼も護衛なのか? でも、ティア相手じゃなくもう一人の娘を護ってる印象を受ける。
「まずは、助けて頂きありがとうございます」
向こうの代表は、ティアという女性にした様だ。
「いえ、当然の事をしただけですから」
俺らの代表としてカリスさんが対応する。
「それより一体何故追われていたのですか?」
それなのだ。わざわざ毒矢まで使って襲われていたのだ。
ただ、毒を鑑定したが神経毒で、意識を奪う事のみを重視したものだったのが気になる。
メンバーの1人が死にかけになっていたのは、ただの出血が原因だった。
「それはーー」
話を聞いた結果、彼らの事を簡単に説明するとこうだ。
クズノズク王国の貴族の娘ティア。
そして、貧しい下民出のグレイたち。
ティアは、クズノズク王国の中では良い方の貴族で奴隷にも優しく、皆から慕われていたそうだ。
クズノズク王国が崩壊した事により、無秩序となった領地で奴隷商人たちに捕まりラグス王国の貴族へと売られる事になった。
ラグス王国に入り、スキが出来たのを見計らって従者だったグレイたちが助け逃亡した。
良い事するじゃんと思ったら意外にやましい気持ちがあった。
「これをチャンスに姫と結婚出来ないかなと……」
グレイは、姫に淡い気持ちを寄せていて行動したのだそうだ。
まぁ、そっちの方が共感出来るな。恩義の為!とかでは無くて。
そして、お嬢様の反応はこうだった。
「身分違いの恋に悩んでいましたが解決しました」
なるほど、両思いなのね。おめでとう。
他のメンツは、男性陣の場合、男同士の友情でグレイに協力。女性陣は、お嬢様に恩はあるが彼氏がやるからやった感じだった。
「これからどうしますか?亡命するのなら、ウェンまでなら同行可能ですよ」
「実は、契約しまして……」
「契約?」
「あっ、忘れてた。えっと……これだ。これ」
アイテムボックスから契約書を取り出した。
「ポーションの代金払うまでうちで働くって契約したんですよ。3日ほど働けば払えるでしょうし」
「あの屋敷ですか?契約見せて下さい」
「どうぞ」
「……相変わらず無茶苦茶な。相手に有利過ぎる気がしますが、貴方が良いなら問題有りませんね」
渡した契約書を見聞したカリスは、そう言った。
「まぁ、働いている間に考えておけば良いよ。普通に働けば旅費分くらいも出るだろうし」
「そうさせて貰います」
ユーリは、6人の従業員を手に入れた。
女性陣がティア、カレン、ポプラ。
男性陣がグレイ、ライド、エルドラ。
彼らの同意も得たのでさっそく転移門で案内する。
カリスさんに言って他言無用と周知して貰った。
流石に、この人数が消えたらバレる。だから、堂々と使う事にした。
彼らと共に完成した転移門を通る。
『!?』
彼らは大変驚いた。たぶん、敷地や家ではないはずだ……たぶん。
おそらく、俺が首から上を残して氷漬けにされたからだろう。
「あの、寒いのですが?」
「俺は、使うなって言ったよな? 転移はまだしも転移門はマズイと」
誰を隠そう、我がギルドマスター、ギルさんにやられたのだ。
また、使うと予想して待機していた様だ。
「ごめんって!」
「ごめんで済むか!!バレたらどうするんだ!?」
そこからしっかりお説教されて、今後は転移だけにする事になった。ギルさんのお説教が済んだ後、アイリスたちに紹介する。
「今日からうちで数日間働いてもらう子たちだ。よろしく頼む」
ティアを皮切りに次々と自己紹介が行われた。
「こちらは、ルイさん。俺のお義母さんに当たる」
「よろしくね」
次は、アイリスたちなのだがちょっと言い方を変えよう。
今まで結構、なあなあで流していたからな。この機会にハッキリ言おう。
「この娘たち全員が俺の嫁だ。仲良くしてくれ」
事前に、リリアとイナホも俺の嫁だと説明しておいた。
「おお、やっと吹っ切った!私は、okだよ!」
「私も賛成です。ずっと気がかりだったので」
アイリスとマリーは、賛成。
「良いのでしょうか?ご主人様のご迷惑では?」
「そうです!そんなことされたらユーリさんへの恩を仇で返すことに!」
「迷惑?それならどんどんかけな。背負ってやるよ」
そう言うと2人は何も言えなくなった。表情が緩んでいるから嫌ではない様だ。
その他の娘たちの反応はと言うと。
「ユーリ様への永遠の誓いを捧げます!」
「どんな事があっても決して離れません!」
「わぁ〜い、お兄ちゃんのお嫁さんだ!」
「はいなのです!お嫁になったのです!」
受け入れらている様だ。では、話を戻そう。
「各自、自己紹介してね」
アイリスから順に自己紹介していく。アイリスがスライムな事やマリーとルイさんが竜種な事に驚いていた。
しかし、それ以上に驚かれたのは、ミズキだった。
「ミズキ様!?ホントにミズキ・ブラウン様なのですか!?」
「はい、そうです」
「昔、舞踏会にてお会いして頂いたティア・ファーファシーです!」
「ファーファシー?」
ミズキは、少し熟考すると思い出した様だ。
「あのクズノズク王国の?」
「そうです。あの時は、お茶会にまで呼んで頂き、ありがとうございます。我が国が攻めた時に姿を消したと聞きました。しかし、ミズキ様はここで何を?」
消したのでは無く、同じ国内にいたのだがな。
「今は、ユーリさんにお世話になっています」
「2人は、知り合いなのか?」
「はい、以前お世話になりました」
「なら、ちょうど良かった。ミズキ」
「はい」
「女性陣には、屋敷の掃除や料理を手伝って貰おうと思ったんだが、担当を任せていいか?」
「私がですか?」
「ああ、ダメか?」
「お任せ下さい。手が増えて助かります」
「次は……リリス。男性陣を任せたい」
「農作業の手伝いですか?」
「そうだ。出来るか?」
「大丈夫です」
「よし、問題なさそうだな。困ったらミズキとリリスに聞くといい。彼女たちに担当してもらうからな」
彼らの仕事も決まったから部屋と施設だな。
「部屋は、全員分の空きがあるから各自好きな所に入るといい」
施設の説明は……任せよう。そろそろ戻る時間だし。
「施設は、2人が案内してくれ」
リリスとミズキに頼む事にした。代わりに部屋の整備だけは俺がやろう。
「最後にここでのルールだ」
『………』
彼らの真剣な態度が伝わってくる。
「仲良くする事。気を使い過ぎず家族の様に接する事。それだけだ。まぁ、ゆっくり慣れていけばいいよ」
『はい』
「それじゃあ、戻るから」
アイリスたちとハグしてから戻った。
カリスさんを見つけたので情報の確認を行う。
「全員に直接周知しておきました。これで大丈夫でしょう」
「助かります」
「ユーリさん絡みだから関わりたくないってのが本音でしょうけどね」
「なんです、それ。化け物じゃないんだから〜」
あははと笑う俺に対して、普通にしているからマジっぽい。
2人で話したが、時間があるので商業都市ウェンについて聞いた。
それを元に、購入リストを作成した。明日が楽しみだ。
ここまで長くなりました。次からは通常の2500文字程度になりそうです。