拾った?そんな簡単に言われても!?
自分のテントで休んでいるとカリスさんがやって来た。
「失礼します。ユーリさんはいますか?」
「居ますよ」
「なら、入りますね。実は、うちの子たちがある話をして……」
カリスさんが見たくなかったって顔になった。
「ユーリさん。つかぬ事をお聞きしますが……その白いのどうしたんですか?」
おっ、これが気になるらしい。そっちからだとよく見えないしな。
俺の横にいる白い塊を掴んで見せた。
「拾った!」
「そんな簡単に言わないで下さい!」
「えっ?可愛くない?」
白い塊の正体は、大きな白い犬?
犬とオオカミの中間くらいの顔付きだ。
サイズは、ゴールデンレトリバーより少し大きいくらいかな?
毛並みは、砂で汚れているが近くで見ると真っ白な毛並みなのが分かる。
「それ、魔物ですよ!!」
事前に確認しているがもう一度鑑定しよう。
種族:フェンリスヴォルフ
危険度:S
性別:メス
状態:やや衰弱
アビリティ:エルメラの加護
説明:知性が高く、人語を解する。魔法も巧みに操るとされている。この種族は、義理を重んじる。フェンリスヴォルフの恩返しという物語が存在する程に、その存在は知られている。
エルメラの加護について詳しく見てみると地に接する空間において能力が上昇するらしい。
「知ってるよ。砂漠で死にかけてたから助けた」
どういう訳か、出会った当初は血塗れでボロボロだった。
普通のエリクサーだと問題に成りそうだったので上級ポーションを与えた。そのかいがあってか、死にかけからやや衰弱まで回復した様だ。
後でスキを見て、劣化版エリクサーを取って来よう。悪化しそうなら躊躇なく使う予定だ。
今度から精製水もストックしておこうと思う。あれがあったら直ぐに作れたからね。
「だからって、ふつう魔物を助けますか!?」
それに反応したのは、リリアたちだ。
「ユーリ様なら助けそうですよね。いや、もう助けましたが」
「主様は、アイリスさんと結婚するくらいですしね。敵対しなければ、魔物にも優しいですよ」
「アイリスさんとは?」
「ユーリ様の正妻で、エンペラースライムです」
「エンペラースライム!?」
「しかも、今、お腹に赤ちゃんいます」
「魔物と交配したのですか!?」
ドン引きした顔で見てくる。
「私たちも混ざって、結構な頻度でやってますよ」
「私たちも入れて11人ですね」
よく考えると多いな。それより……。
「よし、2人は少し黙ろうか」
カリスさんがケダモノを見る目になってる。
「襲ったんですか?」
「ちゃんと、同意の上ですから!」
フェンリスヴォルフの手でツッコミを入れた。
俺が襲うかい!むしろ、襲われたよ!!
おっ、思った以上に肉球柔らかいな。この、ぷにぷにがなんとも……。
俺は肉球をモミモミしながら和んだ。
「とりあえず、その話は置いといて。この子は、ホントに大丈夫だって」
可愛いは、正義!もふもふに罪はない!
「何故、そう分かるんですか?」
「フェンリスヴォルフは、義理に厚いから恩を仇で返さないっていうでしょ」
「フェンリスヴォルフ!? アノ物語の?」
「アノがどんな物語か知らないけどな、たぶんそうですよ」
「ホントにフェンリスヴォルフなんですよね?違う魔物とかじゃなくて?」
「合ってるよ。鑑定で見たから」
「なら、何かあった場合は、責任を取って頂けますか?」
おっ、会長の顔付きになったな。
真面目な話の様だ。
「ええ、責任を取ります」
だから、ハッキリ表明した。
「分かりました。では、その魔物の同行を許可します」
「良いんですか?」
「ユーリさんには、刻印など色々して頂いてますしね。それにちゃんと責任を取って頂けるのなら問題有りません」
「ありがとうございます」
「くれぐれも被害が出ない様に気を付けて下さい」
「了解しました」
「それでは、皆に周知しておきますね」
そう言って、カリスさんはテントから出て行った。
さて、そうと決まれば名前を聞くか。
呼び名がないと不便だろ。
「お前さん、名前はなんだい?」
アイリスと同じく知性があるから会話が出来るはず。
「………」
「無いのか?」
「………」
反応がない。生きた屍の様だ。
「お〜い、反応しないと勝手につけるぞ」
「………」
「よし、付けるか!」
反応しないのが悪い。
「何か、候補はないか?」
リリアたちに聞いてみた。
「では、シロロとかは?」
「却下」
何処のカエル型宇宙人だ。
「シロナとかどうです?メスですし」
「シロナね。どうだ?」
「………」
反応がない。それ以前に反応するのか?
「とりあえず、それ候補の1つな」
「じゃあ、ユーリ様はなんと付けるのですか?」
リリアが却下されたから不貞腐れてる。
そうだな。コイツの特徴を見るに……。
「俺なら、銀華」
ピクッ。
うん? 耳が立ったか?
……気のせいか。耳は、倒れている。
「何故それなんですか?」
「メスだから華。そして、毛並みが光に反射したら銀色に見えた。だから、ギンカ」
「なるほど」
「それで良いみたいですね」
「何故?」
「尻尾が揺れてますので」
……マジだ。正面から抱いていたから見えなかった。
「じゃあ、ギンカって呼ぶからな」
「ワフッ……」
良いのか。初めて鳴いたよ。
その後、回収してきたエリクサー劣化版で回復させた。
鑑定結果も健康と出ている。
そして、従魔契約が結ばれてた。
何故?
まぁ、いいか。
傷が癒えたので、リリアたちに協力してもらい風呂で洗う。
汚れのない真っ白な姿に変わった。
そして、風呂好きなのな。
お風呂に入れたら、頭だけ出して長湯してた。
「パッパラパ〜〜♪ギンカが仲間に加わった!」
なんとなくゲームっぽく言ってみた。
アイリスみたいに従魔になったから登録しないとな。
……アイリスみたいに人型になったりして。
普通の従魔を手に入れた。
*******************
翌日。
「ご主人様。起きて下さい」
それほど重くないが、腹の上に重さを感じた。
そして、呼んでる気がして目が覚める。
フィーネかな?彼女以外、俺をご主人様と呼ばないし。
「ほぁ〜、もう朝か?」
「はい、そうです」
朝か、起きね……そういえば、フィーネを連れて来てたっけ?
目を見開き、俺に乗る者へ視線を向けた。
「………」
俺は、起こしに来た人物と目が合い思考が停止した。
その人物は、肩までかかる白髪とフィーネに負けるがデカいといえる胸。
全てを見通す様に見える金の瞳。
褐色の肌には、白い模様が刻まれている。
もう分かると思うが、彼女は一糸纏わぬその姿で俺の上に跨っている。
「……誰?」
家にも商隊にも、こんな女性はいなかった。
「ギンカです。ご主人様」
「なるほど。ギンカね」
ヤバい。まだ、寝惚けているようだ。
うちのギンカは、犬ですよ。
こんな美女では、有りません。
夢だな!
「寝直そう」
夢から覚めねば……。
「ユーリ様。起きられましたか?朝食の準備が出来ています」
「主様。私が、朝食を作りましたのでご安心下さい」
そうか。イナホが作ってくれたのか。
リリアじゃないなら大丈夫。
……あれ?今、見られたらマズくねぇ?
「「………」」
「………」
沈黙する俺たち。
そりゃそうだ。起こしに来たら全裸の美女がいるんだもん。
「ユーリ様。程々にして下さいね。数時間後には、出発するので」
「主様。次は、私も混ぜて下さいね。では、外にいっております」
去ろうとする2人。
「いや、全力でツッコんでよ!?」
何、普通に受け入れてるの!?
少しは、嫉妬してくれませんかね?
「そもそも、この娘誰よ!?」
「ユーリ様が連れ込んだのでは?」
「そんな事するかい!相手ならリリアやイナホがいるだろ!!」
「ご主人様。先程も申しました。私は、ギンカです」
「なぁ、気のせいだよなぁ?俺の知るギンカは犬だよな!」
動揺のあまり、リリアたちを揺さぶる。
「なるほど。魔物体が、良いのですね。では、直ぐに」
美女が煙に包まれたら、俺らの知る犬のギンカがいた。
今の魔法は……生態変換!?
「リリア。イナホ。これは、夢?」
「現実です」
「夢ではありません」
どうやら現実の様だ。