宿街サイカ
首都ペンドラゴンを出て、4日目の昼に宿街サイカに辿り着いた。
宿街なだけあって、意外に人が多い。
特に商人の姿を良く見かける。
「おかしいですね?人が多いのはいつもの事ですが、それにしても多い気が……」
元々、これほどの人数はいないそうだ。
カリスさんの言葉が少し気になるな。
商隊は、宿へと到着した。
事前にカリスさんたちが貸し切ってくれていたそうだ。
チーム毎に一部屋貰えた。助かる。
明日の朝には、関所を越えてラグス王国へ入る予定だ。
関所の先は、広大な砂漠らしいのでしっかり準備をしよう。
「はぁ? すみません。もう一度、お願いします」
部屋で休んでいたらカリスさんが来て、ある事を言った。
「数日の間、関所を越える事が出来そうに有りません」
えっ、なんで?
「何か、起こったのですか?」
「どうやら、関所の先で砂クジラが泳いでいるそうなんです」
「砂クジラって、何?」
「砂丘に棲息する大型の魔物です」
詳しく聞くと、形状はまんまクジラ。
ただし、長い牙が生えている。
背中から良質な鉱物が採取可能。
そして、砂丘を高速で泳ぐ。
ジ○ンですか?
「それがいるから危険で越えられないと?」
「はい、ですので数日待機でお願いします。冒険者ギルドがあるのでクエストを受けられても構いません」
「宿泊費とかは、どうします? 自分で出しましょうか?」
「いえ、それは商会で持ちます。ただ、この街にいる間は、護衛クエストが休みになるのでその分の費用は無しでお願いしたいのです」
だから、クエスト行ってもいいって事か。
「なるほど。分かりました。なら、ここからは自由で構わないのですね?」
一応、確認し返す。
「はい。ただ、夜にミーティングを行うのでそれには参加して下さい」
「了解。では、俺は出てきます。リリアたちを残すので、何かあったら頼って下さい」
「分かりました」
「では、行ってきます」
宿を出て、これからの事を考える。
するべき事としたい事。
まずは、冒険者ギルドか。
俺は、サイカの冒険者ギルドへ向かった。
*******************
カリス・ナベリウスは、悩んでいた。
どうしましょう?
それは、商隊のこれからについてだ。
砂クジラのせいで日程が崩れた。これは、仕方ない。
問題は、維持費である。
大規模な商隊の為、金がかかり過ぎるのだ。
ユーリさんのおかげで、資金には余裕がある。
多少のイレギュラーも、想定内。
しかし、今回の件は、いつまでかかるか分からない。
一度、引き返すべきでしょうか?
「カリスさん。ユーリさんを見ませんでしたか?」
悩んでいたら、ゴーヴァンがやって来た。
「いえ、見ていませんが?どうかしましたか?」
何やら少し慌ててる様だ。
「街である噂が広がってるんです」
「噂ですか?」
「なんでも、Sランク冒険者が砂クジラ討伐の為に一人で関所を越えたと」
「はい?」
なんの冗談です?
砂クジラは、ここ数百年狩られた事のない厄災の魔物ですよ。
狩ろうにも大規模な作戦と人数が必要ですもの。
竜種なら直ぐに倒せますが、場所がラグス王国ですから手を出しません。
「Sランクの冒険者がそんなタイミング良く居るとは思えなかったので」
「確かに彼は出かけましたが、まだ1時間程ですよ」
「そうですか。なら、見間違いでしょう」
彼は、安心した様だ。
『彼は、色々規格外なので見ても動揺せず気を強く持って下さい』
ロゼットから出かけに言われた言葉が頭をよぎる。
彼は、何を見たのかしら?
うんうん、その事はどうでもいいわ。
問題は、彼がホントに砂クジラを狩りに行った?
あはは、そんなまさか。
とりあえず、この話は置いておこう。
「他の冒険者は、どうしてますか?」
「採取などの1日で終わる短期クエストに行くそうです」
「そうですか。ゴーヴァンさんも行かれて構いませんよ」
「いえ、俺たちはそこまで金に困ってないのでゆっくり待たせて貰いますよ」
「分かりました。では、また何かあったらおっしゃって下さい」
「そうします」
「ただいま」
ユーリさんが帰ってきた様だ。
*******************
「おっ、2人がお揃いで。何か、問題でも有りましたか?」
「いえ、雑談を少々。ユーリさんは、何を?」
「俺は、軽くクエストに行ってきましたよ」
「それにしては、早かったですね」
「直ぐに見つかったもので……むしろその後の作業に時間がかかりました」
狩りも直ぐに終わったのにな。
「なら、あの噂は間違いか」
「噂?」
「いえ、こっちの話です」
もったいぶられると少し気になるな。
後で、もう一度聞いてみよう。
「そうだ!2人がいるなら伝えた方がいいですね!」
「何でしょう」
「うちのチームは、飯を食いに遠出するのでミーティング遅れるかもしれません」
「分かりました」
「後、クエストで良い肉が大量に手に入ったので、お裾分けです。焼き肉にでもして下さい。さすがに、商隊の維持費が大変だと思いましてね。あと、ゴーヴァンさんたちもどうぞ」
カリスさんの前に肉の塊を出した。
その魔物の肉は、赤身で牛肉ハラミと大差ない。
「ありがとうございます。助かります」
「俺らも良いんですか?ご馳走になります」
「後は、カリスさん。明日、馬車に刻印させて下さい」
「また、刻印ですか?」
「はい。関所の先は、砂漠なので砂避けの刻印を車輪に施そうと思って」
さっき見てきたが、見渡す限り砂だった。
「それは、助かりますね。代金は、後日で構いませんか?」
「別にいりませんよ。俺が快適に過ごしたいからですし。だから、サービスって事で」
一応、もしもの時の迷惑料のつもりでもある。
加減間違えて戦ってしまった時とかの。
「そうですか」
「あっ、重要な事を忘れてた」
1番忘れてはならない事を忘れていた。
「明後日から関所通れるそうです。それでは、また後で」
ガシッ。
去ろうとしたら2人に腕を掴まれた。
「まっ、待って!?それ、どういう事ですか!?」
あれ? 変な事を言ったか?
「閉鎖されてましたよね!?」
「砂クジラがいなくなったから解放しますよ」
確認の為、通行出来るようになるのは明後日だって。
「砂クジラは、どうなったんですか!?」
「狩っときましたよ」
「「はぁあ!?」」
「砂クジラって、ホントにデカいんですね。でも、動きが単純で意外に弱かったですよ」
見た目は、マジで、ジ○ンぽかった。
動きは、跳ねるか横振りのみ。
「「いやいやいや!」」
「1人で狩ったんですか!?」
おっ、Aランク冒険者。気になるのか。
「1人でいけましたね。延髄に一撃。それからーー」
「それから?」
「胴体を3つにしました。肉が美味いらしいんで」
「……あっ、あの、ユーリさん?」
「にっ、肉とは、まさか?」
「うん、それです」
先程の肉塊を指差す。
俺が倒した砂クジラの肉。
「「えぇ〜っ!?」」
「全部解体出来ないから一部だけ解体して貰いました」
デカい上に、場所が悪かった。
普通の街だから解体師が少なかった。
だから、俺も手伝って後方だけ解体した。
前方と中央は、アイテムボックスの中。
しかも、冒険者ギルドからはラグス王国で解体してくれと言われた。
首都の冒険者ギルドに連絡しとくそうだ。
そんな訳で早く肉が食いたい。
だって、オススメに書いてあったもん。
オススメ:すき焼きにしましょう!すき焼きが至上です!ご飯も取得しましたね!なら、完璧です!!
すき焼きか……良いな!
そして、料理人スキル。
お米が完成したのを知っていた。
「という事で、飯食ってきます」
2人が、呆然としている間に去ろう。
「リリア!イナホ!家に帰るよ!!」
部屋に戻るなり、そう言って転移で家に帰った。
3日振りの我が家だ。
……数日、家を空けただけなのに変化があった。
寂しかったのか?
アイリスにめっちゃ抱き着かれた。
「これ、意外に辛いんだね……。マリーが許可証取った理由が分かったよ」
だから、皆にハグして回った。
リリアとイナホが居るのに、俺も少し寂しかったからだ。
そして、ふっと思った。
転移バレなきゃ、セーフじゃねぇ?
毎日はバレるので、2日置きくらいで帰る事にした。